魔法少女と使者(前編)

「姉妹校?」

 茜はきょとんとした。

「そう。K都にはわが学園の姉妹校があって、そこから何人かの生徒が見学および体験するらしいわ」

 麗が内容を説明する。

「姉妹校は、カザマ学園といって、私の従兄弟が理事長をやっているわ。つまり、当学園理事長のご子息だわ」

「やっぱり関西弁なのかな」

「さあ。遠方からきて寮生活の子もいるから、その場合、訛りはないかと」

 二人が会話を楽しんでいると、

「あのー」

 運転席の横田が言った。

「もうとっくに学園に着いていますので、降りていただけませんか。これから出勤なもので」

 彼は申し訳なさそうにしている。

 茜が自宅を出ると麗が迎えにきていたため、本日は一緒に車通学をしていた。

「あら、ごめんなさい」

 後部座席のドアを開け、二人は降車した。


 * * * * *


 本日の麗のお弁当は豪華だった。

 お重箱なので、さながら運動会やピクニックのような内容だ。これには理由があった。姉妹校の生徒が来ているので見栄を張ったのだ。

 朝早く起きて自身で料理をしたいせいか、目の下には隈がいつもより濃くでており、眠そうだ。ある程度の仕込みは前日に通いの家政婦さんに手伝っていただき、準備したが、それでも品目が多いので一時間以上かかった。

 いつもの中庭のベンチではなく、量が多いので中庭の芝生でランチタイムだ。

「すごい! 美味しそう」

 茜がキラキラと目を輝かせた。零れ落ちそうなくらい目を開いている。

「お好きなものをとっていいわ。希ちゃんもどうぞ」

 麗はクールな満面の笑みで言った。

「あ、では、遠慮なく。いただきます」

 とは言うものの、希は豪華のものを避け、遠慮してタコさんウィンナーをとった。

「わたしは、これ!」

 茜は高級苺であるスカイベリーを取った。

「茜ちゃん。フルーツはあとよ」

 麗が窘めた。

「あ、僕も貰うよ。スカイベリー」

 突然、横から手が入り、高級苺を奪われた。

 そこには、髪を七三分けにした男子生徒がいた。着ている制服は姉妹校のものだ。身長は麗と同じくらいだが、某アイドル事務所にいても遜色ないイケメンだ。

「誰、あなた?」

 麗が冷ややかに言った。希は驚愕していた。

「これ、やっぱり、凄く美味しいな」

 彼が感想を漏らすと、

「あ、ああ」

 希が口をパクパクしている。

「どうしたの? 希ちゃん。失礼な男に怒り心頭し、金魚になってしまったのかしら」

 麗は男を睨みつけた。

「お、お兄ちゃん!」

 希が叫び、

「え? ええー!」

 茜と麗が異口同音に驚いた。


「妹がお世話になっています。兄の誠です。誠実の誠で”まこと”です。この度は姉妹校のカザマ学園から参りました」

 宇佐美希の兄は自己紹介した。

「兄妹といっても、両親は離婚してしまって、僕はK都、妹はT県と離れ離れになっていますが。ちなみに、僕の苗字は宇佐美ではなく、宇野です」

 茜と麗は呆気にとられ、

「は、恥ずかしい」

 と希が顔を両手で隠した。

「希ちゃんのお兄さんなのであれば、さきほどの愚行は特別に許してあげますわ」

 麗は口に手を宛てて、オホホと上品に笑った。

「なんでいるの、もう」

 希は顔を伏せたママ。

「希、なにかあったら、連絡しろよ。それでは失礼」

 希の肩をぽんと軽く叩くと、彼は校舎に戻っていった。

「うう、なんできたの」

 希は顔を真っ赤にして、兄の後ろ姿を愛憎混ざった目で見ていた。

「希ちゃんのお兄さんってイケメンね。私の好みではないけれど」

 麗は冷ややかな目で誠の後ろ姿を見ていた。

「そう」

 希は首肯した。

「そこは否定しないのね」

 麗は苦笑して言う。

「希ちゃんも可愛いし、美形一家なのかしらん」

 その発言を受けて、

「そのせいで、大変なの。兄はとっかえひっかえ色々な女性を家に連れ込んだり、アダルトなところに行ったり……。父からの遺伝子みたいで、離婚原因も、父の浮気なの」

 希は呆れ顔で嘆息した。

「いけ好かない男ね」

 麗はぽろりと本音が出た。

「あ、ごめんなさい。希ちゃん。身内を悪く言って」

「いいの。本当のことだから」

 希は首を振った。

「ところで、茜ちゃん。ずっとおとなしかったわね」

 麗が指摘すると、茜は「あはは」と笑い、

「私、ああいうタイプの男性が苦手で。やっぱりマキビシ仮面様がいいな!」

 と言った。

「アレもどうかと思いますわ」

 麗はクールに苦笑した。


 * * * * *


 放課後、三人は魔法研究会部室に向かっていると、井戸付近から声が聞こえてきた。

「いいじゃないか。今度、遊ぼうよ」

 誠の姿が見えた。誰かに話しかけている。

「あ、お兄ちゃん、ま……」

 またナンパ行為かと思い、希は注意しようとしたが、途中で声を詰まらせた。

 そこには、ブルーレイディスク数え幽霊(※第一章二話参照)がいたからだ。

「に、にまい」

 幽霊はもじもじしている。誠のことを”二枚目”と言いたいのだろう。

 三人は口をあんぐりと開いていた。

「あ、あの様子なら、襲われることはないわね」

 麗は二人を促し、部室に入った。

「お兄ちゃん、毎度あんな感じだから困る。まだ一緒に暮らしていた時、四十代の和田ア〇子似の女性を連れて来たときは驚いたけど、今回はそれ以上」

 希は憤慨していた。

「お、お兄さんは、ちょっと趣味が変わっているのかしら?」

 麗は苦笑しながら聞いた。

「趣味が変わっているというか、女性のストライクゾーンが広いし、誰にでも声かけるの!」

 希は声高に言った。

「ゾーンが広いっていうか、異次元じゃないの」

 茜が希に聞こえないようにポツリと言った。

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