魔法少女とケーキ(後編)

「はあ?」

 明は小馬鹿にするような声をだした。某アニメキャラのように「あんたバカァ?」と言い出しそうな勢いだ。

「きていただけますね」

 刑事は凄んだ。

「容疑は何かしら?」

 麗はくちばしを挟んだ。

「器物損壊の罪だ」

 刑事は渋面で紙を見せた。

「本当は違うでしょう? 別件逮捕はよくないわ」

 麗はフンフンと鼻を鳴らした。

「君には関係ない」

 刑事は冷たく言い放った。

「関係なくはなくってよ。明さんは私の心友ですわ」

「え、ずるい! 私も、こころのとも!」

 麗の発言に茜も便乗する。

 刑事はゴホンと咳払いをした。

「連行しろ」

 刑事は顎で後ろにいる若い警官に指示した。明を連れていけということだろう。

「いーやだよー」

 茜はベロを出して刑事たちを煽った。茜と希は守るように明に抱きつく。

「君たちを公務執行妨害で逮捕してもいいんだよ?」

 刑事は青筋を立てていた。

「してみてはいかが? けれど、その前に明さんを拘束する正当な理由を教えてくださる?」

 麗は刑事の前で仁王立ちする。

「社会をろくに知らないお嬢ちゃんに教えることなんてない。こちらはちゃんと手続きしているんだ」

「そのお嬢さんを捕まえようとしているのは、どこのどなたかしら?」

 麗は頑なな態度を変えない。

「とにかく、来てもらおうか」

 刑事は明の腕を掴み、強引に連れ出した。

「待って」

「酷い」

「不当逮捕だ」

 少女たちの非難の言葉を背中に受けながら、刑事と明はパトカーに乗っていった。


 * * * * *


「おじさま。明さんを釈放できないのですか?」

 横田の車で茜と希を家まで送ると、麗は帰宅せずに学園横の理事長宅に押し掛けた。

「紅茶、飲むかね?」

 リビングに麗は通され、革張りのソファーにちょこんと座った。

 麗が頷くと、

「まずは落ち着いて」

 理事長はレモンティーの入ったカップを渡した。

 麗は一口飲むと、

「それで、明さんですが……」

「ううむ。私ならともかく、彼女はただの一般人の女子高生だからなあ。親戚に権力者がいるなら、話は早いが」

 神妙な面持ちで理事長は言った。

「明さんは国家を脅かす危険分子だともくされているのでしょうか?」

 麗の問いに、

「さてね。上の考えは私にはわからないよ」

 彼は肩を竦めた。

「おじさま」

「なにかね」

「掴んでいる事実を意図的に隠していますね?」

 麗は猜疑心のこもった目で見た。

「相変わらず想像力がたくましいな」

 理事長は意味ありげに微笑をした。

「これ以上はあれこれ詮索してもしょうがないから、帰りなさい。釈放されるように尽力するから安心なさい」


 麗は帰宅命令を無視し、学園の部室に行く。鍵はこっそり合鍵を作ってあるので問題ない。

(昔の魔法研究部の資料に、何かヒントがあるかも)

 最近お茶会ばかりしていたので失念していたが、我が部には貴重な資料があることを思い出した。

「たしか、ここら辺だったかしらん」

 物入れになっているロッカーをガサゴソと漁る。

「ありましたわ」

 本のページをめくっていく。

「この箇所、何が書かれていたのかしら」

 破られた3ページの切れ端をためつすがめつ、麗は独りごちる。破れたページの先頭は切れ端に一文字が残っていた。

「この文字は、カタカナの”タ”? それとも漢字の”夕”か”多”?」

 次は破れている前のページを確認した。


『パラレルワールドの影響により発生したと思われる魔法や化け物たちは、実は』


 文章はそこで終わり、次は破られたページになっていた。

「どういうことかしら。違う理由があるってこと?」

 麗は破られたページの次の頁も確認する。


『は断念し、パラレルワールドの研究に注力した。』


 という文章になっていた。

「いまいち内容がわかりませんわ」

 麗は首を傾げた。


 しばらく資料を読んでいると、男性の悲鳴が聞こえた。外にでると、学園の用務員が鬼に襲われそうだった。

「大変だわ」

 麗は変身する。鬼は赤鬼で、よく物語にでてくる鬼と異なり、棍棒ではなくスキー板を持っていた。

「冬のスポーツが好きなのかしら? ともかく、倒さないと」

 麗は氷の矢を作り、次々と鬼を射抜いていく。

「いま、一人だから、手数多くして倒さないといけないわ」

 矢が二十本目で鬼は倒れ、黒いモヤとなって消えた。

「あら、用務員さん。こんばんは」

 麗は変身を解くと、腰を抜かした用務員に笑顔で挨拶した。

「申し訳ございません。校内に忘れ物してしまって」

「そ、そうか」

 用務員は戸惑っていた。

「では、ごきげんよう」

 麗は去ろうとしたが、踵を返し、部室から資料を持ち出した。

「この本に、明さんを解放できるヒントでもあればいいけれど」

 裏門前で横田が待っていた。

「お待ちしておりました」

 横田は車の運転席へ、麗は後部座席に乗り込む。

「ありがとう。出していただけるかしら」

 車のエンジンがかかり、動き出す。

 スマートフォンの通知音が聞こえた。茜からLINEメッセージだ。


茜:大変だよ!

麗:どうしたの?

茜:あのね。先輩のことなんだけど

麗:なに?

茜:先輩、スイーツ食べていない!


 麗はクスリと笑った。

「茜ちゃんは計算なのかしら。それとも天然なのかしら……」

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