第48話 甘やかし返し

「じゃ、じゃあ月城くん……私にも膝枕をしていただけますか?」


 少し恥ずかしそうに顔を赤らめた瀬戸さんがまさかの要望を告げた。


「え、膝枕?」


「は、はい……駄目ですか?」


「いや、全然大丈夫だよ。だけどいいの? 俺の膝はすごく寝心地悪いと思うけど」


 女の子瀬戸さんの膝と違い男の俺の膝ではかなり柔らかさが違う。


 恐らく岩に寝るような感覚を味合わせてしまうことになる。

 

「いえ、絶対寝心地がいいので大丈夫です」


 だが彼女は何か確信したように自信たっぷりに言う。


 何でそんなに自信たっぷりなんだろうか?


「じゃあ月城くん、膝に頭を乗せてもいいですか?」


「え、もう始まるの?」


「はい、少しでも長く月城くんの膝枕を堪能したいんです!」


「準備するからちょっとまってね」


 俺はソファの脇に置いてあったタオルを手に取り自分の膝の上に綺麗に敷いた。


 こうしておけば俺の硬い膝でも少しは寝心地が良くなるだろう。


「ふふ、ありがとうございます気遣ってくれて」


「瀬戸さんを硬い膝に寝かすわけにはいかないからね」


「月城くんのそういう自然に気遣いができる所好きです」


 好きな人から発せられた好きという言葉に体が少しだけ熱くなった。


 その不意打ちは反則だろ……


 俺が少し目を逸らすと彼女はそんな俺の様子を楽しむかのようにいたずらっぽく微笑んでいる。


「ふふ、かわいい」


「……」


「そうやって不服そうに見つめる瞳も好きですよ」


 ここにきて再びの好きと言う言葉。まずいこのままだとずっと瀬戸さんのターンだ!


 俺は打開すべく自分の膝を軽く叩く。


「瀬戸さん、いいよ」


 すると彼女の表情に少し緊張が生まれた。


「で、では月城くん、失礼します」


「うん」


 そしてゆっくりと瀬戸さんの頭が俺の膝に降ろされた。


 膝下を見ると少し顔を赤らめて瀬戸さんがこちらをじっと見つめている。


「どう? 寝心地は」


「……すごくいいです」


「そう? ならよかった。」


 その言葉通り瀬戸さんは俺の膝の上で安心し切ったような表情で目を細めている。


 こんな油断した表情の瀬戸さんを見ていると頭を撫でて甘やかしたくなる衝動に駆られた。


「瀬戸さん、頭を撫でてもいい?」


「え? 頭をですか?」


「うん、いつも瀬戸さんが俺にしてくれるからさ。俺も瀬戸さんにしてあげたいなって」


「い、いえ! 大丈夫です!」


 彼女そう言っているがかなり惜しむような表情をしていてとてもわかりやすい。


「遠慮しなくていいよ」


「じゃあお願い……します」


「ありがと、じゃあ撫でさせてもらうね」


 ゆっくりと瀬戸さんの頭に触れる。


 初めて触る瀬戸さんの髪は見た目以上にサラサラで髪一本一本が美しく輝いていた。


 この美しい髪は彼女の努力の賜物なのだろう。こんな美しい黒髪を持つ人は彼女くらいだ。


「本当に瀬戸さんの髪は綺麗だね。」


「なんだか……恥ずかしいです」


「俺は好きだよ瀬戸さんの髪。」

 

 俺は彼女の真似をして彼女にも好きと言ってみる。すると彼女の顔が一気に真っ赤になった。


 どうやら彼女も好きと言われることに耐性がないようだ。


「月城くん……それは反則です」


「照れる瀬戸さんも可愛いね」


「……いじわる」


 不服そうにしている彼女が愛おしくてさらに頭を撫でれば「むぅ」と可愛らしく頬を膨らませるのでそんな彼女をさらに可愛らしいと思いながら俺は頭を撫で続けた。










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