エピローグ

エピローグ

「ええっ。これで終わり?」

 パソコン画面から目を離すと、日向野明ひがのあかりは素っ頓狂な声をあげた。画面の中では小説が表示されていた。

「終わりですわ」

 小説の筆者である五月女麗はさおとめれい首肯した。二人は『小説研究会』という看板を掲げている部屋にいた。

「うーん」

 明は顎に手をあて、首を傾げた。

「面白くなかったかしら」

「そんなことはない。面白かったよ。ただ……」

 明は言い淀んだ。

「じっくり聞こうかしら。その前に、紅茶はいかが?」

 麗は二人分のティーカップを用意した。アップルティーのパックを入れると、電子ケトルのお湯を注いだ。

「こちら、作中にも出てきたアップルティーですわ」

 麗は香りを楽しみながら言った。

「本当だ。美味しい」

 明は紅茶を口に啜ると称賛し、

「小説のことだけど」

 話を戻した。

「どうぞ」

 麗が促した。

「魔法少女とパラレルワールドの物語ということで、面白かった。最後の方の展開は読めなかったし……。でも」

「でも?」

 麗はオウム返しをした。

「これ、どこからどこまでが同じワールドなんだ? たとえば、一話と二話は同一世界のものであるのはわかる。仮にワールドAとしよう」

「はい」

 麗は頷いた。

「その後、一章の六話目と七話目、茜と麗が週末デートする時点で、二人が『一話目と二話目はパラレルワールドAだった』ということを暗に言っているよね。ということは、少なくとも六話目はワールドBになっているけど、その後がわからないんだよなぁ」

 明は両腕を組んで唸った。

「それは読者の考察にお任せしますわ」

 麗は不敵に笑った。

「あと、おかしくない?」

 明は疑問を投げかける。

「様々なパラレルワールドの魔法少女を集めたのなら、魔法少女たちが初めてかのように変身するシーンがあるのは違和感だよ」

「最終決戦の話で書いているわ」

 麗は補足する。

「パラレルワールドの転移によって、記憶の上書きが発生し、定着していること。つまり、その世界にきたことによって、初めての感覚で変身するのはおかしくなくてよ。また、それは他の人たちにも共有された上書きになっている」

「そっかぁ」

 明は納得したものの、どこか粗がないか探しているような感じだ。

「ところで、この天の声って何者なんだ? 神? それとも研究所の誰か?」

 明は苦笑しながら言った。

「ご想像にお任せします」

 麗は曖昧に答えた。

「そういえば、ここには存在しない登場人物がいるな。私や麗や希ちゃんは現実にいるけど、茜だけはこの学園には存在しないよね」

 明は怪訝な顔をした。

「茜ちゃんは、そうね。私の小さいころからのお友達ですわ」

 麗はクスリと笑い、紅茶を飲んだ。

「ああ。なるほど。イマジナリーフレンドってやつか」

 明も倣い、アップルティーを堪能した。

「この世界ではイマジナリーフレンドでも、パラレルワールドでは、実際に存在しているかもしれませんわ」

 麗はクールビューティに微笑んだ。

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Magical φ ~この学園には魔法少女がいます~ むらた(獅堂平) @murata55

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