魔法少女の連休遊戯(前編)
「連休のご予定はいかがかしら?」
四月下旬の某日、三時限目の終わりに麗が聞いてきた。
「もう黄金週間かぁ。って、麗ちゃんと出会ってまだ一ヶ月も経っていないんだね」
「中身の濃い一ヶ月だわ」
麗が感想を漏らした。
「ふたりのキャラも濃いけどね」
茜の後ろの席の明が言った。
「二人とも、予定はあるかしら?」
再度、麗が聞いた。
「ない!」
茜が横に首を振ると、
「私もあるわけないでしょ。自宅の店番くらいよ」
と明も横に首を振った。
「じゃあ、決定ね」
そう言って、彼女は小冊子を二人に渡した。冊子の表紙には、
【楽しいキャンプ】
と書かれていた。
* * * * *
ゴールデンウィークの初日、茜、麗、明は学園近くの山を登っていた。
「ってかさ、あんたお嬢様なら、海外とか行かないわけ?」
明がぜえぜえと息を切らして言った。スポーツキャップ、抽象的なイラストが描かれた長袖シャツ、ジーンズという出で立ちだ。
「あら、海外はもう十分。帰国子女ですので、国内を満喫したいのです」
麗が涼やかに言った。カンカン帽に青いワンピースが似合っている。
「お嬢様のくせに、体力あるわね」
明が皮肉を込めると、
「明さんこそ、引きこもってばかりではなく、スポーツでもしてみては?」
とやり返した。
「それよりも、もっと元気な方がいますわ」
麗の視線の先には、元気に手を振る茜がいた。白のベーシックなTシャツにデニム生地のボトムスという服装だ。
「おーい! 麗ちゃーん! せんぱーい! ここに蛙がいたよー!」
「小学生か!」
明がツッコミを入れた。
「そろそろ着くはずですので、頑張って、明さん」
麗が励ました。
しばらく歩くと、寂れた建物が見えた。
「ここです」
麗が言った。
「昼間から肝試しでもするの?」
茜が両腕を擦った。
「違います。ここは、元々小学校だったところをキャンプ場にしたところです」
「へー! 楽しそう」
茜は嬉々とした。
「なんていうか、趣のあるとこだね」
明は必死に言葉選びをした。
「お嬢様、お待ちしておりました」
麗の運転手の横田が現れた。後方には車が見えた。
「車で来れるじゃないか!」
明が嘆いた。
「キャンプは道中も楽しむものよ」
したり顔で麗は言った。
一通りキャンプ場のオーナーの案内が終わると、運動場だったと思われる場所で、横田はテントの設営を始めた。茜はそばにいて手伝っている。
麗はゆったりと日傘をさして椅子に座っていた。
「おじょーは手伝わないのかよ」
明が言った。
「ええ」
「これこそがキャンプ本来の楽しみだろ」
「ええ。こうやって見て満喫していますわ。テントの設営を」
(だめだこりゃ)
明は肩を竦めた。
テントの設営が終わると、
「いいねいいね」
と連呼しながら、茜はテントを出たり入ったりしていた。
横田が薪を準備している間、茜、麗、明の三人は辺りを散策した。
「わー、こんなところにキノコがある」
森林の近くで、茜が見つけた。
「それ、毒キノコでしょ」
明は制した。
「え、そうなの」
茜は手を引っ込めた。
「きのこーのこ、のこ、元気なこ♪」
茜は歌いながら、拾った木の棒を振り回していた。
「危ないから、棒を振り回すのやめて」
明が言い終わらないうちに、茜の手から離れて棒は林の奥に飛んでいった。
ガサガサ。
「ぐるるる」
林の奥から、獣のような唸り声が聞こえてきた。
「ほら、獣か何かに当たって、怒っているじゃん」
「もしかして、熊?」
茜が言うと、それは林の奥から飛び出してきた。
「熊じゃない!」
見た目は猪に似ているが、その体からは複数の棘や毒々しいキノコが出ていた。
「また化け物」
明が嘆息した。
「明さんお願いします」
「先輩! ふぁいとー!」
「いや、あなたたちも変身しなさいよ」
明は二人の肩を掴んだ。
「私たちは遠いと変身できませんので……。ここは学園から1.5キロメートルありますので」
「マジかよ」
明は変身した。
「相変わらず、明さんだけが変身できるのは不思議ですわ」
「せめて応援くらいしろよ」
明は獣にパンチを食らわせて怯ませた。二人がターゲットにならないように興味の矛先をこちらに向けた。
「ふれーふれー、先輩!」
茜はハンカチを振って応援した。
「明さん、頑張って」
麗は手拍子していた。
一発目のパンチは当てることはできたものの、二発目、三発目は避けられていた。
「山の中だと木や草が邪魔でやりにくい」
明はぼやいた。
その時、パンパンと弾ける音が響き、獣は驚いて山の奥へ逃げていった。
「おめえたち、大丈夫か」
入れ替わるようにして、猟銃をもった老人が現れた。
「まて」
明は獣を追いかけようとしたが、
「どこいくんや」
老人に止められ、
「ここら辺は熊や猿がよくでるから、お子様はさっさと帰れ」
と吐き捨てた。
「これだから、ワシはキャンプ場ができるのは反対やったんや」
ぶつぶつと言いながら、老人は去っていった。
「どうしよう……」
明は動揺した。
「大丈夫。また現れると思うから、その時に退治すればいいわ」
麗がフォローした。
「とりあえず、キャンプ場に戻りましょう。日も暮れてきたことですし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます