第22話 聖女様の過去
由紀さんは記憶を思い起すように語り始めた。
「あれは今から8年前のこと。当時あの子は小学生で毎日美来ちゃんと香織ちゃんと一緒に学校へ行っていたわ。毎日楽しそうであの子は毎日笑っていた。だけどそんなある日あの子に……」
その時由紀さんはなぜかいきなりトラウマを思い出したかのように顔が真っ青になり目からは涙が流れていた。
「大丈夫ですか!」
「……ええ、ごめんなさい。ちょっと思い出しちゃって……」
こんなトラウマになるような出来事って……一体どんな……
この反応は普通ではない。恐らく俺が想像もできないほど由紀さんにとってショックな出来事だったことが伺える。
「辛いようなら話さなくていいですから」
「いいえ、あなたには知っておいてほしいの。」
由紀さんは心を整えるように大きく深呼吸をした。
「……もう大丈夫よ、続けましょう。」
由紀さんは落ち着きを取り戻し、話を続ける。
「ある日公園でかくれんぼをして遊んでいたあの子を誘拐班達が連れ去ったの。」
「え……」
俺は衝撃の事実に愕然とした。
まさか……過去に誘拐されていたなんて……
「その日私は家であの子の帰りをまっていたの。だけど一向に帰ってこないから不安に思って学校に電話しようとした時私の元に駆け足で速水がやってきたの「お嬢様が……」って私はそれを聞て全身に悪寒が走ったわ。あの子に何かあったんだって。」
その時の後悔を思い出すかのように由紀さんは拳を力強く握った。
「速水についていくと玄関に美来ちゃんと香織ちゃんがいたの。あの子たちは泣きながら私に「ごめんなさい……ごめんなさい」と謝ってきたわ。私は二人を落ち着かせて事情を聞いたの。」
「……」
「そして真奈が誘拐されたことがわかった。初めて私は自分達がお金を持っていることを悔やんだわ。そのせいであの子が攫われてしまったんだもの。」
その時瀬戸さんを狙った男達もやはり金目当てだったことに俺は心底腹がたった。
なぜ金が欲しい故に人の大切な子供を奪えるんだ!
怒りに自然と眉間に皺がより手に力が入る。
「私は真っ先そのことを主人に伝えたわ。そしたら主人は「今すぐ探してくる」と言って電話を切ってしまったわ。まだ居場所もわからないのにね。でもあの人は自分の持ちえるコネを全て使って犯人達の居場所を突き止めようとした。」
「……場所はわかったんですか?」
「ええ、犯人達からの電話を逆探知して特定したらしいわ。そして場所がわかるや否や主人はすぐに車に乗り込んでその場所へと向かったの。警察より速く」
我が子の身を誰よりも案じ真っ先に向かう。それは娘を何よりも愛している証拠だ。
「そして主人は場所に着くとその場にいた誘拐犯達を全員倒してしまったの。本当にすごい人よね」
すごいどころじゃない。大人三人相手に一方的に圧勝できるなんてプロの格闘家だって厳しいはずだ。
それを成してしまうのは瀬戸さんのお父さんがそれほど強いということだろう。
「そしてうちに帰ってきたあの人はしっかりと真奈を抱き抱えていたの。安心するように眠っているあの子を見て私は心の底から安心してあの子を抱きしめたわもう二度とこんな目には遭わないようにって」
絶望している中現れて誘拐犯を全員倒した瀬戸さんのお父さんは彼女にとってヒーローそのものだっただろう。
それに比べて俺は……あの時も瀬戸さんは絶望していただろうに……助けてあげることもできずただただ痛ぶられただけだ。
「すごいですねご主人は……」
「何を言っているの? あなただって私は主人と同じくらいすごいと思うわ。」
「俺がですか……」
「あの時もしまたあの子が誘拐されてしまったらまた主人が助けに行ける確証はどこにもない。それをあなたは未然に防いでくれた。これはとてもすごいことよ」
「すごいこと……」
「ええ、そうよ。主人も貴方には感謝していたわ。だから自信をもって。あなたはあの子を守ったのよ。」
優しく励ますその声はどこか瀬戸さんを感じさせた。
「そして頼みがあるの。これからもあの子のことを守ってほしい。これはあなたにしか頼めないの。」
こんな俺に彼女をこの先も守れる確証があるのだろうか? と今でも思う。
だが守れるかじゃない、守るんだ絶対に俺がどうなろうとーー
「わかりました、瀬戸さんは俺が守ります。」
「ありがとう、あなたならそう言ってくれると思っていたわ。娘をよろくしね。」
なんだか結婚の時の挨拶のような感じになってしまっているが……そこは突っ込まないでおこう。
そして話が終わったタイミングで扉が開いた。
「二人とも終わりました?」
「ええ、今終わったところよ」
「何話してたんですか?」
「秘密よ。ね、月城くん?」
「え、あ、はい!」
「怪しいです、月城くん! 教えてください!」
「いいや何もないよ」
強くなろう。
彼女の笑顔を守るために。
【あとがき】
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