魔法少女を目撃
(とんでもないものを見た)
横田加奈子は驚愕していた。
兄の頼みで”魔法研究部”なるものに幽霊部員として入部したのだが、こっそり部室の様子を伺うと、何やら部員たちは奇妙な会話をしていた。
(なんなの、あれ……)
魔法少女がどうのこうの、化け物が出て云々と会話しているのだ。最初はアニメの話だと思ったのだが、のちに違うことが判明した。
部室の建物の陰に隠れていると、突然化け物が現れ、部員たちが魔法少女に変身し倒したたのだ。大掛かりなドッキリでも仕掛けているのかと勘繰ったが、どうやらこれは現実のようだ。
彼女たちがいなくなると、こっそりと物陰から出て、一目散に学園を離れた。
「――ということがあったの」
帰宅し、兄にあらかたの説明を終えた。
「ふうん。夢でも見ていたのだろ」
兄の反応は素っ気なく、明らかに何かを知っている態度だった。
「ちがう、夢じゃないから」
加奈子は否定したが、兄はふぅと溜息をつき、
「疲れているんだよ。明日は休むといいよ」
と学校を欠席するように勧められた。
翌日、加奈子が学校を休むことを両親は反対しなかった。むしろ、歓迎しているような感があった。
両親と兄が出勤した後、リビングのソファで横になってくつろいでいると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
不用意にドアを開けると、そこには黒ずくめの男が数人いた。
加奈子がドアを閉じるよりも早く、男たちはなだれ込んできた。
「け、警察呼びますよ」
彼女は訴えたが、
「警察を呼んで困るのはあなたですよ」
と先頭の黒スーツの男は凄んできた。
「リビングで、話しましょう」
* * * * *
黒スーツ男の話によれば、魔法少女や化け物は国の秘密事項であること。その事実を口外するのは逮捕案件になることの説明を受けた。
黒ずくめの男たちが帰った後、加奈子は言い知れぬ不安と恐怖で震えていた。
(どうして。どうして、こんなことに)
彼女は、この気持ちを誤魔化したく、スマートフォンを開いてLINEアプリを起動していた。
加奈子:ちょっといいかな
茜:ん? なに?
加奈子:元気?
茜:元気だよ! 今日はお休み?
茜:学校で見かけなかった
加奈子:休み
茜:風邪?
加奈子:ちがう
茜:?
加奈子:あのね
茜:うん
加奈子:茜ちゃんは魔法少女?
茜:うん! そうだよ!
加奈子:国のトップシークレットなのに、言っていいの?
茜:あ、そうだった!
茜:あはは。ジョークだよジョーク
加奈子:そうだよね。冗談だよね(汗)
茜:ま、またね
加奈子:またね
加奈子は後ろを振り返った。黒スーツの男が見張っているのではと疑ったからだ。背後には誰もいなかった。
「なんの連絡かしらん?」
麗が尋ねた。
今日も茜と麗と明の三人は学園の中庭でランチをとっていた。希はいきもの係の所用のため不在だ。
「なんか、加奈子ちゃんから、魔法少女かどうか聞かれちゃった」
茜の表情は引きつっていた。
「あなた、馬鹿正直に答えたんじゃないでしょうね」
明が顔を近づけて指摘した。
「えへへ」
茜は舌をペロッと出した。
「えへへ、じゃないよ。もう、ほんとうに……」
明は失笑した。
「あら、その方が茜ちゃんらしいわ」
飄々と麗が言った。
「見ちゃったのかな。加奈子ちゃん」
「多分、そうでしょうね」
明の疑問に麗が答えた。
「だとしらたら、大丈夫なのかなぁ」
茜が言った。
「何が?」
「部を辞めるかも。あるいは学園そのものを……」
「たしかに、その可能性はありえますわ」
麗は卵焼きを口に入れた。
「やだやだ、また、部じゃなくてサークルに戻っちゃう! やだやだ、やだあきこ!」
茜は駄々をこねた。
「いや、落ち着きな。まだ決まったわけじゃないし」
明が諭した。
* * * * *
「私、学校辞めたい」
その夜、加奈子は兄に相談していた。対面でダイニングテーブルの椅子に座っていた。
「どうして?」
横田兄はネクタイを緩めながら聞いた。
「言わなくても、理由はわかるでしょ」
「……」
「やめてもいいかな? 兄ちゃんに迷惑かかっちゃう?」
加奈子の問いに、兄は無言になった。
「そうだな。辞めないほうがいい」
しばらくして口を開いた。
「俺には迷惑がかからないが、”ある事実を知った人間”として国の組織からマークされる」
「そうなの?」
妹の言葉に彼は頷いた。
「だから、俺は当初反対だったんだ。入学することを……。でも、もうしょうがない。受け入れていくしかない」
「えー」
加奈子は不服そうに口を窄めた。
「それに」
「それに?」
「秘密事項を知っているということは、このまま卒業すれば、国の権力によって、いいポジションを用意してもらえるかもしれない」
「ポジション?」
加奈子は虚を突かれた顔で聞いた。
「卒業した後に、就職するにしろ進学するにしろ、取り図ってもらうことができる。その可能性が高いってことだよ」
兄は真面目な顔で言っていた。嘘をついている雰囲気ではない。
「私、頑張って卒業する!」
彼女は立ち上がって拳を突き上げた。どこかの漫画でみたようなポーズだ。
「現金だな、おい」
兄は呆れ顔だ。
この日まで、横田兄妹も、魔法少女たちも、あのような展開になろうとは予想していなかった。
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