第12話 ブロッコリーな世界樹
「でっか!?」
「にゃんにゃ!?」
「ほう?」
『これはまた……』
エルフの森は、非現実的なまでにものすごく大きな木が、まるでブロッコリーのように森から突き出ていた。
「ようこそユグドラ連邦エルフの里へ」
「ユグドラ連邦?」
「エルフの里を含むこのユグドラシル大森林に住まうも者たちで構成する組織です。対外的には国を名乗っていますが、早い話が相互助け合い組織です」
「猫族の村も参加してるにゃ!」
「へー」
「ドラゴンの問題は、皆で協力すべき案件ですので、森の調停役であるエルフが音頭を取って対策していました。犠牲もやむなしかと思っていましたが、今回マイさんのおかげで犠牲も無く解決できましたのは僥倖です」
「ぎょうこう?」
「思いがけない幸運という意味ですわ。ですので、わたくしたちはマイさんを国賓待遇でエルフの里へご招待しました」
国賓待遇って、日本の総理大臣とかと同じ扱いってことかな? なんだか緊張してしまう。
ドラゴンを退散させたことが、かなり感謝されているのだと思った。
元々、犠牲も覚悟してドラゴンと戦闘する予定だったみたいだし、犠牲が出なかったことは私も嬉しいけど、なんだか話が大きくなってしまっているような……?
◇
突然やってきたグウェナエルの姿に一時エルフの里は騒然とした。だけど、シヤが事情を説明すると、すぐに落ち着きを取り戻した。
「ドラゴンを調伏するとは、あの娘はいったい……?」
「なんでも神の御使いだと」
「神の!? それはまた……」
エルフたちからは尊敬の目で見られている気がする。なんだか恥ずかしい。
「これはこの地の平穏を願って植えられたご神木。名をユグドラシルといいます」
見上げてもどこまでも続いている巨大な木。その幹の直径も50メートルじゃきかないくらいに大きい。本当に規格外の大きさを誇る木だ。
枝葉に日が遮られて、まだお昼だというのに薄暗い中、ランプがぼんやりと輝いて、なんだかすごい幻想的だ。そんな中案内されたのは、ユグドラシルの根元だった。
よく見ると、ユグドラシルの幹に木の板が刺し込まれた階段があった。
「迎賓館はこの上です。行きましょう」
シヤに続いて、木の階段を上っていく。
シヤはご神木って言っていたけど、こんなことしてもいいのかな?
そんな疑問を抱えながら、私は落ちないように気を付けて木の階段を上っていくのだった。
◇
エルフの迎賓館は、ユグドラシルの幹をくり貫いて作られた空間だった。家具もみんな木で作られた素朴な、しかし洗練された感じがした。迎賓館だからなのか、所々に宝石があしらわれていて、キラキラ光っている。私の座っている椅子なんてピカピカだ。
「なんだか爪を研ぎたくなるな」
私はそんな物騒なことを言うクロを慌てて膝の上に抱っこした。
「絶対ダメよ!? 二億パーセント高級品だから!」
「そうか?」
「そうよ。お願いだから大人しくしてて」
「クロがどうかしたにゃ?」
「クロが爪を研ぎたいなんて言うのよ。絶対ダメって叱ったところ」
「クロは肝が据わってるにゃー。にゃーにゃんて、緊張で尻尾が丸まっちゃうにゃ」
「私も尻尾があったらきっと丸まってるわ」
「ふむ。相手に飲まれるのはよくはないな。我がしっかりせねば……」
クロはたまにトンチンカンなことを言うけど、猫とは思えないほどしっかりしている。私では付いていけないようなお話が出るかもしれないし、わりと私はクロを頼りにしている。
「お待たせしました、マイ殿、アメリー殿、そしてクロ殿」
現れたのは、エルフのかっこいいお兄さんだ。でも、残念ながらその頭は寂しいことになっている。頭に視線を向けないように気を付けるのがたいへんだ。
エルフのお兄さんの後ろからシヤが現れた。
「さっきぶりですね。こちら、対外的にはユグドラ連邦の王であるエルフの里の長ミハイルです。わたくしのお父様ですわ」
「お父様!?」
「若いにゃ!?」
って親子ってこと!? お父さん若すぎるよ! 髪は少ないけど、どうみても20歳くらいにしか見えない!
「はっはっは。エルフの見た目に驚かれる方は多いですよ。エルフは長寿です故、老化がゆっくりなのです。私はこれでも五百歳を超えます」
「五百……」
「桁が違うにゃ……」
「五百年の生か。途方もないな」
五百歳でこの若さ……。エルフっていったい何年生きられるんだろう?
「皆様は、エルフの途方もないほど長い歴史の中でも片手で数えられるほどの難事を解決してくださいました。まさにユグドラ連邦の救世主です」
「私たちはそんなすごいことは……」
「ドラゴンという絶対強者に勝つ。それはものすごいことなのですぞ。ユグドラ連邦の精鋭部隊でも、ドラゴンに勝てたとしても、よくて半壊しているでしょう。皆様は、それだけ多くの命を救ったのです。さらに聞けば、皆様はドラゴンに奪われた各部族の宝を返して下さるという。そのお心には、感謝の言葉もございません」
なんだかべた褒めだね。頬が熱くなってしまう。
私としては神様に貰った力を使っただけだから、すごいのは私じゃなくて神様だと思うんだけどなぁ。
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