魔法少女とパフェと別れ(前編)

 日曜日の午前。

 明と希はI県K市のK沢駅前にいた。K沢駅は、特殊なドーム状の形をしており、駅の門は能の鼓をモチーフとしている。

 ここを集合場所にしたのは、先日約束したフルーツパフェを食べるためだ。

「麗と茜はまだかな?」

 明が腕時計を一瞥して言った。隣の希もつられて腕時計を確認し、

「そろそろかも」

 と言った時だった。

 ロータリーにワゴンタイプのシルバーの車が停車した。運転席には見慣れた顔がいた。麗の専属運転手の横田だ。

 後部座席のドアが開き、勢いよく茜が出てきた。今日も絶好調で元気なようだ。

 茜は振り返り、

「麗ちゃーん」

 と叫んだ。

 優美な動作で麗が後部座席のドアから出てきた。通りがかった男性が何人か見惚れるほど、お嬢様然として綺麗な所作だった。

 集合すると、いつものクールビューティな笑顔を見せた。

「おはようございます。それでは参りましょう」

 目的のフルーツパフェのお店は、駅前の大通りの道を直進し、ビルなどが立ち並ぶ交差点を右に折れると存在する。

 前回も茜ときたフルーツパフェ店だが、今回は四人では初めてなので、麗も茜も楽しみにしていた。


「へえ。こんな感じなんだ。いいじゃん」

 店内の四人掛けテーブルに着席後、明が言った。

「素敵ね」

 希も内装が気に入ったようだ。

 茜はジャンボチョコレートパフェ、麗はプリンパフェ、明はコーヒーゼリーパフェ、希はジャンボフルーツパフェを注文した。

「ふたりとも、そんなにも食べれる?」

 茜と希の注文内容に対して、明が言った。

「二杯はいけるよ!」

 と威勢のいい茜。

「折角だし、チャレンジしたくて」

 と好奇心が勝った希。


 全員がフルーツパフェを堪能している時だった。

「シュッシュッと! シュシュシュッと!」

 店外から奇妙で大きい声が聞こえた。禿頭でぽっちゃりとした体型の男だ。しきりに手を上下に動かしながら歩道を歩いていた。

「妖怪!?」

 希が立ち上がった。

「希ちゃん。そのくだり、前回も茜さんがやりました」

 麗が制した。

「街でたまに見かける一風変わった人だと思いますわ」

 麗は髪をかき上げながら微笑した。

「そっか。多様性の時代だもんね」

 よくわからない納得をして、希は座り直した。

「ねえねえ、見て」

 茜が舌を見せた。そこにはさくらんぼの茎が結ばれてあった。

「茜ちゃん、すごいわ」

 麗は感心した。


 パフェでお腹を満たした一行は、フルーツパフェ店から少し離れた、ファッションや雑貨などがひしめく繁華街に向かった。

「そういえばさ」

 歩きながら、明が切り出した。

「まだ部長決めてないよな。魔法研究部」

 茜はきょとんとした顔で明を見つめた。

「え? 部長って、先輩じゃないの?」

「ハア? なんで私だよ。学年は一緒だから、誰がなってもいいからな。茜がやれよ」

 明は人差し指で茜を指名した。

「えー、いやだ」

 茜はしなを作った。麗とは違って上品さの欠片もない。

「我儘だな。おい」

 明は肩をいからせた。

「部長がいないくても、部の申請は通るのですね」

 希が聞くと、

「ああ。部に昇格してから部長を決めていく方針だからな。うちの学園は」

 明は希の頭を撫でながら言った。


 歩みを進めていると、

「きゃあ」「逃げろ」

 繁華街のほうから人が慌てふためいていた。続々と逃げる人々がきて、ぶつかり、希は倒れこんだ。

「なにかしら」

 麗は呑気な声で言った。

「ば、ばけものだー」

 男が叫びながら逃げていた。

 四人は逆走し、発信源に向かった。


「ふははは」

 わかりやすい声をあげて、彼は歩行者たちを殴っていた。以前倒したはずのカラス男だった。

「また現れた!」

 茜は身構えた。

「おや、誰かと思えば、お前たちか」

 カラス男は手を広げた。黒い羽があたりに舞う。

「学園から離れているのに、現れるなんて……。私たちは明さん以外変身できないのに」

 麗が悔しそうに言った。右手にはスマートフォンを持っていた。

「しょうがない」

 明は変身し、無数の黒い球を作り出していた。

「私のとびきりのデスボールを食らえ」

 カラス男に向けて飛んだが、彼が両手を大きくクロスさせると竜巻が発生し、黒い球は消えた。

 カラス男は素早く動き、明の眼前に現れ、みぞおちに蹴りを入れた。

「この前は油断してお前たちにやられたが、ん? お前、前回みなかった顔だな。他の奴らはどうした?」

 明の髪の毛を掴み、生臭い息をあてながら彼は言った。

「へっ、あんたなんか、私一人でっ、十分だってーの」

 明は痛みを堪えながら挑発した。

 カラス男にまたしてもみぞおちに攻撃を食らわされる。

「ぐは」

「え、なんだって?」

 彼の眼光が鋭くなった。


 パンッという破裂音が響いた。カラス男の腕の腕に1cm弱の穴が空いていた。

「んあ、なんだ?」

 彼が振り返ると、そこには立膝をして拳銃を構える麗がいた。

「ぶっつけ本番になるけど、茜ちゃん、希ちゃんも撃ってみて」

「え、でも」

 二人はうろたえていた。

「おじさまを通じて国の許可はとってあるから大丈夫。さあ、撃って」

 三人とも防弾チョッキをつけていた。それぞれの手には拳銃がある。

「はい」

 パンパンと弾を放つが、近くの雑貨店の窓ガラスに当たり、カラス男はノーダメージだった。

「もう少し早く準備して、みんなで練習しておけばよかったわ」

 自分たちの変身範囲外での化け物との遭遇を考慮して、麗はあらかじめ準備していた。きっかけは以前のキャンプでの出来事(※第二章五部参照)だった。

 麗はもう一発、二発と打ち込んだ。

「ぐあ」

 カラス男が怯んだので、明は離れた。

「いい加減にしろ」

 カラス男は三人に向かって左手を振り上げた。

「きゃあ」

 彼女たちの構える銃に黒い羽が入り込み、暴発した。

 カラス男は殺気を感じ、振り返り、避けた。黒く大きな球が掠めていった。

「くっ」

 彼は左腕に傷を負った。致命傷ではないので明は残念がる。

 逆上したカラス男は近寄り、明をいたぶり始めた。

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