第14話 ドワーフ温泉

 カッポーン!


「「「はぁー……」」」


 温泉に浸かり、アメリーとシヤと一緒に深く息を漏らした。


 自然と瞑ってしまった目を開くと、まるで広い洞窟のような石造りの浴室が見える。私たちにも利用者が居て、話し声が反響して響いていた。


 それにしても、この地域の人は背が低いのかな?


 大人でも私と同じくらいの背丈で、恰幅がよく、立派な髭が生えている人たちが多い印象だ。女の人も背が低くて、肝っ玉母さんって感じだ。よく見ると、耳がちょっと尖っている。もしかしたら、人間とは違う種族なのかもしれないね。


「にゃ~。温泉って気持ちい~にゃ~」

「そうだねー」

「まったくですね」


 アメリーとシヤの声は蕩けて気持ちよさそうに震えていた。


 猫族の村にもエルフの里にもお風呂が無かったから、アメリーとシヤは初めて温かいお湯に体を浸けていることになると思う。シヤはともかく、アメリーは猫族っていうくらいだから、体が濡れるのは嫌がるかなと思ったけど、抵抗が無いみたいだ。


 おかげでこうして一緒に温泉に入ることができる。


 クロはせっかくの温泉なのに入ることを断固として拒否していた。気持ちいいと思うだけどなぁ……。


 グウェナエルだけど、さすがにドラゴンは街に入れなくて、街の外でお留守番だ。


 グウェナエルには悪いけど、私たちは温泉を満喫しているのだった。


 ちなみにだけど、シヤはグウェナエルがまた悪さをしないか見る監査役として私たちの旅に同行することになった。


 とはいっても、それはあくまで口実だという。


 シヤは、エルフの里の外の世界を見てみたくて堪らなかったみたいだ。なんとか口実をひねり出してエルフの王様を説得した形だという。


「初めは変な匂いだと思ったにゃけど、こんなに気持ちがいいといい匂いに思えてくるにゃ~」

「そうだよねー。わかるー」

「硫黄の香りでしょうか。独特ですわね」

「旅館に泊まるのも初めてにゃ! ご飯が楽しみだにゃ!」

「そうだね! どんな料理が出るんだろう」

「ドワーフたちの食文化に期待ですわ」


 旅の楽しみと言ったら数えきれないほど色々あるけど、ご飯への期待はとても大きいと思う。このあたりの郷土料理や名物料理が楽しみだ。


 グウェナエルに乗って猫族の村を出て三時間ほど。でも、グウェナエルはとっても速いから、かなりの距離が開いているだろう。それだけ使う食材も変わって、違う料理が出てくると思う。


「でも、ここって変わった所よね。洞窟の中に街があるなんて」


 この街は、まるで山の中腹をくり貫いたように広がっている。いたるところに明るく光る石が取り付けられており、街の中は明るかった。頭上を見上げれば、まるで星空のようなプラネタリウムが広がっていた。


 かなりロマンチックな場所だと思う。カップルとか多そうだね。


「お日様の光を浴びた方が気持ちいいのに。変わった街だにゃー。でも、モンスターに襲われないから、これもありなのかもしれないにゃー」

「なるほど……」


 この世界には、危険なモンスターがいっぱい居る。猫族の村がツリーハウスなのも、モンスターから逃げるためだった。モンスターの脅威がある分、家や街も私の知っている地球とは違った方向に進化しているみたいだ。


 それにしても……。


「にゃ? どうかしたかにゃ?」

「膨らんでるなーって……」

「ふく……? おっぱいにゃ?」

「うん……」


 ゆらゆら揺れる水面の向こう。アメリーの胸はそこそこだけど膨らんでいた。一方シヤの方を見ると、余分なお肉が無いほっそりとしたシヤの胸元が目に入る。スレンダーでこれはこれで美しい。


 私は自分のまな板を見下ろして溜息を吐く。たぶんアメリーは年上だし、私より成長が早いのはわかるけど、なんだか負けた気分だ。


 胸の大きさは遺伝するらしいけど、お母さんも大きくなかったし、望み薄なのかな……。


 アメリーは突然立ち上がると、得意げな顔で、胸を張って手を腰に当てた。


「にゃーはこれでも十五歳だからにゃー。マイももう少し大人になったら大きくなるにゃ」

「十五歳かぁー。私は今年で十一歳になるよー」


 すると、アメリーとシヤは驚いたように目を丸くして、私の体を上から下にジロジロと見た。


「十一歳なんて生まれたばかりではないですか!?」

「赤ちゃんじゃないよ!」

「マイが十一歳!? 八歳だと思ってたにゃ!」

「八歳!?」 

「だって小さいし、全然おっぱいが膨らんでないにゃ?」

「うぐっ。そ、そうだけど、でも私は十一歳よ?」

「にゃーが十一歳の頃はもっと……。まぁマイがそう言うにゃら、きっとそうなのにゃ」


 アメリーはなんだか子どもの戯言を流すように優しい目をして私の頭を優しく撫でたのだった。


「ほんとに十一歳なのに……」


 これも外国人には日本人が若く見えるってやつかな? それにしても生まれたばかりではないけども。


「人間や獣人の成長が早いと聞いていましたが、まさかこれほどとは……」

「シヤは何歳なの?」

「わたくしは丁度百十歳になります」

「ひゃく!?」


 こんなに綺麗なお姉さんなのに!?


「にゃー、エルフの長寿は桁が違うにゃー」

「そうだね……」

「これでもエルフの中では若輩者なんですよ?」


 すごいねエルフ。不老不死みたいだ。


「じゃあ、そろそろ出るにゃ」

「はい」

「うん……」


 私たちはお湯を足でかき分けながら、脱衣所へと向かう。


「あ、アメリー、シヤちょっと待って」

「にゃ?」

「どうしました?」


 私は脱衣所へと繋がる浴室の出口で二人を呼び止めた。


「このまま出ちゃうと、脱衣所を濡らしちゃうでしょ? ここで体の水分を落とすのよ」

「なるほど」

「了解にゃ!」


 アメリーは元気よく返事をすると、まるで濡れた犬がそうするように体を細かく震わせた。


「そんなのじゃダメよ。ちゃんとタオルで拭かないと」

「あいにゃー」


 三人で濡れたタオルを絞って体を拭いていく。


 アメリーが尻尾をタオルで拭いているのを見て、尻尾がすごく気になってきた。


「ねえ、アメリー。尻尾触ってもいい?」

「べつにいいにゃ」


 アメリーがぷりんとしたお尻をこちらに向けて、尻尾が優雅にクネクネしながら私の目の前に差し出した。クロの尻尾よりも長くて太い立派な尻尾だ。


 私はおもむろにアメリーの尻尾をにぎにぎする。


「おおー……!」


 濡れてるからふぁさふぁさ感はないけど、クロはあまり尻尾を触らせてくれないから新鮮だ。


 そうだ! クロは腰トントンすると喜ぶけど、アメリーは喜ぶのかな?


 私はアメリーの尻尾の付け根の上あたりをトントン叩いてみた。


「にゃふんっ!?」

「え……?」


 アメリーから今まで聞いたことないような甘い声が出た。


「あ、アメリー?」

「それ、それ気持ちいにゃ。あの、もっと……」

「そう?」

「にゃあんっ」


 アメリーの腰を叩くたびに、アメリーはお尻を突き出すようにして気持ちよさそうな声をあげるのだった。


「もっと、もうちょっとだけ……にゃあんっ!」

「ちょっとアメリー! なんて声を出しているのですか!?」

「うーん……」


 なんだかアメリーにいけないことを教えてしまったような……。






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