魔法少女の戦隊もの

「輝く笑顔にスパイシーな炎! マキビシレッド!」

 茜が某戦隊ヒーローのようなポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「クールな美しき氷の女神! マキビシブルー!」

 麗が気障なポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「あ、えっと、可愛いお耳は動物好きの証! マキビシイエロー!」

 希があざと可愛いポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「あ゛た゛たかい心とあ゛づいじょーねつ! マキビシマスター!」

 マキビシ仮面―小橋―がポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「四人揃って、マキビシマン!」

 四人が同時に叫んだ。

(なんで俺がこんなことを……)

 小橋はゲンナリしていた。

 経緯を知るため、時を今朝に巻き戻そう。


 * * * * *


「おはようございます」

 生徒たちが続々と門を通り、挨拶していく。

「おはよう」

 朝、小橋は学園の正門に立っていた。持ち回りで教員が一人以上立つことになっているからだ。

「おはようございます」

 麗が現れた。今朝もクールビューティで、何人かの男子生徒が見惚れていた。

 前を通過する際、さっと手に紙切れを渡された。

<放課後、部室でお待ちしております>

 メモにはそう書いてあった。

(なんだ? ラブストーリーは突然に、ってか? 困ったなぁ。俺はむちっむちな成人女性にしか興味ないのに)


 放課後。魔法研究会部室に行くと、既に麗が待っていた。

「用事って、なんだ?」

 小橋はネクタイを締め直しながら聞いた。

「先生」

 麗が優雅に近づいてきた。キスされるかと思ったが、

「先生の正体知っています」

 と耳元で囁かれた。

「な、なんのことだ」

 とぼけたつもりが成功しなかった。射貫くような眼で彼女は見ていた。

「先生かしら? 忍者の恰好した変態さん」

 小橋は耳まで色づくほど赤面した。

「ははは。なんのことやら」

 彼は頭を掻いて誤魔化した。

「誤魔化しても無駄ですわ。念のため、理事長にも確認とりましたから」

 麗はフフッと不敵に笑った。

(あの狸オヤジめ)

 小橋は内心毒づいた。

「私たちに協力してくれるのはありがたいですが、茜ちゃんには手を出さないでいただけるかしら」

 麗が厳しい表情で言った。

「手をって、女子生徒に手を出すわけないだろ」

 焦って反論すると、

「あら、男子生徒には手を出すのかしら」

 麗が茶化してきた。いや、BL願望かもしれない。

「成人女性のみって意味だよ」

 小橋は肩を竦めた。

「それなら、安心だわ。そうよね。先生は、保険医の真鍋さんがお好きなようですし」

 麗の言葉に彼はドキリとした。卑猥な妄想を何度もしたことがあるので、否定できなかった。

 ライーンとスマートフォンの通知音が聞こえた。麗はスマートフォンをポケットから取り出して見た。


茜:麗ちゃん! 化け物あらわれたよ!

麗:わかった。いまいくわ。


「行きましょう」

 麗は変身した。小橋も嫌々ながら変身する。

 駆けつけると変身した茜が既に化け物と対峙していた。

「あれ、麗ちゃん。なんでマキビシ仮面様と一緒にいるの?」

「たまたまそこで出会いました。そんなことより、さっさと倒してしまいましょう」

 今回の化け物は、ゾンビがマリモのように結合していた。

「んえ、なんだあれ」

 マキビシ仮面は、おもわず素が出てしまった。理事長や組織の人間からは「教員とはバレないように、気障キャラでいきなさい」と厳命されている。

「茜ちゃん、早速だけど、アレやってみないかしら?」

 麗の言葉に茜は、

「うん」

 と頷いた。

 茜は炎を出し、念をこめて造形していった。すると、炎は剣の形になった。

 同様に、麗も氷を剣にしていた。

「いきますわ」

「ゴー」

 二人は同時に化け物に切りかかった。切り刻まれ、化け物はあっという間にバラバラになった。

 化け物の残骸は黒煙をだし、消えていった。


「ところで」

 茜は麗とマキビシ仮面を交互に見ながら言う。

「本当はマキビシ仮面様と何していたの? 麗ちゃん」

 虚を突かれて、麗はクールさが崩れた。

「なに、突然」

「麗ちゃんって、私に嘘つく時、急に敬語になったりするよね? さっきがそうだったもん。”たまたまそこで出会いました。倒してしまいましょう”って」

 茜の発言に、マキビシ仮面は感心してしまった。

(ふざけてばかりかと思ったが、意外と鋭いんだな)

 そのせいか彼は冷静だったが、麗は慌てていた。

「ち、違いま、違うの! えっと、そう、実は、ある練習をしてたわ。仮面さんと二人で、茜ちゃんをびっくりさせようって」

 麗はぶんぶんと両手を振りながら言い訳を取り繕った。

「へー。なんの練習?」

 茜が訝しげに麗を覗き込む。

「茜ちゃん、戦隊もの好きでしょ! そこで、魔法少女と仮面さんで戦隊ポーズ決めようと思ていたの!」

 麗は必死に弁明した。

(おい。変な言い訳するな)

 マキビシ仮面はぐっと堪えて黙っていた。気障で冷静なキャラクターを演じなければいけない。

「いいね! それ!」

 茜は目をキラキラと輝かせて賛同した。

(うわ。ちょろ。そんなんで騙されるれるのかよ)

 彼は苦笑していた。

「じゃあ、すぐやろうよ! 希ちゃんも呼んでやろう!」

 かくして、魔法少女三人とマキビシ仮面は戦隊ポーズをとることになったのである。


 * * * * *


 希が合流し、四人は打ち合わせをしていた。

 茜は歴代戦隊のポーズを動画サイトで見つけ、「ここがこうで」といった風にレクチャーしていた。

「ポーズはだいたい決まったから、あとは名乗りだね」

 嬉々として茜が言った。この場で乗り気なのは茜だけだ。

「麗ちゃんは、そうだなぁ。”クールな女神! マキビシブルー!”みたいな感じでよろしく」

 次に希の顔を見て、茜は言う。

「希ちゃんは可愛いから、” 可愛いお耳は動物好きだから! マキビシイエロー!“とかいって、ちょー可愛いポーズとって」

 続けて、マキビシ仮面を見て、

「マキビシ仮面様は、かっこいいから! 自分で!ナイスで(E)な台詞考えて!」

 無邪気な笑顔で彼女は言った。

「それじゃあ、いくよー」


「輝く笑顔にスパイシーな炎! マキビシレッド!」

 茜が某戦隊ヒーローのようなポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「クールな美しき氷の女神! マキビシブルー!」

 麗が気障なポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「あ、えっと、可愛いお耳は動物好きの証! マキビシイエロー!」

 希があざと可愛いポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「あ゛た゛たかい心とあ゛づいじょーねつ! マキビシマスター!」

 マキビシ仮面がポーズをとりながら名乗りを叫んだ。

「四人揃って、マキビシマン!」

 全員の名乗りとポーズが決まり、数秒の沈黙があった直後、ヒュードカーンという音があった。

 振り返ると花火が打ち上げられていた。

「もしかして、麗ちゃん、花火まで用意してくれていたの?」

 茜が感激した声で言った。

「そうよ。だって、今日は茜ちゃんの誕生日じゃない。おめでとう」

 麗はクールビューティに笑った。

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