魔法少女と学園の謎(前編)

 麗が初めて変身した翌日の昼、学園の中庭で茜と麗はお弁当を食べていた。

「美味しいね」

「そうね。茜ちゃんのお弁当は、お母さんの手作りかしら」

「うん。私、お弁当は毎日お母さんが作ってくれているよ!」

「羨ましいわ」

 麗は持参した弁当箱を見ながら言った。

「お母さん作ってくれないの?」

「当家は、父も母も忙しくて……。もっぱら、前日に残ったおかずで私が構成して作るか、家事代行サービスの方がお弁当を作るか、どちらかだわ」

「ずっとお手伝いさんがいて作ってくれるわけではないんだ」

 茜はエビフライを口にした。

「そうよ。あれはごく一部の本当に超がつくほどの名家よ。うちは分家だし」

 “分家”の意味がよくわからないが、

「へえ。そうなんだ」

 と茜は知ったかぶりをした。

「今日、学園長と話し合おうと思うのだけれど、茜ちゃんも一緒にいかが?」

 唐突に麗が言った。

「会ってもいいけど、何を話すの?」

「魔法や変身、この学園について……」

 ずっと変身に関する話題はしていなかったのだが、意を決したように言った。

「多分、おじさま、あ、学園長は、何か知っているはずだわ」


 放課後、茜と麗は学園長室のドアの前に立っていた。麗は三回ノックをする。

「どうぞ」

 中からバリトンボイスが聞こえてきた。

「失礼します」

 麗が先頭で次に茜が室内に入る。

「ようこそ。麗ちゃん」

 白髪と白髭の中肉中背の男が言った。当学園の学園長だ。

「おじさま、お時間さいていただき、ありがとうございます」

「堅苦しい挨拶はいいから、座りなさい」

 麗と茜は横並びにソファーに座った。

「コーヒーとお茶、どちらがよいかな?」

 学園長は二人に聞いた。部屋の入口横に、ポットが並んでいるので、そこに飲み物が入っているようだ。


 麗は簡潔明瞭に、化け物に会ったこと、自分たちが変身したことを伝えた。対面でソファーに座った学園長は、笑みを浮かべながら耳を傾けていた。

「あのー、気になっていたので、質問いいですか?」

 おずおずと茜が手を挙げた。

「はい。どうぞ」

「麗ちゃんと理事長ってどんな関係なんですか?」

 麗は苦笑し、理事長は満面の笑み。

「ただの親戚だよ。詳しくいうと、従兄弟の娘さんだね」

「理事長は本家の方で、私の家が分家だわ」

 麗が補足の説明をした。

「なるほど。ありがとうございます」

「閑話休題。話を戻しましょう」

 麗は軽く咳払いをし、続けて言った。

「おじさまは、魔法や学園に現れる魑魅魍魎、存在を知っているだけでなく、原因も知っていますよね?」


 しばしの沈黙の後、理事長は立ち上がり、窓外を眺め、麗に視線を戻した。

「知っていると思うかい」

 彼は不敵な笑みを浮かべた。

「ええ。おじさまは知っていると思います……」

「なぜ、そう思うんだい?」

「明確な根拠はありませんが、学園の理事長を長く勤めていれば、色々とご存知ではないかしら」

 麗は探る目で理事長を見た。

「ふむ」

「知らないのであれば、他に方法を考えます。たとえば、報道機関に“私、魔法少女です”と宣言するつもりです」

「そんな話、誰が信じると思うかね」

「信じてもらえなければ、目の前で変身し、技を見せるだけです」

「場合によっては、国や警察に危険人物として捉えられるかもしれないぞ?」

「覚悟の上です」

 凛然とした声で麗は言った。


 ふたたび、理事長は沈黙した。

「ふう」

 と嘆息すると、理事長は険しい顔になった。

「しょうがない」

 おもむろに、理事長はテーブルの底をごそごそと弄り始めた。少し待つと、ガコンと開錠するような音がどこかから聞こえた。

 彼は部屋右奥に行き、そこにある兎と亀が描かれた掛け軸を引き剥がした。次に、掛け軸をかけていた壁を押した。


 ゆるゆると壁の一部が動き、成人男性一人が通れるような穴が開いた。

「ついてきたまえ。私の知っていることを教えてあげよう」

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