魔法少女とパフェと別れ(後編)

「もうやめて」

 茜がカラス男と明の間に割り込もうとするが、すぐに飛ばされてしまった。麗も希も同じように飛ばされた。

 カラス男の猛攻は止まらなかったが、ふと、右手に違和感があった。

「なんだ、これは」

 彼の右手の小指と明の左手の小指が繋がれていた。

「へへ。あんたら化け物は知らないのか? 結束バンド?」

 ぼろぼろな姿で明が言う。

「さっき、茜が窓を割ってしまった雑貨屋にちょうどあった結束バンドだよ。パフェ屋で茜がさくらんぼの茎を結んでいたことを思い出して、アイデアが浮かんだ」

 明は茜の顔を見つめた。

「とれない」

 カラス男は戸惑っていた。

「さて、この至近距離で、私自身がブラックホール化したら、お前はどうなるかね」

 明は不敵な笑みを浮かべ、カラス男を両手両足で羽交い絞めにした。

「今まで楽しかったよ、三人ともありがとう」

 明の言葉に、

「待って」と茜。

「えっ、え?」と希。

「そんなことはやめて頂戴!」と叫ぶ麗。

 明が雄叫びをあげると、体全体が黒いオーラに包まれ、球となり、膨らみ、カラス男もろとも消滅してしまった。


 茜はパニックになり、希は震えて腰を抜かし、麗はゆるりとカラス男と明がいた場所に近づいた。

 そこには、明の頭上にあったリボンが落ちていた。


 * * * * *


 警察や消防や特殊部隊が現れ、現場は騒然となった。

 目撃者も多く、プロジェクトφの研究機関および関係者は、口封じに躍起となっていた。

「もう、先輩、どこに消えたの」

 茜が消沈していた。魔法少女三人は、研究機関が用意した大型トラックの荷台に座っていた。外ではバタバタと大人たちが走り回っている。

 麗は無言で首を横に振った。

 希はずっとグスンと泣いていた。

「……」

 どれだけ沈黙が続いただろうか。

「ごくろうさま」

 理事長が現れた。

「今回は大変だったね。大体のことは、さきほど話を聞いた」

 彼は労をねぎらって言葉をかけたが、茜はぼんやりとし、麗は無言で沈痛な面持ち、希は泣いたままだった。

「日向野さんのことは残念だ。機関の方でも調査したが、彼女は、もう……」

「おじさま」

 麗が怒りと悲しみの混ざった複雑な表情をした。

「ん、なんだい」

「魔法少女を蘇らせる方法はなくて?」

 麗の問いに、

「無理だよ。それができるなら、もっと色々と有効利用している」

 と彼は答えた。

「そうね……」

 麗は数秒の間を取り、

「それでは、タイムリープは?」

 と聞いた。

「同じく無理だよ」

 理事長にすげなく言われた。


 * * * * *


「ただいま」

 横田が家に帰ると、家族は既に夕食を済ませていた。

「おかえり。遅かったね」

 妹の加奈子は歯磨きをしていた。

 兄は、今日あった出来事(明の死亡)を話すかどうか迷ったが、後々に知る事だろうと思い、黙っておくことにした。

 自宅に送る際、茜と麗は終始無言だった。普段は明るい二人だが、今回ばかりはかなりの精神的ダメージがあったようだ。

「五月女さんの用事が長かったのかな?」

 妹が聞いた。

「うん。そんな感じ」

 兄は言葉を濁して答えた。

「あ、そうそう」

 妹が嬉々として言った。

「この前、話していた、”ドキッ! 女の子だらけの睡眠大会!”のガシャポン。限定レアアイテムをげっとー」

 黒いマスクをした、二本のツノが生えた、ブラウンのボブヘアーの女性キャラクターのチャームを見せた。

「これが? ふーん」

 兄はたいして興味がない。漫画やアニメはそれなりに見るが、有名作品や実写化された作品ばかりのライト層なのだ。

「実は、もう一つとっていた」

 妹は、さきほどと同様の女性キャラクターのチャームを見せた。唯一違う点は白いマスクをしていることだ。

「これをね。日向野さんにあげようと思うの。彼女もアニメ好きだし」

 兄はドキリとした。

 妹は明が亡くなった事実をまだ知らない。マスコミには報道規制がしかれているので、一般人は何も知らなくて当然だ。

 明日、その事実を学校で知ることになるだろう。

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