第23話 聖女様と約束

 少しでも強くなると決心した俺は早速家に帰るなり、近くのジムについて調べていた。


「ここいいかも」


 見つけたのは家から徒歩10分ほどにあるボクシングジムと普通のトレーニングジムが一緒になっている総合ジムだった。


 初心者でも大丈夫って書いてあるし、大丈夫だよな


 少しでも筋肉をつけて強くなりたい俺にはぴったりのジムだ。


「瀬戸さんにも相談しなきゃな」


 ジムに通うとなれば夜いないことも多い。毎日夕飯を作りにきてくれる彼女に伝えるのは最優先事項だろう。


「よし、明日ちゃんと伝えよう。」



 ◇



「ジムですか?」


 夕飯を作りにきてくれた瀬戸さんにジムの話をするとなんとも不思議そうな顔をされた。


「う、うん、ちょっと鍛えてかっこよくなりたいなーと思ってさ」


「月城くんは今のままで十分かっこいいですよ?」


「あ、ありがとう……」


 この人は不意に爆弾発言をしてくるから本当に心臓に悪い。


 思わず少しニヤついてしまいそうな顔を直すように思考を落ち着かせた。


「も、もっと筋肉をつけたいし」


「確かに月城くんは少々細いですもんね」


 確かに細いけど……瀬戸さんに言われるとすごく心に刺さる……。


 だがこれでジムに行きたい理由はちゃんと伝えられた。


 本当はもっと強くなって瀬戸さんを守りたいからなんて口が裂けても言えない


「わかりました、ジム通い頑張ってくださいね。私も陰ながら応援してますので」


「ありがとう、頑張るよ」


「ですが月城くん、夕飯はどうしますか?」


「ああ、それならカップ麺とかゼリーがーー」


「月城くん、それはいけませんよ」


 彼女の目が真剣な目に変わった。


 ああ、彼女はこんなにも俺のことを気遣ってくれるのか……俺は幸せ者だな。

 

「冗談、ちゃんと考えてあるよ」


 俺は瀬戸さんに渡すように用意しておいた合鍵を差し出した。


「え? これ合鍵ですよね? 私なんかに渡してしまっていいんですか?」


「なんかじゃないよ、瀬戸さんだからこそ渡せるんだ。俺がいない間は自由にしてもらっても大丈夫だから。」


「そう言っていただけると嬉しいですが……本当にいいんですか?」

 

「うん、それに持ってた方が便利でしょ?」


「それはそうですけど……月城君、将来詐欺とかに騙されないように気をつけてくださいね。」


「う、うん」


 そんなに騙されやすそうに見えるかな俺?


「ジムには明日から行くんですか?」


「うん、そのつもりだよ」


「では月城くん、ジムに行くにあたって一つ約束して欲しいことがあります。」


「約束?」


 俺が不思議そうに聞き返すと彼女は俺に小指を差し出してきた。


「絶対に無理だけはしないでください、もし月城くんが怪我や体調不良になったら私はーー」


 瀬戸さんは悲しいような、寂しいような表情で不安そうだった。


 そう、だったな。俺は彼女にこんな表情じゃなくて笑ってほしくて強くなろうと思ったんだ。


「わかったよ、瀬戸さん。無理は絶対にしない。」


 俺は彼女に小指を差し出した。


「約束だ。」


「はい、約束です!」


 彼女が嬉しそうに笑う姿を見て俺はほっとした。


 やっぱり瀬戸さんには笑顔が一番似合ってる。

















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