第15話 グエルをいじめないで!
「えっ!? グエルのこと、噂になってるの!?」
温泉から出て、旅館の自室でくつろいでいたら、クロからとんでもないことを聞かされてしまった。なんと、ドラゴンが近くに着陸したということで、軍隊が街の防衛を強化しているらしい。
軍隊は、行方不明のドラゴンを探して、明日には山狩りをするみたいだ。
一応、大騒ぎにならないように、街から離れた所でグウェナエルに降ろしてもらったんだけど、どうやら見つかってしまったようだ。
グウェナエルは全身ピカピカで目立つからね。
「だいぶドラゴンを危険視しているようだな。それで、どうする? このままではグエルと軍がぶつかりそうだが?」
「そんなの絶対ダメよ!」
なんとかしてグウェナエルとこの街の軍隊との衝突を避けないと!
私は飛び上がるように立ち上がると、クローゼットから小学校の制服を取り出した。
早く着替えて、衝突する前にグウェナエルに知らせに行かないと!
グウェナエルが無暗に人を襲うとは思わないけど、攻撃されたら分からない。
旅館で用意された浴衣のような服を脱ごうとしたその時、私は背後から視線を感じた。
「ッ!」
振り返ると、クロと目が合った。
「クロ、あっち向いてて!」
猫相手にどうかとも思うんだけど、今のクロはダンディーな声でしゃべるのだ。なぜだかクロに裸を見られるのが恥ずかしかった。
「? なぜだ?」
「いいからなんでも!」
「やれやれ……」
クロが後ろを向いたのを確認して、私は急いで着替えを始める。
「マイ、どうするつもりにゃ?」
「わからない。とにかくグエルに知らせて、戦闘を避けないと! 場合によっては、このまま街を出ていくから、そのつもりで!」
「わかったにゃ!」
「わかりました」
お願い神様! どうか戦闘が起こっていませんように!
◇
私たちは宿を飛び出して走る。
この街は、山の中腹に掘られた洞窟の中にある。とても広いドーム状の空間の中は、薄暗いけど走るのには苦労しない程度の明るさがあった。街のいたるところに淡く光る石が埋め込まれているからだ。
石畳の広いメインストーリーには、お揃いの制服を着たドワーフたちが緊張感を持って巡回していた。たぶんこのドワーフたちが、ドラゴンの襲撃に備えて配置された軍の人だろう。
街を襲うつもりなんて無いのに……。
でも、これだけ警戒されているってことは、ドラゴンはかなり危険視されているのだ分かった。
「あっ! こら! 今は外は危険だ! 早く戻りなさい!」
街の門番に呼び止められたけど、私たちは無視して駆け抜けた。
「眩しっ!」
「目がー! 目がー!」
洞窟の中から外に出ると、眩しさに目がくらんでしまう。でも、私たちは足を止めずに駆けていく。
戦闘が始めってしまったら、もし怪我人が出てしまったら、そうなったら最悪だ。
私たちは山を駆け下りて、麓の森へと侵入した。
もう足はパンパンで、脇腹がズキズキと痛み始める。
もう足を止めてしまいたい。でも、そのせいで間に合わなかったら自分を許せない。
「急げ、舞! もう既に戦闘が始まっているぞ!」
「うん……!」
「にゃー……、にゃー……。もう足が痛いにゃー!」
先頭を走るクロが、戦闘の気配を感じ取ったらしい。
止めないと! 手遅れになる前に止めないと!
森の木々がぽっかりと途切れた空間。その中央に黒鉄のドラゴンが横たわっていた。グウェナエルだ。
グウェナエルの翼や手足には、網のようなものが纏わり付いていた。
たぶん、あの網でグウェナエルの身動きを封じているのだろう。
私には、グウェナエルがピンチのように見えた。
正直、武装した人たちの前に出るのは怖い。
叔父にいいように甚振られてきた過去がチラついて、恐怖が込み上げてくる。
でも! グウェナエルに手出しはさせない!
私は決意と共に走る。
私は、もう歩いているのと変わらないような速度で走って、グウェナエルの前へ出ると、両手を広げてグウェナエルを庇う。
「や、やめ……! グエルをいじめないで!」
「子ども? なぜ子どもがこんな所にッ!?」
「クソッ! どういうこった!?」
「どうする!? このままでは少女が!」
前を見れば、不揃いの装備を身に着けた集団が慌てているのが見えた。
軍隊という雰囲気じゃないけど、この人たちは何者だろう?
でも、今はそんなことよりもグウェナエルのことだ。
「このドラゴンは、悪いドラゴンじゃないの! お願い! 攻撃しないで!」
「そうは言ってもな……」
「どうする?」
「どうするったって……。なあ?」
グウェナエルと対峙していた人たちに迷いが生まれたのを感じた。
「グエル、大丈夫? 動ける?」
『もちろんです、姐御! こんな網なんて簡単に引き裂けます!』
グウェナエルの声は元気だった。そのことに私は安堵する。
「このドラゴンは、アベラール神の使徒であるマイ殿の従者です! このドラゴンを攻撃するということは、アベラール神を攻撃することに等しいですよ!」
「アベラール神? 知ってるか?」
「いや、知らない名だな……」
「神の使徒だと?」
私たちを取り囲む武装した人たちが、力なくざわめくのが聞こえる。
なんとか戦闘を終わらせたいけど……。
お願い。武器を収めて!
私が武装集団を睨みつけるように見ていると、奥の方から私と同じくらいの背丈のずんぐりとした全身鎧の着た人が出てきた。
「隊長、どうする? 相手は神の使徒を名乗っているが?」
「わかっている。その神の使徒というのは誰だ?」
「私よ!」
私は手をあげて一歩前に出た。
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