魔法少女の部活動

「こんにちは、鈴木モブ子です」

 おさげ髪の女子が言った。

「こんにちは、金田モブ美です」

 ワンレンの女子が言った。二人とも、見ての通りモブキャラだ。

「ふたりとも、魔法研究会に入ってくれるって! 希ちゃんも含めて五人になるから、部活に昇進できるー」

 茜が言った。いつのものように多目的教室を借りていた。

「ようこそ」

 明が歓迎した。希は可愛らしく拍手した。

「あとは、顧問になってくれる先生だね」

 茜がキラキラと眩しい瞳で明と希を交互に見た。

「誰かいるかな?」

 明が問いかけると、

「うちの担任はどうかな」

 希が答えた。

「去年までは美術部の顧問をしていたけれど、新任の先生が美術部の顧問に代わったので、暇そうにしている」

「じゃあ、早速、声かけてみようか」

 五人はぞろぞろと連れ立って職員室に向かった。


「魔法研究会ねぇ……」

 ヨレヨレのグレイのスーツを着た男が言った。希の担任教師の小橋だ。けだるい目つきは生来のものなのだが、第一印象はかなり悪い。

「どういう内容の活動をするんだ?」

「魔法について、うーんと考えます」

 茜が言った。

「なんだよ、それ」

 小橋は苦笑した。

「こちらをどうぞ」

 明が以前借りてきた本(※第12部分を参照)を渡した。

「ふむ」

 五分ほど小橋はページを繰って、ためつすがめつ。

「まあ、いいだろう」

「え、じゃあ」

「受けてやる」

「やった!」

 茜が小躍りした。


「さて、部として動くためには、場所も必要だな。先生、ちょっといいですか」

 小橋が体育教師に声をかけた。

「おう。なんだ」

 彼は胸筋を動かしながら近づいてきた。

「軟式野球愛好部の部室、もう使われていないですよね?」

「ああ、もう部員はいないからな」

「この子たちが使って問題ないですか? 部活動に使います」

 敢えて活動内容に触れないのは、体育教師の頭が固いと認識しているからだろう。

「いいと思うよ」

「ありがとうございます」


 元・軟式野球愛好部の部室は校舎裏の井戸近くにあった。ゴミが散乱していて埃っぽい上に、思春期の少年特有のすえた臭いがする。

「これは大変そうね」

 むせながら明が言った。

「あ、去年の週刊少年マ〇ジンだ! ”一歩”を読もうかな」

 一歩とは、”一日一善歩みを止めない”というタイトルの漫画である。

「汚いから触るのやめなさい」

 明はピシャリと言った。

「先輩のケチ! 名作なのに!」

「そういう問題じゃないと思うよ。茜ちゃん」

 希がおっとりと窘めた。

「はーい」

「始めるわよ」

 明は部室入口とは逆の北側を整理および掃除した。茜は西側を、希は東側を担当した。モブキャラ二人は部室周りを掃除していた。

 しばらく掃除に集中していたが、茜は徐々に気がそぞろになり、週刊誌を手に取っていた。明が注意しようと近づいた刹那だった。

「きゃあ」

 外から二名の女子の悲鳴が聞こえた。


 茜、明、希の三人が外に出ると、井戸から女の幽霊が出ていた。

「いちまーい、にーまーい、さんまーい」

 そこまでカウントしたところで、モブキャラ二人は

「今日で退部させていただきまーす」

 と叫んで逃げていった。

「あれ、また出たの」

 変身しながら茜が言った。

「知っているの?」

 変身しながら明が聞くと、茜は頷いた。

「うん。一度、麗ちゃんと二人で倒したはずなんだけど、おかしいなぁ」

「何度も同じタイプがでる可能性があるってことね」

「ろくまーい、ななまーい、はちまーい、きゅうまーい」

 女の幽霊はマイペースにカウントしていた。

「ない、ない。一枚足りない。”ソイバーマカオセット”の復刻ブルーレイディスクがなーーーーい」

「ネットで買えばいいじゃん」

 明がツッコミを入れた。

「あ、先輩。それ、この幽霊には禁句なんです」

 茜が教えた。

「転売ヤ-のものなんて、買えるかー!」

 幽霊は明にまとわりついたが、

「はいはい」

 とあしらって、手のひらから小さなブラックホールのようなものを作り出し、掃除機のように吸い取ってしまった。

「掃除中で忙しいんだから、空気読みな」


 * * * * *


 翌日、いつものように中庭で昼食をとっていた。

「なるほど。それで部員候補がいなくなったわけね」

 前日の経緯を聞き、麗が言った。今日の麗のお弁当にはシャインマスカットが入っていて、豪華だ。

「ふりだしに戻る」

 明は肩を竦めた。

「先輩が口うるさいせいだよー」

 茜が茶化す。

「どう考えても幽霊のせいで、私は関係ないでしょうが」

「そこなのよね」

 麗が深刻な顔で言った。

「一度倒したはずなのに、何故現れたのかしら……」

「似ているけど、実は違う人とか? なくしたディスクも違うみたいだったし」

 明が応えた。

「希ちゃんは、どう思って?」

 麗は希に話をふった。

「わ、私はみんなの仲間になったばかりで何もわからなくて……」

 希は目を伏せた。

「しかし、残念だったわね。部になれなくて」

「うん」と茜。

 珍しく消沈した表情を浮かべたので、麗も明も痛々しく感じた。

「しょうがないわね」

 麗は決意したように立ち上がった。

「私が、入るわ」

「え、いいの!?」

 途端に茜の顔は明るくなった。

「もちろん。茶道部とはかけ持ちになるけれど、それでよければ」

「いえーい」

 茜は麗とハイタッチするが、

「でも、一人足りない」

 ふたたび表情が曇った。

「それなら問題ないわ」

「なんで?」と明。

「私の運転手の横田さん、彼の妹さん、この学園の生徒ですわ。彼女はまだ部を決めてないようですので、入っていただきます」

「ナイスあいであ!」

 茜が喜ぶ。

「それ、ある意味、パワハラでは」

 明は冷ややかだ。

「いいな」

 ポツリと希が言った。

「ん、なにかしら」

「みんなとこうやって過ごせるのは楽しいなって。私、それほど交友関係が広いタイプじゃなかったから……」

 希ははにかみながら言った。

「あら、かわいい」

 麗は希を抱きしめた。

「あー、ずるい。麗ちゃん、私にも!」

 茜が割り込んだ。

「やれやれ」

 明は嘆息した。

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