魔法少女と使者(後編)
「理事長、例のメールは見ましたか?」
誠が聞いた。最終日、またしても彼は理事長室を訪問し、ソファに座っていた。
「うむ。大変興味深い内容だね」
理事長は勿体ぶったように顎髭を触った。
「日向野さんに、あのような秘密があったとはね。資料に目を通して、腑に落ちたよ」
彼は笑顔を作り、言う。
「魔法少女たちには、どこまで教えたかね?」
「いえ、まだ、何も」
誠は居ずまいを正した。
「まあ、言わないことに越したことはない。――麗は聞きたがりなのだが、大丈夫だったのかね」
「はい。どうやら僕を嫌っているようで、あまり喋りたくないようです」
誠は苦虫を噛み潰したような表情をした。
「なるほど」
理事長はニヒルな笑みを見せた。
* * * * *
いつも通り中庭でお弁当を広げる少女たち。
麗は三日目となると厳しくなったのか、本日はベーシックなお弁当だった。
「さすがに、三日連続で重箱はきついわ。食べるのも作るのも」
と彼女はクールビューティに笑った。
「そういえば」
希が小松菜の胡麻和えと嚥下すると、言った。
「うちの担任の小橋、そろそろ退院するらしいよ」
「あら、そうなの」
麗が相槌を打った刹那、
「じゃあ、魔法研究部で、退院パーティしないとね」
茜がウキウキして言った。祝う気持ちよりも美味しいものを食べたいという欲求でパーティをしたいようだ。
「なにか楽しい話でもしているのかい?」
誠が現れた。
「……」
途端に茜は沈黙し、麗はそっぽを向いた。
「お兄ちゃん、また来たの」
希はゲンナリしていた。
「君たちの、魔法少女に耳よりな話をもってきたのにな~」
「ちょっと、やめて」
希は彼の話を遮った。
「私も、この場所で、そのような話はやめていただきたいわ」
麗も同調した。
「はあ。そうか。では、僕自身の能力を話すのは問題ないかな?」
少女たちは「Yes」も「No」も言わないが、構わず誠は続けた。
「僕は変身こそできないが、何故かモンスターたちとコミュニケーションがとれる。それは昨日見たよね?」
彼は聞くが、誰も頷かない。
「まあ、いい。そのスキルがあるせいか、カザマ学園の理事長に気に入られてね。ちなみに、カザマ学園も同じ研究施設があるし、同じように化け物は出るよ」
「……」
茜は相変わらず沈黙を貫く。麗は耳だけを傾けていた。希だけが複雑な表情で誠を見ていた。
「そのスキルの反動のせいか、君たちのような魔法を使える少女たちからは嫌われるようだね。一般的な女性には好かれるのだが」
彼は前髪を掻きあげた。
「その性癖のせいで嫌われるのでは」
麗は小声で毒づいた。
「え、ちょっと待って。お兄ちゃん」
希が戸惑った顔をして、兄の話を止めた。
「ということは、あっちの学園にも私たちみたいな子たちがいるの?」
「そうだよ」
彼は妹に慈愛をこめた表情で頷いた。
「え、知らなかった……」
希は驚愕していたが、麗は半ば予想していたことだったので驚きはなかった。茜は話の流れをわかっているかどうか不明で、空を眺めていた。
十秒ほどの沈黙が流れ、茜は唐突にポロリと泣いた。
「明先輩に会いたい」
* * * * *
放課後、部室で三人は小橋の退院パーティの会議をしていた。
「会場はここでいいとして、やっぱケーキだよね!」
茜が明るく言った。さきほどまで泣いていたとは思わせない言動だ。
「美味しいケーキ屋さんで購入するか、自分たちで作るか、どちらがいいかしらん」
麗は顎に手を宛て、首を捻った。
「うーん」
希も同じく首を捻った。
「そういえば、一度食べたことあるけど、K市にあるメーポルハウスも美味しいわ」
麗が言うと、
「あ、あそこ美味しいよね。私はデパートにある支店の方だけど、美味しかった」
希が垂涎するかの如く反応した。
その後も女子トークをしていると、
「あら、何かしら、外が騒がしいわ」
部室の外から、男女が言い合いをする声が聞こえていた。
ドアを開け、三人はそっと外を見た。
「ひ、ひどい。私はアソビだったのね。に、二枚」
枚数数え幽霊だ。相手は誠だった。
「いや、違うよ。誤解だって! たまたま女の子のおパンツがポケットに入っていただけなんだ!」
彼は必死に弁明をした。
(たまたま入っていることなんて、ないよ。苦しい言い訳)
希は我が兄の醜態に苦笑した。
「ゆ、ゆ、許せない。に、二枚、三枚」
幽霊は誠の首を絞め始めた。
「これは流石に危ないですわ」
麗が二人に近づいた。
「は、早く助けてくれ」
息も絶え絶えに彼は言った。
「しょうがありませんね」
麗は氷パンチを幽霊に食らわせると、吹っ飛んでいった。
「ない、ない、”ママレンコン・ボーイ”のブルーレイディスクが、なーい」
と幽霊は叫んで、誠に突撃していった。
「だから、ネットで買えばいいですわ」
麗は氷の刃で幽霊を切り裂いた。
「転売ヤーからは買いたくないんだよお」
と言いながら、幽霊は黒いもやとなって消えていった。
「ふう」
麗が嘆息すると、
「ありがとう。セニョリータ」
誠は手を握ってきた。
茜が無言で彼を押しのけ、麗から引き離した。
「麗ちゃん、手を消毒しないと」
彼女は、携帯用のアルコール消毒のスプレーを、これでもかと麗の手にかけていた。
「茜ちゃん、流石にそれはやりすぎ」
希は言う。
「麗ちゃんの手がカサカサになっちゃう」
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