魔法少女の元カレ(前編)

 パラレルワールドの明が来て三日目の昼食タイム。中庭の芝生で少女たちは座っていた。

「明さんは、あちらの世界に戻る気はないのかしら?」

 麗は尋ねた。本日はお弁当持参ではなく、サンドイッチにしていた。

「戻れるなら戻りたいけど、方法が全くわからないからね。不自由もないし、まったり考えるよ」

 明は金髪の前髪をかきあげた。

「そういえば、先輩」

 茜が不思議そうな顔をして、

「先輩、通常も変身後も金髪ロングだよね? なんで?」

 と聞いた。

「ああ。それは、私は元々金色に染めているからね。変身後も金髪なのはたまたまよ」

 あははと明は笑った。

「なるほど~。教えてくれてありがとう!」

 茜は何故か明と握手すると、

「じゃあ、今度パフェ食べに行こうよ!」

 嬉々として言った。

「唐突だな。でも、甘いものは好きだから行きたいな」

 明は承認した。

「なるほど。元の明さんとは行っていますが、新たな明さんはまだ行っていないわ」

 麗は卵サンドイッチを手に取った。

「でもさ、この前食べたケーキ。あそこの店(※K市メーポルハウス)のほうが行ってみたいな」

「それもいいね」

 茜は同意した。

「では、週末に、メーポルハウスでスイーツとお茶はいかがかしら」

 麗の提案に、

「うん」

 茜、明、希の三人は首肯した。


 麗が卵サンドイッチを食べ終わると、

「あ、あの」

 希は恐る恐るといった感じで言った、

「なにかしら?」

「なに?」

「ん?」

 三人が同時に呼応した。

「実は、相談があって」

 希はキョロキョロとあたりを警戒する。

「どうぞ」

 麗が促した。

「最近、男につけられていて……」

「あら、希ちゃん可愛いからストーカーかしら」

「多分」

 希は俯いた。

「心当たりは、あって?」

「元カレだと思う」

 再び、彼女は周囲を訝しみ見回した。

「私、カレーを食べたい! K沢カレー!」

 茜は突然立ち上がった。

「真剣な相談なんだから、おふざけはやめな」

 明が注意すると、

「はい。すみません」

 茜はしおらしい態度を見せた。

「どうしようか、困っていて」

 希は潤んだ瞳で麗を見た。

「これは、あの人に相談するしかなさそうね」

 麗はふふっとクールビューティに笑った。


 * * * * *


「――というわけなの」

 麗は希がストーカーに困っているということを伝えた。

「それで、なんで俺のとこにくるんだよ」

 小橋が冷たく言い放った。二人は視聴覚室で密談していた。

「あら、あなたは忍者の末裔じゃなくて?」

「違う。変身して、たまたまそうなっただけだ」

 小橋は肩を竦めた。

「自分のクラスの生徒、しかも部活動の顧問もしているのに、無視するのかしら?」

 麗は腕を組んで胸を張った。

「うっ。それを言われると……」

 彼は苦り切った顔をした。

「受けてくださる? しばらく護衛していただければいいわ。それでは早速今日からお願い」

 麗は強引に決定したので、

「ええ……」

 小橋はゲンナリした。

「あと、そうそう。これも渡しておきますわ」

 麗はカプセルが複数入った袋を渡した。

「なんだこれ?」

 彼が聞くと、

「遠い場所でも忍者に変身できる魔法のお薬ですわ」

 麗は不敵に笑った。


 * * * * *


 部活動が終わり、希は学園を出た。学園近くのバス停まで歩く。

(誰も付いてきていない?)

 たまたますれ違った通行人すらもストーカーに見えるほど、希は怯えていた。

 停留所でバスを待っていると、帽子を目深にかぶったサングラスとマスクの男も停留所で立ち止まった。

(……怪しい)

 花粉症の人かもしれないので、「あなたはストーカーでしょ」と言えるはずもない。

 バスが到着し、乗り込む。同じように怪しい男も乗り込んだ。

「ま、待ってー」

 バスの発車寸前、明が駆け込んできた。

「ふう、間に合った」

 バスが出発すると、明は希を見つけ、寄ってきた。

「ストーカー、いる?」

 小声で彼女は聞いた。

「わからないけど、怪しい男なら」

 希は男に気づかれないように指差した。

「たしかに怪しいわね」

 明は敵意のこもった目で男を見た。彼は視線に気づき、顔の向きを変えた。

「私、同じところで降りようか?」

 明は希より三駅遠い停留所が最寄りだ。

「じゃあ、お願いします」


 小橋は希と同じバスに乗り、遠巻きに見守っていた。帽子とサングラスとマスクという明らかに怪しい姿だが、バレたくなかったので致し方無い。

 希はバスを降りた。なぜか明も一緒に降りたので、小橋は不思議に思った。

 少し離れて歩いていると、突然二人は小走りになり角を曲がった。

(見失ってしまう)

 彼は慌てて追った。角を曲がった刹那、

「いててて」

 何者かに背後をとられ、首を極められていた。

「たんまたんま」

 小橋は堪らずタップする。

「誰だお前」

 という女の声で帽子やサングラスを奪い取られた。

「あ、お前は小橋じゃないか! 教師なのにストーカーしていたのか!」

 相手は明だった。声には怒気を含んでおり、あきらかに勘違いされていた。

「ちがっ。俺は五月女に頼まれて」

 弁明しようとした時、

「きゃあ」

 女の悲鳴が聞こえた。明の傍に希がいないということは、悲鳴の主は彼女だろう。

「宇佐美、どこだ?」

「希ちゃん!?」

 声のあたりに行くと、暗がりで希が男に抱きつかれていた。

「この野郎」

 小橋がぶつかり、男を引き離す。すかさず、明が男の足にタックルし、そこから四の字固めをした。

「痛い痛い」

 痛がる男を見て、明は驚愕の表情をした。

「あ、お前は!」

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