魔法少女と使者(中編)
誠は理事長室をノックした。中から「どうぞ」という声が返ってきたので、ドアを開けて入った。
「お久しぶりです。理事長」
誠は一礼した。
「ごくろうさま。例のものは持ってきたかね?」
威厳のある声で理事長は聞いた。
「はい。ここに」
誠は手に持っていた30cmほどの木箱を理事長のデスクに置いた。
「ありがとう。ところで、どうかね。我が学園は」
「とても素晴らしいと思います。施設も人も」
理事長の問いに、誠は真っすぐな偽りのない表情をした。
「ところで理事長」
「ん、なんかね」
理事長はとぼけた表情をしていた。
「妹が魔法少女になっているとは、先ほどまで知りませんでした。それで、僕が運び屋に選ばれたのでしょうか? いざとなれば、妹を理由に使い勝手よく僕を利用するつもりなのでは?」
誠が訝しげな目で聞いた。
「違うね。君は変身できないものの、特殊な能力があるではないか。それを実際に見たかったのだよ」
理事長は窓外を眺めながら言う。
「さきほど、初めて見せてもらったよ。あの女の幽霊がなつくところを。君が魑魅魍魎とコミュニケーションをとり仲良くなれるスキルは、本当のようだね」
彼は振り返った。
「君が選ばれたのはそのスキルによるもので、他に理由はない。邪推しないでいただきたい」
* * * * *
ここのところ曇りが多かったが、本日は快晴で、中庭でのランチには最適だ。
前日に続き、麗はお弁当に気合が入っていた。
「あれ、麗ちゃん。今日も凄いね」
茜が言った。
「でも、その割には、昨日ほどやつれてはいない……?」
希が麗の顔を覗き込んだ。
「ええ。実は、いつもの家政婦さんに頼み込んで、今朝は早くから来てもらったの」
麗はクールビューティに笑い、
「今日は苺はいれていないわ」
と希に重箱を見せた。
「昨日は、兄が本当に、すみません」
彼女は目を伏せた。
「気にしなーい、気にしなーい! 希ちゃんは希ちゃん! だら兄はだら兄だよ!(※だらは馬鹿という意味の方言)」
茜が励ます。
「それって、励ましているようで、希ちゃんの身内を馬鹿にしているわ」
麗はくすりと笑った。
「誰が馬鹿だって?」
くだんの人物が、いつの間にか三人の後方にいた。
「あら、誰のことでしたかしらん」
麗はとぼけ、茜は視線を逸らして黙り、希は口笛を吹いた。
「そうそう。今日は家で泊まろうかな」
誠が言った。
「やだ、やめてよ。来ないで」
希は反目した。姉妹校からきた体験生は学園の寮で寝泊まりしていた。
「いいじゃないか。久しぶりに母さんの顔も見たいし」
「ダメです。お母さんも忙しいの」
希は断固拒否の姿勢だ。
「つれないなぁ」
誠は肩を竦め、校内に入っていった。
* * * * *
放課後になり、茜、麗、希の三人は校内を巡回していた。
姉妹校の体験生が居残っていたりするため、いつ魑魅魍魎に彼らが襲われるかわからないので、巡回したほうがいいだろうという麗の提案だった。
「きゃあ」
巡回して十分ほどで、茜は女子生徒の悲鳴を耳にした。体育館のようだ。
「逃げて」
体育館に入った。鎌イタチのような化け物がいた。腕には刃物のようなものが光っている。
幸い、女性生徒には怪我はなく、そそくさと逃げていった。生徒がいなくなったことを確認し、茜は変身した。
「体育館に現れたよ」
麗と希にトランシーバーで連絡をとった。「OK」と返答があった。
鎌イタチはぐるぐると回りながら茜との距離の間を詰めていっていた。
「ぴゃあ」
と奇声を発し、切り付けてきた。
服は若干裂けたが、体は傷つかなかったので問題はない。思った以上に素早く、茜はどうすればいいか考えていた。
「お待たせ」
麗と希が合流した。
「これでもあげますわ」
麗が鎌イタチの腕を凍らせたが、すぐに解凍されてしまった。
刹那、茜も炎を飛ばすが、鎌イタチのつむじ風でかき消されてしまった。
次に、希が猪や熊を召喚したが、八つ裂きにされてしまった。
「どうしたものかしらん」
麗の額から冷や汗が落ちた時、鎌イタチが反撃してきた。
「きゃあ」
少女たちの服はズタズタになり、致命傷ではないが裂傷があちこちに発生した。
「おやおや。お困りかな」
男の声がして、彼女たちは振り返った。そこに、宇野誠がいた。
「ちょっと」
言葉を詰まらせる希。
「危ないので、消えていただけないかしら」
冷ややかな麗。
「……」
茜は沈黙。
「ちょっと、君、刃物を振り回すのはやめてくれないかな」
彼は鎌イタチに語りかけた。化け物は少し大人しくなったようだ。
「その刃物、渡してくれない?」
誠の優しい口調に、鎌イタチは腕についている刃物を取り外した。
「え」
驚く希。
「それ、着脱式でしたのね」
感心したように呟く麗。
「……」
茜は無言。
誠は、三人に向かってウインクした。今のうちに退治しろということだろう。
茜は炎を、麗は氷を剣の形にし、希は鷹と鷲を召喚した。化け物は、茜が斬りつけると腕を失い、麗が斬りつけると胸に致命傷を負い、希の鳥攻撃で霧散した。
「やった」
「勝ちましたわ」
「よかった」
少女たちは口々に勝利を喜んだ。
「この後、K市のスターボッタクリカフェに行きませんこと?」
麗は提案した。
「いいね」
「いこういこう」
彼女たちはキャッキャッとはしゃいでいると、ゴホンと誠が咳払いした。
「あら、まだいらしたの?」
麗は冷ややかに言った。
「僕への態度、冷たくない? 一応、功労者なのに」
彼は苦笑し、ふうと嘆息した。
「まあ、積もる話は明日かな。明日の最終日もよろしく」
誠は敬礼風の気障なポーズをとって、去っていった。
「体育館に塩でも撒こうかしら?」
「私の兄は、ダメな兄ですけど、ナメクジじゃないよ」
「そういう意味じゃないわ」
麗は希の頭を右手で撫でた。
「あ、私も、よろ」
茜は麗の左手を自分の頭に置いた。
麗はクスリと笑い、しばし二人を愛でた。
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