第46話 猫との付き合い方
「忘れ物はありませんわね?」
「はい!」
今まで泊まっていた宿の部屋を見渡して、忘れ物が無いかを最終チェックする。
たぶん大丈夫。たぶん……。
「にゃーは忘れ物ないにゃ!」
「では行きましょうか。どんなお屋敷か楽しみですわね」
「うん!」
そう。今日はドッセーナ卿から貰ったお屋敷にお引越しの日だ。お屋敷の掃除などがやっと終わったらしい。どんなお屋敷なのか今からワクワクだ。
「今日は住処を変えるのだったか? そうコロコロと住処を変えるのは感心しないが?」
「でも、今のお部屋は借りてる部屋だし、自分たちのお家の方がよくない?」
「それはそうだが……。ふむ。やっと近所の縄張りを切り取ったところだというのに……」
最近クロが一人で散歩してるなと思ったら、この辺りを自分の縄張りにしていたみたい。猫の本能かもしれないけど、できればクロには他の猫とケンカなんてしてほしくないな……。
「あんまり無茶してケガしちゃ嫌だからね?」
「うむ。わかっている」
「それと、相手の猫にもケガさせちゃダメよ?」
「舞よ、ケンカをするのだぞ? ケガの一つや二つできて当たり前だ。まぁ、なるべく善処をするがな」
「お願いね?」
本当はケンカしないのが一番なんだけどな。なんで猫ってケンカをするのかしら? みんな仲良くしたらいいのに……。
「今までご利用ありがとうございました」
「あら?」
宿に人に見送られて外に出ると、五匹の白猫がいた。一匹が大人の猫であとの四匹は子猫のようだ。
「クロ様、マイ、お願いがあるの。助けてくれない?」
「うむ。何用だ?」
「いいけど……」
クロがこの辺りのボス猫になったからか、様付けで呼ばれることがたまにある。そして私は安定の呼び捨てだ。まぁ、いいけどね。
「ご飯を恵んでくれないかしら? もうお腹ペコペコなの」
「かーちゃん、はらへったー」
「「「へったー」」」
「私はいいから、この子たちにだけでも貰えないかしら?」
遊びまわる元気もないのか、子猫たちはちゃんとお座りしていた。
「そんなこと言わないで。ご飯ならたくさんあるから! お母さんもほら、食べて」
私は悲しくなってグウェナエルから預かったスペアポケットから小魚の煮干しを取り出して白猫たちの前に置いていく。
「ありがとう、ありがとうね」
「かーちゃんこれたべていいのー?」
「はらへったー!」
「ちゃんとお礼して食べるのよ」
「「「「はーい! ありがとー!」」」」
「どうぞ、食べて食べて」
「ふぅ。舞は甘いな。そこの白猫よ、これは普通ならありえぬことだぞ? お前も母親なら、子に十分飯を食わせてやれ」
「ちょっとクロ! そんなに言わなくてもいいじゃない!」
「いいのよ、マイ。クロ様の言う通りだから……。でも助かったわ。私は狩りが苦手なの……」
面目なさそうにしゅんとするお母さん猫。
目の前でパクパクと煮干しを頬張る子猫を撫でながら、アメリーが口を開いた。
「この子たちはマイにご飯貰いに来たのかにゃ?」
「うん……。でも、クロったらお母さん猫を叱るのよ? 子猫たちにちゃんとご飯あげろって」
「子猫たちは痩せすぎているわけではないので、普段はちゃんと食べれているのでしょうが……。少し心配ですね。わたくしはクロの言うことにも一理あると思いますわあまり人間のエゴを押し付けるのも悪い気がします」
「でも……」
クロのキツイ物言いについ反発してしまったけど、クロの言う通りでもあるかもしれない。あんまり人間の常識で猫たちに接したらダメなのかな?
「猫たちにも猫たちの社会があります。それを壊してはいけませんわ。万物は自然の掟に従って生きているのです」
「うーん……」
猫たちの社会や常識。たしかに私にはそれを理解するのは難しい。やっぱりクロの言う通りにするのが正解なの?
「でも、私はこの子たちを助けたい……!」
「飯をやるだけでも十分な助けになる。こ奴らは野良猫だ。野良猫には野良猫の流儀や矜持がある。あまり過保護になるな」
「うん……」
子猫たちがあまりにかわいいので、過保護になってしまった部分もあるかもしれない。できることならこの白猫一家をお屋敷に連れていきたいところだけど、それは私の気持ちであって、子猫たちの為にならないのかもしれない。
「うー……」
難しい。猫の世界って難しい。
「ごはんよこせ?」
「もっともっと?」
「たべたい」
「ごはーん」
「うん……。ちょっと待ってね」
私たちがこの子たちを保護したいと思うのも傲慢かもしれない。この子たちにはお母さん猫がいるし、あんまり深入りしちゃダメなのだろう。
「はい、ごはん。いっぱい食べてね」
「「「「わーい!」」」」
「お母さんももっと食べて。お腹へったらいつでも言ってね」
私にはこれくらいしかできないんだなぁ。
猫たちと話せるからこそ、猫たちのことをもっと尊重してあげないとだね。気を付けよう。
「舞よ、我も小腹が空いた」
「はいはい。どうぞ」
私は煮干しを食べるクロの背中を撫でながら、猫との付き合い方を考えるのだった。
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