第38話 みんなでゲーム
「ちょっ! 香織! 今わざとぶつけたでしょ!」
「ふふん、計画通り……」
「二人とも、仲良くしなきゃ、めっ! ですよ」
ゲームを開始して30分ほど経つがなんとか彼女たちはそれなりに楽しんでくれている。
今やっているのは様々なキャラクター達が車に乗って一位を競い合うシンプルなゲームだ。
だがそれ故にアイテムによる妨害など様々要素があり実に奥深いゲームだ。
度々清華さんが水瀬さんに狙われて講義しているがそれも戯れあいと言うような感じで見ていてとても微笑ましい。
ちなみに俺は初戦で勝ってしまったので清華さんにしばらく観戦を言い渡された。
「ふふふ、また……一位♪」
「くっ、まさか香織にここまでやられるなんて……」
レースに負けてしまった清華さんはすごく悔しそうだった。普段はクールで感情を見せないのでここまで感情が見られるのはなんだか新鮮だ。
一方瀬戸さんは初めてのゲームだからか二人が一位2位で競い合っているのに対し、かなり下の方の順位になっていた。
「う〜ん……勝てません……。」
「まぁ、瀬戸さんは初めてだからね。しょうがないよ」
あの二人はよくゲームをするそうだが瀬戸さんは聞いたところによるとあまりゲームなどはしないらしい。
なんなら家にゲームも置いてないとか。
「でも私は二人が楽しんでいるのを見ているだけで楽しいですから。」
「だけどゲームは全力でやった方が楽しいよ。」
「そうなのですか?」
「うんそうだよ。」
瀬戸さんは面倒見が良すぎるあまり、二人が楽しみ、勝つことを優先しているように見えた。
だがやはりゲームはみんなで勝ちを競い合うからこそ楽しいものだ。
「じゃあ月城くん、私に勝ち方を教えてください」
「こんな俺でよければいくらでも教えるよ。瀬戸さんに頼られるのは嬉しいし」
「ふふ、よろしくお願いします月城くん」
瀬戸さんにアイテムを使うタイミングや細かいテクニックを教えて数分後再び試合が始まった。
そして結果は———
「やった! 勝てました!」
「真奈いきなり強くなったわね」
「むぅ……大人気ない……」
「香織さっき私にマウント取りまくってたわよね?」
今回はほとんど瀬戸さんの圧勝だった。やはり元々なんでもできる系だからか上達もすごく早かった。
盛り上がる彼女達を見ていると瀬戸さんがこちらに向かって嬉しそうに微笑みながら口パクで言った。
『ありがとうございます』
◇
あれからジャンルを変えたりしながらしばらくゲームをして2時間。
水瀬さんは疲れてしまったのかゲームを終えた途端倒れるように寝てしまった。
今は瀬戸さんの膝でなんとも気持ち良さそうな表情でスヤスヤと眠っている。
「全く、あれだけ私にマウント取っておいて終わったら寝ちゃうなんて……本当まだまだ子供ね」
「か、かわいすぎます……月城くん、私のスマホを取ってください!」」
「う、うん……はい」
スマホを渡すと瀬戸さんは自分の膝の上で気持ち良さそうに眠る水瀬さんの写真を何枚も撮っていた。
そしてなんとも幸せそうな表情でその写真を眺めている。
前寝た時俺もあんなふうに取られてないよな……
「あ、私そろそろ夕飯の準備をしないと美来ちゃん達も食べていきますよね」
「ええ、真奈の料理とってもおいしいもの。是非お願いしたいわ。」
「わかりました、でもどうしましょう……香織ちゃんが……」
「なら枕役は私が変わるわ、真奈は準備頑張って」
「そうですね、美来ちゃんお願いします」
瀬戸さんはかなり名残惜しそうに水瀬さんの顔を見つめると清華さんに交代した。
幸い交代時にも水瀬さんは起きることはなく今も清花さんの膝の上でスヤスヤと安心したようにぐっすりと眠っている。
まさに眠っている妖精という感じだ。
「ほんとこの子ったらすぐ寝ちゃうんだから」
「水瀬さんはよく寝ちゃうの?」
「ええ、私達だけで遊ぶ時も遊び疲れるとすぐ寝てしまうわ。お陰で毎回宮澤さんに送ってもらってるけどね。」
「二人といると安心して寝ちゃうんじゃない?」
「そうかも知れないわね」
清華さんは視線を膝下の水瀬さんに移し、その頭を優しく撫でる。すると水瀬さんも心地よさそうに微笑んでいた。
先程もそうだったがやはり美少女が美少女を膝枕するのはすごく映える。ここだけ尊み
が溢れていそうだ。
「ところできいたわよ、ちゃんとクリスマスプレゼントも渡せたそうね。案外やるじゃない」
「まぁ、いつもお世話になってるし」
「しかも二人きりでクリスマスを過ごしたとか……まるで恋人同士の距離感じゃない。」
まさか清華さんにここまで情報が伝わってしまっていたとは……今度から瀬戸さんには清華さんに言ってほしくないことしっかり言っておこう。じゃないとこの人に毎回いじられてしまう。
まぁそれでもこの人なら書き出しそうだが。
「真奈、喜んでたわよ。『月城君とのクリスマスは過去一番楽しかった』って言ってたわ。」
「瀬戸さんがそんなことを……」
「ええ、すごく幸せそうだったわ。あんなに幸せそうなあの子は本当に久しぶりに見たわ。」
「……瀬戸さんの過去の件、由紀さんから聞いたよ。」
「そう、由紀さんもあなたを信頼したのね。私はあの時怖くてあの子を助けられなかった……それを私は今でもものすごく悔やんでる。」
そう話す清華さんの目には後悔の色が見えた。
そしてその瞳が俺をまっすぐ捉える。
「これは……私の勝手なお願い。あの子をこれから先も守ってあげて、あの時一歩を踏み出せなかった私と違ってあなたにはその勇気がある。」
「……ああ、もちろん俺は瀬戸さんを必ず瀬戸さんを守る。だけど清華さんも十分瀬戸さんの支えになっていると思うよ。」
「私が?」
「例え、体が無事でも心が傷ついたままだと幸せな日々は送れない。だけど今の瀬戸さんはそれができている。それは清華さんと水瀬さんの影響が大きいと思うよ。」
昔誘拐された時も清華さん達が一緒にいてくれたからこそ彼女は前を向いて進むことができた。
やはり友達というのは素晴らしいものだな。
「ふふ、まさかあなたに元気づけられるとはね……でもありがとう。お陰で私もあの子の力になれていると思えたわ」
「俺は特に何もしていないよ」
「ほんと素直じゃないのね」
そう言って笑う清華さんの笑顔は普段より明るく楽しそうだった。
「二人とも、出来上なったので運んでもらえると……美来ちゃんどうかしたんですか?」
「いえ、なんでもないわ。手伝う」
「俺も手伝うよ」
「ありがとうございます、ではこちらを」
俺と清華さんは改めて瀬戸さんのこの笑顔を守っていこうと心に誓った。
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