魔法少女とケーキ(前編)
少女たちは横田が運転する車でケーキ屋メーポルハウスを目指していた。
K市駅前にもある店だが、そちらは店舗規模が小さいため、駅から少し離れた本店に向かっていた。
「あ、十八番ラーメン!」
茜が飲食店を見つける度に反応し、指差ししていた。
「チャンピョンカレーもあった」
「本当に食いしん坊だな。茜は」
明は苦笑した。後部座席は三人で座っているから少し窮屈で、茜が大げさに動くと肘が当たっていた。
「ケーキの後は、ランチは何にしようかしらん」
助手席に座る麗が言った。
「車があるから、少し遠出してでも美味しいもの食べたいね」
希が応えた。
「私は、寒ブリを食べたいわ」
「まだ時期早いだろ」
麗の発言に明が突っ込む。
「いいね! 回転寿司、最高! 北陸の寿司は最強だよ!」
茜は車から飛び出しそうなくらいはしゃいだ。
「どこの寿司も変わらないでしょ」
明の言葉で場がしらけた。少女たちは唖然としていた。
「あの、明さん。あなたには舌があります?」
「ちゃんと、あるわ!」
* * * * *
メーポルハウスは、インター近くの二車線道路をまっすぐ走行すると存在する。道路側がガラス張りの四角の建物で、一階はスイーツや洋食などを楽しめるスペースで、二階はブックカフェになっている。
「ひゃー」
茜は初めて訪れる店で、お洒落な内装に感激した。
四人はテーブルに落ち着くと、早速メニューを開いた。
「オムレツやガパオもある。おいしそー」
茜は垂涎した。
「今日はスイーツを食べに来たのよ」
希はそう言ったが、彼女も涎をたらしそうな勢いだ。
「私はシンプルにショートケーキにするわ」
麗はすぐに注文を決めた。
「じゃあ、私はシュガーバタークレープの苺味で」
明が言った。
茜と希は
「あ、これもいいね」
「いいね」
と黄色い声をあげて、決めかねていた。
数分後、なんとか全員の注文が確定し、少女たちは雑談しながら品を待っていた。先にセットドリンクが運ばれてくる。
茜はオレンジジュース、麗はホットの紅茶、明はアイスコーヒー、希はピーチソーダを選択していた。
「楽しみー」
茜は右手でL字を描くようにコミカルに動かした。
「なにそのダンス」
明は笑った。
「えっと、昔の人のなにかのふりつけだっけ」
希は可愛らしく首を傾げた。
「そういえば、横田さんは?」
明は麗に聞く。
「たしか、かつやに食べに行くとおっしゃっていたわ」
「かつ丼かぁ。それもいいな。じゅるり」
茜の口の中は涎で洪水が起きそうだ。
「そういえばさ、ずっと不思議だったんだけど」
「はい」
「横田さんは無給で送迎してくれているの?」
明は疑問を投げかけた。
「平日の学園への送迎はお父様の懐から、休日は私のワガママなので、私がお手当を出しているわ」
「え、そんなにも小遣いもらっているの?」
明は驚いた。
「いえ、実は、株を少々……」
麗が謙遜しながら言った。
突然、キキ―というブレーキ音の後、凄まじい衝突音が聞こえた。
少女たちが道路側の窓を見やると、車同士で衝突しているのが見えた。
「大変!」
茜が立ち上がり、店を出る。
「茜ちゃん、待って」
麗、明、希も続く。
車道は四台の車が玉突き事故を起こしていた。
「ハハハハハ」
哄笑しているカラス男がいた。三度目の登場だ。
「あなたの仕業ね?」
明が言った。
「だから、どうした」
カラス男は大きく腕を振り上げると、風の渦が発生し、走行中の車数台が事故を起こした。
「やめろ」
明は自力で変身し、ほかの三人はカプセルを飲み変身した。
希が右手を熊に左手を鷹の手にして殴りかかったが、カラス男に避けられ、蹴りを食らった。刹那、明が光の剣で斬りかかるが、こちらも蹴りを入れられた。
「ふぁいやー」
茜が火の玉を投げた。彼はかわしたが、そこに麗がいて氷の剣で斬りつけた。紙一重で避けられ、顔にかすり傷がついただけだった。
「相変わらず手ごわい相手だわ」
麗はつぶやいた。
希が鷹や鷲の大群を呼び、一斉にカラス男に飛び掛からせた。彼は鳥たちをつむじ風で追い払い、その隙を茜と麗が剣で攻撃を仕掛けた。
「どいて」
明の叫びが聞こえた。殺気を感じ、三人の少女は下がる。
「くらえ! ビック〇ンアタック!」
巨大な光のエネルギー弾を放った。反応が一瞬遅れ、カラス男に命中した。
「ぐっ」
カラス男は片方の翼がもがれた。
「今日はこの辺にしといてやろう。首を洗って待っていろよ」
そう言うと、彼は大量のカラスを召喚した。空も道路も真っ黒に染まり、彼の姿は埋もれてしまった。
しばらくして、カラスは一斉に散り散りに去っていった。カラス男はもういない。
* * * * *
現場は警察、消防、救急車や見物人でてんやわんやになった。
「さあ、改めて、スイーツを食べましょう」
麗が促し、少女たちはメーポルハウスに入った。
「すみません。注文した品はできているでしょうか」
麗が聞くと、店員は慌てふためいた。さきほどまで不安そうに窓外を眺めていたのだ。
「あ、はい。只今、用意します」
店員はそれぞれの注文した商品を持ってきた。
「美味しそう!」
無事テーブルに着地したチョコバナナパフェを眺め、茜は喜んだ。
「本当ね。おいしいわ」
ショートケーキを小分けにし、麗は口に運んでいた。
「うん。私のも最高だよ」
希はレアチーズケーキを頬張っていた。
「あれ、私のは?」
明の注文したクレープはまだなかった。
「申し訳ございません。まだ用意ができておらず、もう少々お待ちください」
店員は平謝りし、奥に引っ込んでいった。
店員と入れ替わるように、
「もしもし」
スーツ姿の中年男に声をかけられた。
「なんでしょうか? 事情を聞くのなら、後にしていただきませんか?」
麗は冷たく言い放った。相手は刑事で、警察手帳を見せてきた。
「そういうわけにはいかんのですよ。お嬢さん」
彼は胸元から、なにやら紙を出した。明を見つめながら言う。
「日向野明さん、あなたには逮捕状が出ています。ご同行願えますか?」
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