魔法少女の疑念再び
放課後、茜と麗は理事長室を訪れていた。
魔法研究会を部に昇格させるため、書類を直接持参し、理事長にその場で判を押させるという目論見だ。
「五人のメンバーが揃って、顧問も部室も決まったことですので、ここに印をお願いします」
麗は理事長に書類を渡した。
「まあ、問題ないだろ」
ざっと目を通し、理事長は机から朱肉と判子を取り出した。
「ところで、おじさま。お尋ねしたいのですが」
「なんだね」
判子を押しているさなかだったので、理事長はぎょろりと上目遣いで麗を見る形になった。
「先日、倒したはずの幽霊が再び現れたのですけれど、どのような仕組みでそうなるかご存知ですか?」
「わからないな」
書類を返しながら理事長は答えた。
「そうですか。では、質問を変えます」
「どうぞ」
麗は一呼吸置き、まくし立てた。
「魔法少女が発生するのは、どのような条件なのでしょうか。私たちがなぜ選ばれたのか、わかりません。何度も観察と考察をしましたが、傾向を掴めません。年齢や処女性を考えたのですが、それも当てはまらず、学園との因果関係もあまり意味がなさそうです。
おじさまは何か知っていらっしゃいますね? だから、のらりくらりとかわしているように見えます」
理事長はゆるりと首を振った。
「私にもわからないことだ。パラレルワールドの研究、プロジェクトφの影響で発生しているとしか、いいようがない」
彼は麗の肩に手を置いた。
「あまり考えすぎるな。私はこれからミーティングがあるから、そろそろ出るよ」
麗は理事長の手を振り払い、
「おじさま。おじさまだから許しますが、うら若き乙女の肩に手を置くのはセクハラになりますわ」
と言葉を強くした。
* * * * *
茜、麗、明、希の四人は、長方形のテーブルを囲むように座っていた。
「いやー、やっぱり、じゃ〇りこは美味しいなぁ」
茜はウサギのように細かく噛み砕きながらスナック菓子を食べていた。綺麗に清掃された部室の床は、早速そのスナック菓子によって汚れていた。
麗は理事長室から戻ってきて以来、ずっと沈んだ表情で物思いにふけっていた。
「私も考えすぎだと思うよ。あのおっさんがなんでもかんでも知っているとは思わないし」
明がフォローした。おっさんとは理事長のことを指している。
「そうかしら」
消え入るような声で麗が言った。
希は熱心にスマートフォンを操作していた。ウサギやキリンなどの動物の画像が次々と流れていた。
「この前、動物園に行って、撮ったよ」
明の視線に気づき、希が言った。
「ああ、I県動物園?」
「うん。そう」
「長寿のカバさんいるよね!」
二人の会話に茜が割り込んだ。
「長寿のカバなら、十数年前に亡くなっているわ」
麗が茜の発言を訂正した。
「カバディカバディカバディ」
茜は立ち上がり、反復横跳びのように左右に動いた。
「食べ物を咥えながら動くのはやめなさい」
明が忠告した瞬間、茜は激しくむせた。
テーブルにあるペットボトルの水を慌てて飲み、
「ハ~、死ぬかと思った」
と言った。
「子供みたいなことしないでよ」
明は苦言を呈した。
「もしかして、でも、いや、まさか」
麗は何かを思いついたらしく、顎に右手をあてがい、深刻な表情になっていた。
「きゃあ」
部室の外から悲鳴が聞こえてきた。
女子生徒がへたり込んでおり、その前にはイグアナとコンドルのキメラ状の化け物がいたので、茜は間に入った。
「大丈夫? 逃げて」
茜が言うやいなや裏門とは反対方向に女子生徒は逃げていった。四人はそれを見届けると変身した。
化け物は口から炎を吐いた。対抗して茜も炎を放つと、相殺された。
麗は氷の矢を飛ばしたが、化け物の背中のうろこは硬いので効かなかった。
希は熊を召喚していた。熊は化け物と組み合ったが、激しい殴打の応酬の後、熊は退散してしまった。化け物はダメージがほぼなかった。
「かなり硬いわ」
と麗が言った。
「これはどうかな」
明が小さなブラックホールのようなものを大量に飛ばした。その球に当たると、化け物の体に筒状の穴が開いた。
「ぎいい」
苦しそうに呻き、化け物は闇雲に暴れ始めた。茜と麗が叩きつけられ、吐いた炎は希に当たり、振り回した尻尾は明に命中した。
「みんな大丈夫?」
明が聞いた。
「なんとか」
茜が立ち上がり、麗に手を貸した。
「ありがとう。大丈夫そうよ」
「私も問題なし」
希は腕に多少の火傷を負ったようだが、咄嗟に猿などの動物たちが守ってくれたようだ。
彼女が口笛を吹くと、空から大量の鷲や鷹が舞い降りてきた。
「わあ」
茜が驚いた。
鳥たちは一斉に化け物を攻撃し、啄んだりしている。
「お食事時に見たくない光景ね」
明は視線を逸らした。
化け物は黒いもやとなって霧散した。
「勝利!」
茜が親指を突き立てた。
変身を解き、麗は自分の体をまじまじと確認していた。
「それにしても、変身を解くと、変身時の傷が残ってないのは不思議だわ」
麗が言うと、「うん」と他の三人も頷いた。
「痛みは残っているけどね。とほほ」
茜が腰を抑えながら言った。
「変身中に無茶して瀕死になっても、変身解けば死ななくて済むかな?」
明の疑問に、
「いえ、その方法は止めた方がよろしくて」
麗が否定した。
「痛みは残るので、瀕死になるほどの怪我があったまま解くと、脳死もしくはそれに近い状態になるのではないかしら」
「なるほど」
明は一理あると思い納得した。
「ねーねー。さっき希ちゃんと話していたんだけど」
茜は華やいだ声を出した。
「みんなでパフェ食べに行かない?」
「では、早速、横田さんに連絡とるわ。都合のよい日はいつかしら」
麗はスマートフォンを取り出した。
「やった! ぱーふぇぱーふぇ」
茜は明と希の肩を組んで喜んだ。
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