魔法少女は連続する

「熊が出没しているようなので、気をつけるように」

 ホームルームの際、担任教師の鈴木が言った。I県とT県の境界にあるハザマ学園は、山間部にあるせいか、熊の目撃情報が多々ある。

「熊だって、怖いね」と生徒たちが言っている中、五月女麗さおとめれいの横に座る茜が「麗ちゃんは私が守るからね」と話しかけてきた。

 先日の席替えで麗と茜は隣席になり、名前で呼び合う仲になった。

「ありがとう。茜ちゃん」

 麗はクールビューティな微笑みを返した。


「今日はお迎えきているの?」

 茜が聞いた。

「うん。でも、少し遅れるみたいで、学園の裏門で待つことになるわ」

「じゃあ、その間、私が麗ちゃん守るよ」

 茜は胸を張った。

「そういえば、魔法研究会は入れたの?」

「うーん。それが、メンバーがひとりしかいない上に、最近放課後が忙しくて……」

「放課後に何をしているのかしら?」

「えっと、ナニをナニでナニしています」

 “魔法少女になって化け物を倒している”とは言いづらいので、茜はお茶を濁した。

「そういえば、今日は何読んでいるの?」

 読書家の麗はなにかしらの本を手にもっていることが多い。今も廊下を歩きながら本を大切そうに抱えていた。

「昨日から読み始めた小説だけど、面白いわよ。この本は、”巨峰好きだけどGF界に転生しました”というタイトルなの」

「へえ! どんな話なの?」

「ぶどう農家の男子高校生が、毎日浴びるように巨峰を食べていたのだけれど、ある日交通事故にあい、グレープフルーツやピンクグレープフルーツやレモンたちが犇めく異世界に転生する話よ」

「わあ。面白そう!」

「読み終わったら、貸してあげますわ」


 学園の校舎裏に非常時用の井戸があり、そこを通り抜けると裏門になる。

 井戸を通り過ぎようとした時、女性の声が聞こえてきた。

「い、いちまーい」

「ん、今、麗ちゃん、何か言った?」

 茜の問いに麗は首を振った。

「にーまーい」

 再び女の声が聞こえた。

「さーーんまーい。よんまーーーい。ごまーーーーい。ろくまーーーーーい」

 茜と麗は虚を突かれた顔をして見合っていた。

「ななまーい。はちまーーーーい。きゅーまーーーーい。ない、ない、一枚足りない」

 井戸から白い着物を着た髪の長い女が出てきた。

「ぎゃー! で、でたー!」

 茜はその場で飛び上がった。麗はがくがくと震えている。

「化け物は何回か倒しているけど、この手の幽霊系は苦手だよぉ」

 茜が情けない声を出した。

「”魔女子騎士ベイスターズ”の復刻ブルーレイディスクが、一枚、足りなーい!」

 と言いながら、女の幽霊は麗にまとわりついた。

「インターネット上なら、まだ売っているかもしれませんわ」

 苦し気に麗は言った。

「転売ヤーが売っていると思われるもの、買えるかー!」

 幽霊はおぞましい声で叫んだ。さらに首が絞めつけられた。

「麗ちゃん!」

 茜は変身し、駆け寄ったが、女の幽霊を引き離すことが困難だ。そのまま攻撃すると、麗に危害が加わってしまう可能性がある。

「どうしよう。麗ちゃん、麗ちゃん」

 茜はパニックになり、麗は意識を失っていた。


『目覚めなさい麗』

 謎の声が麗の意識に触れていた。

『目覚めて、魔法戦士になって戦うのです』

(まほ、まほう?)

『魔法戦士です』

(マホ〇バマインズ……。横須賀旅行、楽しかったなぁ)

『ホテルではありません。魔法戦士です。走馬灯やめて』

(沖縄旅行も楽しかったなぁ)

『楽しかった時の走馬灯やめて』

(もう一度、旅行したいので、戦います)


 刹那、青い光が麗を包み込んだ。

 麗の髪は青く輝き、服は青を基調としたコスチュームに変わっていた。氷や吹雪が麗の周囲を漂っている。さながら、雪女のようだ。


「いやっ」

 と腕を広げると、女の幽霊は離れていった。

「れ、麗ちゃんも変身した」

 茜が驚愕していた。

「なぜ、こういう事態になったのかわからないけど、共に戦いましょう」

 冷静に麗が言った。

「うん!」

「行きます」

 幽霊に茜と麗のダブルキックが当たり、吹き飛んだ。


『必殺技を出すのd』

 謎の声が言い終わらないうちに、麗は手から氷柱をだし、幽霊に向かって投げていた。

『の、飲み込みが早いわね』

 惜しくも外れたが、既に技を習得しているようだ。


「えい」

 茜も炎を飛ばしたが、同時に麗も氷柱を飛ばしたため、幽霊に当たる前に相殺されてしまった。

「私たち、相性悪いのかしら」

 麗が苦笑した。

「そんなことないよ。麗ちゃん、もう一度氷を飛ばして!」

 茜が提案し、麗はすぐに一メートルほどの氷柱をだし、飛ばした。

「やあああああ」

 と茜は叫びながら氷を追い、乗った。幽霊はジャンプして避けていた。

「こうすれば当たるんだ」

 茜は氷柱をサーフボードのように動かし、幽霊に向かって方向転換した。

「五月雨、炎!」

 無数の細かい炎を出し、至近距離で幽霊に当てた。


 女の幽霊は黒い靄を出し、消えた。

「やった。倒したよ。麗ちゃん」

 茜の黄色い声に、麗はGJのポーズをとった。

「それにしても」

 麗は、茜と自分のコスチュームをまじまじと見つめながら言った。

「どこのデザイナーが作ったのかしら」

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