魔法少女の疑念

 いつものように、茜と麗は学園の中庭で昼食をとっていた。前日の理事長との面談以降、麗はずっと沈痛な表情をしていた。

「やっぱり、おかしい」

 茜が卵焼きをほおばった時、麗が呟いた。

「お弁当の味がおかしいの?」

「相変わらず美味しいわ」

「じゃあ、お菓子が食べたい?」

「スナック菓子は好きだけど、いまはダイエット中よ」

「私、ポテチ大好き!」

 茜は卵焼きを口にした。

「昨日のおじさまの発言が……。納得できなくて」

「そうなの。私はなんとなく納得しちゃったけど」

「だって、お化けがでるのは百歩譲っていいとして、私たちが魔法少女になるのは“パラレルワールドの歪みのせい”って納得できない」

 茜は卵焼きを嚥下し、お茶を飲むと「なんで、そう思うの?」と聞いた。

「おじさまの様子がいつもと違っておかしかったし、それに、理由が漠然としすぎている……。何の根拠もない、私の勘なのだけれど」

「うーん」

「あの後、”君たちが魔法を使えるのも、化け物が出てくるのも、過去の統計からせいぜい学園から半径500mくらい”って言っていたけど、それすらも怪しく感じる……」

 話を聞きながら、茜は豆ひじきを咀嚼した。

「学園長は”君たち以外に魔法少女はいない”って言っていたけど、どうして二年生や三年生にはいないのだろう」

「この学園は、そもそも上級生が少ないと思わない? あくまで、想像だけど、進級する過程で妖怪を見たりするなどして、怖がって学校をやめたから、そもそも魔法少女候補がほとんどいないのではないのかな」

「そうなのかな」

「あるいは……」

 麗は空を見上げ、思案した。


「そういえばさ」

 お弁当を食べ終わると、茜が切り出した。

「昔から幽霊や魔法少女がいたのなら、なんで今までは噂程度で、大きな話題になっていなかったんだろう」

 その問いに対して、麗はいつものクールビューティな笑顔を見せた。

「それは、おそらく、国が圧力をかけてマスコミにかん口令を敷いて、一般の目撃者には”これは国家機密だから、騒ぐとスパイ容疑で逮捕だよ”などと言って脅してきたのではないのかしら」

「ああー。なるほど」

 相槌を打つと、茜は勇ましい顔を作った。

「こら、誰にも言うんじゃないぞ」

「それ、誰の物まね?」

 ふふっと麗は笑った。

「想像上の圧力をかける人です。こら、ダメだぞ! 魔法少女のことは秘密だぞ!」

 茜は立ち上がり、仁王立ちになった。

「もっとスマートに圧力をかけると思うわ」

「す、すまーとに、あつりょく……。肉じゃがを作ろうぞ」

「圧力鍋で作ると美味しいわ」


 * * * * *


 放課後、帰り支度をしていると、

「ギョエー」

 と情けない男性の悲鳴が響いた。

 茜と麗が駆けつけると、男子生徒が腰を抜かして尻餅をついていた。

「あ、あ、あそこ」

 と校舎裏にある木の陰を指差していた。

 そこには、上半身だけの老婆がいて、しゃかしゃかと高速で二本の手を動かしていた。テケテケと呼ばれる妖怪に酷似している。

「んげ、気持ち悪い」

 茜が舌をだして言った。中途半端に人間味があるので、絶妙な不快感があった。

「男子生徒がいますが……。身の安全を優先し、変身しましょう」

 麗が言い、変身した。茜も続く。

 テケテケは素早い動きで校舎の壁や地面を行ったり来たりして、翻弄した。

「エイムが定まらないわ」

 麗が言った。

「ファイヤーエスプレッソ!」

 茜が、無数の炎を凝縮し、それをボールのように投げた。見事にテケテケに当たり、黒いもやを出して消えた。

「やった! 倒したよ」

 茜がぴょんぴょんと喜びの舞を踊っていると、どこからか黒服サングラスの男が現れた。長身で筋骨隆々なので、威圧感がある。

 彼は、男子生徒に近づくと、何やら耳元で囁いていた。

「なるほど。いつも、ああやって目撃者を脅迫していたわけね」

 説が立証された光景を見て、麗は苦笑した。

「私の想像モノマネ、結構似ていたんだ!」

 茜は笑った。

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