魔法少女とウサギとインコ(後編)
≪きゃっ≫
「麗ちゃん! 大丈夫!?」
トランシーバーから応答が返ってこない。
茜は、慌てて駆けだした。麗が見張っていたインコのゲージに向かった。
「きゃあ、ちょっと」
到着すると、麗が蠢き叫んでいた。
「ど、どうしたの?」
ただならぬ様子に、茜は変身し、麗に近寄った。
麗の体はボコボコと妙な凹凸が出たり引っ込んだりしていた。
「麗ちゃん!? 何かにとりつかれた!」
茜が狼狽していると、
「ピ、ピィ」
という鳴き声がして、麗の服から緑の鳥が飛び出してきた。
「たしかにとりついていたわね。鳥だけに、ぶふっ」
明は笑いをこらえながら言い、
「あなたが誘拐犯だったの?」
と麗に聞いた。
「そんなわけないわ」
麗が切り返した。
「私が見張っていると、突然空からきて、私の制服に入っていったのよ」
「なーんだ」
変身を解きながら、茜が安堵した。
「足に目印の金具がついているから、逃げた?連れ去られた?鳥が戻ってきたみたいね」
明が状況を分析した。
「いなくなったのは4羽で、そのうち1羽が帰ってきた。……ということは、残りのインコはまだ捕らえられているか、それとも死んでしまっているか」
ガサガサと茂みから音があったので、麗がその茂みに近づいていった。すると、茂みから人影が飛び出してきた。
茜がすぐさま飛びついて倒し、四の字固めをした。
「痛い、痛い。離して」
男は茜の腕をタップした。学園の制服を着ているので生徒のようだ。
「あら、あなた、宇佐美さんと同じクラスの田中くんよね?」
麗が見下ろして言った。
田中は茜の腕を振りほどき、逃亡をはかったが、すぐさま茜にドロップキックをお見舞いされた。
「詳しい話、聞かせてもらおうじゃないか」
刑事ドラマの刑事よろしく、明が凄んだ。
* * * * *
田中は、宇佐美が好きだった。告白したものの相手にされず、そのストレスのはけ口としてインコを誘拐したようだ。宇佐美も困らせることができるので、一石二鳥と思ったらしい。インコだけに。
「じゃあ、なに、その身勝手な理由で、こんな可愛い鳥たちを誘拐したの?」
明が凄んだ。
「す、すみません。最初は虐待しようと思っていたけどできず、ちゃんと家で世話していました」
「残りのインコは?」
「そ、そこに」
茂みのほうを指差した。茜が探す。
「あ、いたよ」
小型の鳥用ゲージにインコが4羽入っていた。
「これにて、一件落着ね」
明が嘆息したが、
「まって」
と麗が言った。
「あなたはインコだけに手を出したという認識であっている? ウサギには一切何もしていない?」
「ぼ、僕は、インコだけだよ! ウサギには何もしていない」
「たしか、宇佐美さんが、兎小屋に黒い羽があったと……。急ぎましょう! 兎小屋に!」
小屋の入口は大きく開き、中から強烈の獣の臭いが漂っていた。
「待ちなさい」
すでに変身済みの三人が中に入る。片隅で二羽の兎が震えていた。
獣は熊のような姿をしているが、頭の箇所は人間らしき顔が三つ乗っていた。むしゃむしゃと口が動いていて血が滴っており、何かしらの動物を食しているようだ。
茜が兎を抱きかかえ、校舎のほうに退避する。麗と明は臨戦態勢だ。
じりじりと間合いをはかっていると、業を煮やした獣が突っ込んできた。二人はひらりと避けると、ちょうど兎小屋を出る形になった。
「広いとこのほうがやりやすいからありがたい」
明は兎小屋の扉を閉めた。
麗は氷柱を作り出し、飛ばした。獣は俊敏なフットワークで回避したが、そこをすかさず明が蹴りを入れた。
「ぐるふぅ」
獣は吹っ飛び倒れた。
ウサギを安全な場所に置いてきた茜も参戦した。
炎を飛ばすが、獣はこれも回避してきた。さきほどと同じく明が蹴り飛ばした。
「いまだ」
明の掛け声で、無数の氷の矢を準備していた麗が発射した。
「グエー」
雄叫び。黒いもやとなり、獣は消失した。
「勝った」
茜が右腕で力こぶを作り、麗と明は親指を突き立てた。
* * * * *
「ごくろうだったね」
翌日、三人は理事長室にいた。理事長が労をねぎらってくれていた。
「あの、田中くんは」
茜が切り出すと、理事長は食い気味に
「彼は退学してもらうことになったよ」
と冷酷に言った。
「まあ、でしょうね」
明が言った。
「恋心でも、やっていいことと悪いことがありますわ」
麗は理事長の判断に賛同した。
「ところで、おじさま」
「ん、なんだい?」
理事長はじっと探るような眼で見た。
「……いえ、なんでもありません」
麗は逡巡したが、胸中にあることを言わずに仕舞った。
教室に戻ると、宇佐美が待っていた。
「あの、ありがとう。解決してくれたんだってね」
流石に変身して魔法少女になったことは伝えていないと思うが、おそらく教師の誰かが事件解決を漏らしたのだろう。
「どういたしまして」
茜がエッヘンと胸を張る。
「ずっと田中くんが付きまとっていて、困っていて」
「えっ」
「そっち」
茜と明は頓狂な声を出した。
「えっと、動物のことは」
麗が言った。
「その件もありがとう。動物のお世話は好きなんだけど、最近、大学生の彼氏が”俺とウサギ、どっちをとるんだ”とうるさくて、悩んで泣いて、いきもの係を辞めようと思っていたの」
「はあ」
明はゲンナリとした顔をしていた。
「彼氏さんによろしく」
麗が突き放すように言った。
「なんか、馬鹿馬鹿しくなってきた」
立ち去った宇佐美の後ろ姿を見つつ、明が言った。
「いいじゃん! 動物の命救えたんだし!」
茜はポジティブだ。
「まあ、そうなんだけどさぁ。泣いていた理由が彼氏だったなんて……はぁ……」
「ところで」
麗が不思議そうな顔で言った。
「ウサギよりも彼氏をとるなんて、彼氏さんはそんなにもかわいらしいのかしら?」
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