第4話 聖女様の膝枕

「疲れた……」


 ようやく家に帰ってきた俺はソファにだらりと座り込んだ。


 今日はいつもより濃くて長い1日だった。ずっと見られるし、コソコソ話されてるしで落ち着かないことこの上ない。


 普段あまり注目されることなくひっそり学校生活を送ってある俺にとって今日一日は本当におちつかなかった。


 学校のどこにいっても視線を感じるし、誰かしらにウワサされる。校内に心を安らげる場などなかった。



 まぁこうなったのも怪我をした俺の自業自得か……


 本来ならばあそこでカッコよく誘拐犯二人を撃退できれば良かったのだが俺にそんな力はなくただ一方的にボコされてその挙句助けようとした聖女様にまで迷惑をかけてしまっている。


(今の俺は男としてダメダメだな……)

 

 とりあえずこの怪我を早く治そう。これ以上瀬戸さんに迷惑をかけないためにも。

 

 そんなふうに思っていると俺の目の前にコーヒーが置かれた。


「お疲れのようですね」


 彼女が俺の横に座った。


 するとふわりと良い香りがした。


「うん、ちょっとね」


「その気持ちすごくわかります。私も毎日みられたりしてますから」


 彼女も学校の『聖女様』としてやはり注目されるのだろう。俺なんかよりもずっと視線を感じたりして疲れが溜ま理想だが彼女はもう慣れっこですからと軽く流していた。


 だが彼女も注目されること自体は苦手らしく、普段から周りともかなり距離を置いて接しているようだ。


「しかし本当に情報が伝達するのは早いですね。放課後にはほとんどの生徒が私と月城君が一緒に登校したことを知っていました。」


「中には付き合っているんじゃないかとか噂している人もいたね」


 本当に高校生というのはすぐに色恋沙汰に繋げたがる。まぁそういうことが気になる年頃なのかもしれないがもう少し情報を疑うことを覚えて欲しいものだ。


「そ、そんなことを言っている人がいたんですか!?」


 すると彼女の顔が真っ赤になった。


 もしかしたら嫌な話題だったかなだとしたら申し訳ないことをした。


「結構話題になってたよ」


「そ、そうですか……」


 彼女が顔を隠すように下を向いてしまった。


 もしかしたら不快にさせてしまったかもしれない。


「ごめん……こんな俺と付き合っていると思われるなんて嫌だよね……」


「そんなことありません!」


その時瀬戸さんにしては珍しく大きな声で俺の言葉を否定した。


 彼女の予想外の反応に俺は呆然とめを見開いた。

「そんなこと言わないでください。月城君はカッコよくて、強くて、優しい人です。」


「い、いや流石にそれは……」


「いえ、本当にあなたはいい人ですよ。それに顔だってすごく可愛いと思いますよ?」


 そう言うと彼女は俺の前髪を白く細い手で軽く持ち上げた。


 彼女からまっすぐ見つめられて俺はたまらず視線を逸らした。


 その視線は反則だと思う。


「ほら、こんなにも可愛いじゃないですか」


「か、可愛い?」


「はい、可愛いです」


 そこはどちらかと言うとかっこいいの方がよかったのだが。

 

「ふふ、ではそんな可愛い月城君にご褒美をあげましょう」


 今度は一体何をするのかと思っていると彼女は自分の膝をトントンと叩いた。


 もしかしてこれは膝枕というものなのでは?


「瀬戸さん?」


「いらっしゃい」


 どうやら俺が了承するまでずっと待機しているつもりらしい。こうなったらしょうがない。


 俺は恐る恐る彼女の膝の上に頭を乗せた。


「どうですか?」


「……」


「月城くん?」


「え? あっいや! ちょっとぼっーとしてた。」


 後頭部に伝わる太ももの柔らかい感覚的と真正面に見える大きいふたつの膨らみに思考を完全に支配されかけたがなんとか理性を取り戻した。


「すごくいいよ」


「それはよかったです。」


 最初は変なことで思考がいっぱいだったが時間が少し立つとだんだんと心地よさが大きくなっていく。


 ああ、落ち着く。こんなにも安らかな気持ちは初めてだ。


「よしよし、今日も一日頑張りましたね、えらいです。」


「なんだかあやされてる子供の気分なんですけど……」


「ふふ、月城君は子供のように可愛いですから。よしよし、いい子。いい子。」


 子供を撫でる母親のような優しい手で頭を撫でられ眠気が一気に襲ってくる。


「寝てもいいんですよ?」


「べつに……眠く……なんか……。」


「そんなところも本当に可愛いですね。」


 彼女が嬉しそうに微笑んだのを見て俺は眠気に耐えられず眠りについた。


「おやすみなさい、月城君。いい夢みてくださいね」










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