第13話 エルフ食
「これ、甘くておいしいにゃ!」
「ふむ。これも悪くないな」
エルフの王様とおしゃべりして、ドラゴンに宝物を奪われた各部族に宝物を返した後は、ユグドラシルを掘って作られた大きな広場で宴会になった。
上座に座って延々挨拶攻めを受けたのには疲れたけど、それだけ多くの人々が私たちに感謝しているってことだよね。人の役に立てたのならよかったよ。
「このような大きな宴会は久々です。マイ殿、こちらもおいしいですよ」
「ありがとう!」
私はシヤから黒色の棒状の物を受け取った。これって何だろう?
黒色の棒はまるで甲羅のように固く、毛が生えていていた。ちょっと気持ち悪い。でもよく見ると、棒の一部に切り込みが入っていて、白いジューシーな身が見えている。
これはたぶんカニだね。
私はフォークでカニの身を引きずり出すと、ぱくっと口に入れた。
途端に口の中に溢れるのは、凝縮された風味豊かなスープだ。ほのかに甘みがあってとてもおいしい。
カニとはちょっと味が違うけど、身はしっとりとしていて、ぷりぷりと弾力があっておいしい。これならいくらでも食べれそうだ。
「おかわり!」
「まあ! 気に入っていただけたようで嬉しいですわ」
私は二本目もぱくっと食べ終わると、お腹を撫でた。カニの脚は私が知ってる物よりも大きくて、二本食べただけでお腹いっぱいになってしまった。
それにしても、まさか深い森の中でこんなに大きなカニが食べられるなんて思わなかったよ。サワガニなのかな? どこかに池とかあるのかな?
「にゃふ~。クロが三匹も居るにゃ~」
「アメリーめ、酔っているな? こら! 酒臭い口で我を吸うな!」
「うっぷ……」
「吐くなよ!? 絶対に吐いてくれるなよ!?」
ふらふら揺れているアメリーが、クロを抱っこして猫吸いをしているのが見えた。クロはアメリーの腕から逃げようと暴れているようだ。何してるんだろう?
「ご満足いただけましたか?」
シヤが笑顔で尋ねてくる。テーブルの上にはまだまだたくさんの料理が並んでいた。全部食べられなくて申し訳ないけど、私は非常に満足だ!
「すっごくおいしかったよ。森でもカニが獲れるんだね。驚いちゃった」
「カニ……ですか? マイ殿が食べたのは、ユグドラスパイダーの脚ですけど……」
「……ぇ?」
ゆぐどらすぱいだー? スパイダーって言った? スパイダー……クモ!?
「クモなの!? こんなにおいしいのにクモ!?」
胃がギュッと収縮して今すぐにでも吐き出したい気持ちに駆られるけど、料理を用意してくれたエルフの人たちに申し訳なくて、吐き出すのを必死に堪える。
「はい、クモですよ。これほど立派なものになると、年に十体も獲れません」
「そ、そう……」
本当にクモなんだぁ……。エルフの人たちって虫を食べるんだね……。
日本だとそうでもないけど、海外だと虫を食べるのが普通な国もあるって聞くし、なによりエルフの人たちの食文化に文句を言うわけにもいかないから言わないけど、でも、最初に虫だよって教えてほしかったな……。
でも、クモがこんなにおいしいなんて……。都市伝説みたいな話で、クモはチョコレートみたいな味がするってあったけど、高級なカニみたいな味がしたのも驚かされた。
「クモ、おいしい……」
「はい。マイ殿にはこちらもおすすめですよ」
「ぇ……?」
シヤが持っているのは、一見エビの刺さった串焼きだ。だけど、よく見るとエビではないのが分かった。
これ、幼虫だ……。
なんの虫かは分からないけど、まるでカブトムシの幼虫のような白いボディーに茶色い泥のようなものが付けられ、炙られて焦げ目がついている。近くで嗅ぐと、味噌の焼ける香ばしい匂いが食欲をそそった。
でも幼虫だ。
クモをおいしく食べた私が言うのも変かもしれないけど、幼虫はまだ敷居が高すぎる。噛んだらドロドロしそうで気持ち悪さの方が勝ってしまった。
「ええっと……。私もうお腹いっぱいかなぁー?」
「そうですか? 遠慮せずに楽しんでくださいね」
「はい……」
シヤは笑みを浮かべながら串から幼虫を外して頬張った。私はそれを怖いものを見るような気持ちで見ていることしかできなかった。
「まあ! おいしいですわ! 今年は当たりですね」
「ははは……」
予想に反して、食い千切られた幼虫はぷりんとした白い身を見せた。血なり体液なりが溢れ出すこともない。
目が潰れてしまうほどの洗練された美人であるシヤが、虫の幼虫を食べるのは、なんだかクラクラするほどギャップがあった。頭がおかしくなりそうだ。
私は目の前の食卓に目を戻すと、先ほどまでとは違う光景が広がっていた。
「あれも、これも、あれも……虫だね……」
さっきまでは気づかなかったけど、食卓の上にはいろいろな虫料理が鎮座していた。中にはまだ生きている虫の姿もあった。
エルフたちの食文化は尊重されるべきものだし、昆虫食自体を否定するつもりはないけど、私には虫を食べるのは精神的に無理だ……。
私、エルフの里だと生きていけないかも……。
早く出発しなきゃ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます