第9話 聖女様の涙


 学校が終わり帰ろうと中庭ぞいを通ろうとするとそこには見覚えのある少女がいた。


「瀬戸さん? なんでこんなところに」


 声をかけようと近寄ろうとすると瀬戸さんに近づく気配を感じ、物陰に隠れた。


(あれは……バスケ部の佐々木?)


 現れたのはバスケ部のエース佐々木京也。イケメンでスポーツ万能ないわゆるモテ男だ。


 そんな佐々木が一体瀬戸さんにになんのようだ?


「聖女様、俺と付き合ってほしいんだ。どう?」


 なるほど告白か……瀬戸さんならこういうのは本当に日常茶飯事なんだろう。


 ていうか佐々木って2ヶ月くらい前にバレー部の子と付き合ってたはずなんだが……


(もう別れたのか……)


 本当に陽キャの考えることはわからないな。何故そんなに女性をとっかえたがるのか


 まぁ、流石に瀬戸さんの答えも決まっているだろう。


「ごめんなさい、あなたとは付き合えません。」


 瀬戸さんの答えは俺の予測通り断りの返事だった。


「はは、聖女様も冗談うまいね、俺の告白を断るなんて。で本当はどうなの?」


「いえ、冗談などではなく。本当にお断りします。」


「えぇ冷たいなー、もっと仲良くしようよ」


「しつこいと女の子に嫌われますよ」


「おお、こっわ、まあまあ、そう熱くなんないでさ。今からお茶でも行かない? 返事はその後でいいからさ」


 佐々木は許可もなしに瀬戸さんの肩を掴んだ。


 そしてそのまま無理矢理彼女を連れて行こうしている。


「ちょっ! 本当にやめてください!」


「えーいいじゃん行こ行こ」


「何度も断ったじゃないですか!」


「俺奢るからさ、良くね?」


 彼女の目には涙が滲んでいた。


 そこで俺の中で完全に佐々木は敵に変わった。


 俺は急ぎ足で二人の元へと行くと彼女を連れて行こうとする佐々木の腕を俺は振り払った。


「その手を離せ、彼女嫌がってるだろ。」


「つ、月城くん!?」


「あぁ? なんだよインキャ邪魔すんな」


 佐々木は自分の思惑が邪魔されたことがよほど嫌だったようで鋭い眼光で俺を睨みつける。


 そういえば瀬戸さんが誘拐されそうになってた時もこんな状況だったか……あのおっさんたちと比べるとこいつなんか細すぎて全然怖くないな。


「相手の意思を無視して自分の思い通りにしようとするのはやめろ。」


「テメェには関係ねぇだろ!」


「あるないの問題じゃない。俺は人として当たり前のことを言っている。そもそも告白ってのはな、その人のことが好きで好きでたまらない人がその想いを相手に伝えて必ずその人を幸せにするっていう誓いをするためのものだ。相手を涙目にさせるようなものじゃねぇんだよ!」


「こ、この糞インキャが……この俺にさしずしてんじゃねぇ!」


「はぁ、話し合いが通じない奴は本当に面倒くさいな。」


「なんだと!」


 どうしてこんな奴がモテているのかが本当に理解できない。彼女を幸せにする保証がないやつなど……


 俺は佐々木の目を怒りの目つきで睨みつけながら奴に言い放った。


「二度と彼女に近寄るな、今度同じようなことをしたら今度は通報するぞ。」


 数秒やつを睨みつけると奴は目を逸らしそのままかえっていった。


「チッ! クソインキャが! 覚えておけよ!」


「勝手に言ってろ。」


 全く、本当にあんなのがバスケ部のエースなのか、まぁどうでもいいが。


 瀬戸さんの顔を見ると先ほどまで滲んでいた涙はすっかり乾いていた。


「大丈夫? 瀬戸さん」


「つ、月城……くん……怖かった」


 再び彼女の目から涙が滲みついにはボロボロと落ち始めてしまった。


「ごめんもっと早くとめられなくて……でももう大丈夫だから。大丈夫。大丈夫。」


 俺はいつも彼女がやってくれるようなやり方で彼女の頭を優しく撫でながら安心させる。


 しばらくして彼女は少し落ち着くと今は俺が買ってきたココアをベンチに座りながらちびちびとのんでいる。


「また……たすけられてしまいましたね」


「何言ってるんだ、いつも助かってるのは俺の方だよ。」


「で、ですが……私は当然のことをしたまでで」


「なら俺も人として当たり前のことをしただけだ。これで同じだろ?」


 すると彼女は驚いたような顔をしてから嬉しそうに微笑んだ。


「そうでしたね……月城君はそういう人でしたね。私を助けてくれた時から」


 そしてココアを飲み終えるとベンチから立ち上がった。


「では帰りましょうか。」


「ああ、一緒に行くよ」


 俺も立ち上がり彼女に続く。


「月城君」


ふとまえを歩いていた彼女が止まった。


 そしてゆっくりとこちらに振り向く。


「今日は助けてくれてありがとうございます! 助けてくれた時すっごくかっこよかったですよ。」


 そういたずらっぽくいうと再び彼女前を向いて歩き始めた。


「やれやれ、せっかく最後かっこよく決めたのに……でもちゃんと受け取っておくよ。」


 俺はしっかりと彼女からのお礼を胸にに刻み彼女の後を追った。



 






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