第44話 模擬戦とお金
北門から離れた草原で、小さな黒猫と大きな漆黒のドラゴンが対峙していた。両者の大きさは絶望的なまでに違う。ドラゴンにかかれば黒猫なんて一撃で踏み潰してしまえるだろう。
「来るがよい!」
『行きますぞ!』
これからグウェナエルをクロが指導するらしい。
コンドラートを倒したグウェナエルだけど、彼は更なる強さを求めてクロに師事していた。
「豚の串焼きはいらんかね~?」
「腹が減っては安気に戦は見れんぞ~? サンドイッチはいかがかな?」
「水はいかがですか~? 井戸から汲み立てですよ!」
そんなクロとグウェナエルの模擬戦だけど、今では街の娯楽としてすごい人気になってしまった。
人々が集まれば商売のチャンス。そう言わんばかりに、今ではたくさんの人々の間を縫うように売り子さんたちが商売している。小耳に挟んだ情報では、売れ行きはいいらしい。商人さんたちから感謝されたくらいだ。
商人さんたちから提案されたけど、見物料を取るべきだと言われた。
ドラゴンが見られるだけでも貴重な機会なのに、ドラゴンの戦うところを安全に見れるなんて、ものすごいショーとなるらしい。
商人さんの中には、興行を任せてほしいと言う人もたくさん居た。
断ろうかと思ったけど、グウェナエルはお金を集めているから、シヤと相談してOKを出した。
少しでもグウェナエルの足しになればいいよね。
グウェナエルは、まさかこんなことがお金になるなんてと驚いていたっけ。
そんなこんなで生まれたのが、最前列で座って見れる特別有料席だ。ご飯や飲み物のサービスが付くらしい。なんだか花火の特別席みたいだね。
前回は領主様もウッキウキでクロとグウェナエルの模擬戦を見にきていた。
他に娯楽があるであろう貴族である領主様にもこの模擬戦はお金を払ってでも見たいショーらしい。
地球でもプロレスとかボクシングとかも会場で見るのにお金かかったもんね。もしくは、サーカスの方が近いのかな?
瞬く間に人気になったクロとグウェナエルの模擬戦だけど、実はグウェナエルは一度もクロに勝てたことが無い。
クロには悪いけど、そろそろグウェナエルが勝つ姿も見てみたいね。
そしたら、グウェナエルも自信が付くと思う。
そして、お金が溜まればジャンナ姫に告白――――。
なんだか当事者じゃないのにドキドキしてしまう。
ちらりとクロたちの方を見れば、漆黒のドラゴンが二体見えた。クロが影で創り出したドラゴンと、グウェナエルだ。
お互いに殴り合ったり、蹴り合ったり、尻尾で攻撃したりしている。
ドラゴンといえばドラゴンブレスだと思うんだけど、模擬戦では近接格闘が主だった。グウェナエルが、コンドラートに勝てたのも、格闘術を磨いていたのが大きいらしい。
「グエルがんばれー!」
「すっげー迫力だぜ!」
「ドラゴンとやり合うなんて、あの猫やべーな!?」
「強い……!」
「ドラゴンがんばれよ! 意地を見せろ!」
お客さんの野次が飛び、場がヒートアップしていく。すごい熱量だ。
「おいおいおい、猫が勝っちまったよ!?」
「マジかー?」
「すげー!」
「ありゃー……」
グウェナエルを応援していたけど、結局今日もクロの勝ちだね。クロが帰ってきたらめいっぱい褒めちゃおう。久しぶりにぢゅーるを作ってあげるのもいいかもしれない。
◇
『ぐぅー。負けた……』
「うむ。だが、体捌きはよくなっているぞ。よくぞ喰らい付いてきたな。お前は着実に強くなっている」
『師匠……。ありがとうございます!』
「二人ともおつかれさま。グエルは残念だったね」
『姐御! これからも精進します!』
私はクロとグウェナエルに声をかけると、街へ撤収していく。この後のアナウンスなどは、興行を任せた商人にお任せだ。
「あの少女が猫とドラゴンの主……!」
「あんな小っちゃいのにすごいな!」
「いずれ伝説の冒険者になるって話だぜ?」
「ドラゴンと、それよりも強い猫を従えてるんだ。もう伝説だよ!」
なんだか私の顔が売れてきたみたいで、ちょっと恥ずかしい。でも、これは避けられないことだから、少しずつ慣れていかないとね。
グウェナエルはもう少し休憩してから、いつものように狩りに向かう予定だ。
「マイとクロもおつかれさまでした」
「おつにゃー!」
「おつかれさま。今日はなにするんだっけ?」
北門の入り口でシヤとアメリーの二人と合流する。そして、今日の予定確認だ。
「今日は兵士たちとこの見世物の警備について打ち合わせですわ」
「そっかー……」
聞かなきゃいけないお話だけど、ちょっとテンションが下がってしまう。
「わたくしが出ますから、マイとアメリーは自由にしてかまいませんよ?」
「ほんと?」
「ええ。もう大枠は決まっていますので、その確認くらいでしょうから」
「でも、出た方がいいんでしょ?」
「それはそうですが……。退屈ですよ?」
「でも、大切なことだから」
「マイは真面目ですね」
「にゃーも出るにゃ」
「ふふ。分かりましたわ。二人が出席すると連絡を入れておきます。きっと喜ばれますよ」
そんな話をしながら、私たちは街の大通りを歩いていくのだった。
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