第39話 勘違い

 楽しかった冬休みが終わり初登校日。


 俺が席に着くと何人かの男女が近寄ってきた。


「ねぇねぇ、やっぱ月城くんって瀬戸さんと付き合ってるの?」


「……なぜそうなる?」


 前の噂はだいぶ治ったかのように見えたのだが……なぜ今になって再び蒸し返されるんだ?


 チラリと瀬戸さんの方を見ると彼女は心配そうにこちらをじっと眺めていた。


 恐らく俺が大勢の人達に囲まれていて何か文句でも言われてるんじゃないかと心配してくれているのだろう、優しい。


「証拠もあるぞ、他クラスの奴が神社で月城と瀬戸さんが初詣していたと言っていた。」


「……」


 油断した……まさか他の生徒に見られていたとは……。


 確かに振袖の瀬戸さんと初詣に行くなんてただの知り合いでは絶対にあり得ないことだ。


 彼らの主張はものすごく筋が通っている。幸いあーんは見られてはいないようでよかった。あれを見られていたらもう確定だっただろう。


「別に付き合ってないよ」


「……そうか、わかった。お前、いい奴だな。」


「え?」


「だって俺達がショックを受けないようにわざとそう答えてくれたんだろ? もう言わずともわかるよ。」


 おい待て、なんかすごいすれ違いが発生しているぞ。このままだと付き合っていると勘違いされそうじゃないか!


 そうなれば瀬戸さんにも迷惑がかかってしまう……それだけは避けたい。


「いや、本当に違くてただ俺と彼女は少し特別な関係というか……」


「ああ、わかったよ月城。特別な関係なんだな。そういうことにしておく」


 これは絶対分かってない奴だ……。


 俺は必死に彼らを説得する方法を模索するがなかなかいい案は思いつかない。


「月城くん、瀬戸さん幸せにしてあげてね!」


「推しの幸せは俺の幸せだ。幸せなら……それでいい。」


「お前なら瀬戸さんに相応しい」


 そして彼らはそのまま自分の先へと戻っていく。


 俺は愕然としながら彼らの背を見送った。



 ◇




「ごめん、俺のせいで周りに変な勘違いを生んでしまった……」


 放課後俺は家に来てくれた瀬戸さんに頭を下げて謝った。


 彼女が望むなら土下座だってしよう。俺は彼女の純白さに泥を塗ってしまったのだから……。


「あれは月城くんのせいではありません。ですのでどうか頭を上げてください。」


 俺が恐る恐る頭を上げるとそこには優しく微笑みかける瀬戸さんの姿があった。


「元はと言えば私が月城くんを初詣に誘ったのが原因ですから月城くんに悲はありません」


「でも……付き合ってるって完全に勘違いされたんだよ?」


 今回のは以前のとは訳が違う。前回は付き合っている疑惑だったが今回はほぼ確定というところまで行ってしまった。学年に広がるのももはや時間の問題だろう。


 その噂が瀬戸さんに与えてしまう影響も相当なものだ。


 だが瀬戸さんは俺の言葉に対し優しく首を横に振った。


「私は気にしていませんよ。それに知らない人と付き合っていると思われるのは嫌ですけど、月城くんと付き合っていると思われるのはむしろ私は嬉しいです。それほど私と月城くんが親密な関係に見えるということじゃないですか?」


 俺は彼女の言葉で鼓動が早くなっているのを感じた。


 彼女は恐らく本心で言ってくれている……まさか嬉しいというのも本当なのか? だとしたら……


「月城くんは私と付き合っていると思われるのは嫌ですか?」


「そ、そんなことない! 瀬戸さんが嫌じゃないなら……俺も嬉しい……かな」


「なら気にすることはもうないじゃないですか、周りになんと思われようと私と月城くんが親密なのは確かなんですから。」


 そう言って彼女は俺の頭の後ろに手を回すと自分の胸に押し付けた。


 顔に柔らかな感触が当たり、非常にまずい体勢だ。このままでは反応してしまったら隠せない。


「確かこうすると月城くんはすごく喜んでくれましたよね?」


「ちょっ! 瀬戸さん!? 当たってるよ!?」


「当たっていいんですよ。今はもう少しだけ抱きしめられてください」


 ああ、ようやくわかった。俺は瀬戸さんのことがいつの間にか好きになっていたのか……それもものすごく。


 俺は彼女の抱擁に暖かさを感じながらしばらく堪能した。

 


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