第47話 お屋敷
「「おぉー!」」
ドッセーナ卿に貰ったお屋敷は、街の中央にあるお城にほど近いところにあった。
門構えから立派で、ちょっと気後れしてしまうほどだ。
「なかなかお庭も立派ですわね」
「川まであるにゃ!」
「ものすごい豪邸じゃない!」
街の一等地にあるこんな豪華なお屋敷。本当に貰っていいのかしら?
貴族ってすごいのね。
「カギは預かっています。さっそく中に入ってみましょう」
「「はーい」」
シヤに続いて屋敷の中に入ると、天井の高い吹き抜けの玄関だった。左右には二階へと上がる階段があって、まるで劇場や博物館のような印象もした。
「まずまずといったところかしら?」
「いやいや、すごいよ! 本当にこんな豪邸貰ちゃってもいいの!?」
日本の一般家庭に育った私には、こんな国宝とかに指定されそうなお屋敷を貰うなんて畏れ多いよ!?
「まぁ住んでれば慣れるにゃ。それより部屋はどこにゃ?」
「こっちね」
アメリーもシヤも順応能力高いなー……。
感心していると、足元にいたはずのクロがふらふらと階段の手すりの柱に近づいていくのが見えた。
新しいお家になるから探検でもするのかな?
手すりの柱にたどり着いたクロは、なにを思ったのかいきなり柱に爪を押し当てる。
「ちょいちょいちょい!?」
私は慌ててクロに駆け寄り、クロを抱っこした。重い……。
「なんだ舞? そんなに慌てて?」
「クロ、あなた今なにをしようとしたの!?」
「なにって、爪とぎだが?」
「止めてよ! 絶対二億パーセント高いから!?」
こんな国宝級のお屋敷の柱で爪とぎしようとするクロの感性がわからないよ!?
「だが舞よ、我は今、爪とぎしたいのだ」
「じゃあ、これにして!」
私はグエルから預かっているマジックバッグのスペアポケットから、クロの爪とぎ専用の木の切れ端を取り出した。
今まで宿暮らしだったので、クロが調度品で爪とぎしないように買ったものだ。
「またそれか。豪邸といわれる柱の爪のとぎ心地を試したかったのだが……」
「お願いだから絶対にやめて!」
豪邸の爪のとぎ心地って何よ!?
私は渋々板で爪とぎを始めるクロに戦慄した。
◇
「はぁー……」
ぼふんとベッドに倒れ込むと、なんだかスーッと疲れが抜けていく感じがした。疲れた……。
何畳かはわからないけど、けっこう広いお部屋だ。今日からここが私のお部屋!
疲れたけど、お引越し自体はかなりスムーズに終わった。今まで宿暮らしだったから私物も少ないし、マジックバッグから出すだけだから、重い荷物を運ばなくてもいい。マジックバッグから様様だね。
それに、お屋敷を探検したらお風呂もあって、私的には満足だ。
ただ、ちょっと不便なことがある。このお屋敷は魔道具がいたるところに設置されているんだけど、私は魔道具を使うことができないのだ。
私もクロも神様に力を貰った魔法使い。魔法使いは特別な道具が無くても魔法が使えるけど、その代わり魔道具が使えないらしい。
前にシヤに聞いた魔法と魔術の違いだね。
だから、魔道具が使える人にとってはかなり便利なお屋敷だけど、私にはちょっと不便なのだ。アメリーかシヤにお願いして魔道具を使ってもらわないといけない。
面倒だけど、こればっかりは仕方ないらしい。
「ふあー……」
ベッド上でごろんと寝返りを打つ。ベッドにはすでに布団が敷かれていた。どうやらドッセーナ卿が気を使ってお屋敷の掃除以外にもいろいろと用意してくれたようだ。
おかげですぐにお屋敷に住むことができる。
本来なら、家具や調度品、布団やクッションも自分たちで用意しなくちゃいけなかったのでありがたい。
ドッセーナ卿からは気に入らなければ買い換えてもいいと許可も貰っているけど、部屋と調和しているし、無理に買い換える必要はなさそうだ。
ドッセーナ卿には頭が上がらないね。
「舞よ、我は小腹が減った」
「はいはい」
うんしょっと上体を起こしてベッドに座ると、ピシッとお行儀よく座ってるクロと目が合った。こんな時ばっかり行儀がいいのよね……。
私はマジックバッグからクロ専用のお皿を取り出すと、その上に煮干しを三つ乗せてクロの前に置いてあげる。
「また煮干しか……」
「気に入らないの?」
「我はそろそろぢゅーるを食べたい気分だ。もう長い間食べてないぞ?」
「今から?」
「うむ」
「うーん……。時間かかるわよ?」
「ふむ……。今回は煮干しで我慢しよう……」
クロが渋々と煮干しを食べ始める。カリカリとした音が部屋に小さく響いた。
こっちの世界に来て、クロとお話しできるようになってから知ったけど、クロってかなり食にうるさいのよね。まずいものでも文句言いながら食べてくれるけど、できればおいしいものを食べさせてあげたい。
「舞、おかわりだ」
「もうちょっとでお昼ご飯だから我慢したら? たぶん外に食べに行くから、好きなものを頼んだらいいんじゃない?」
「ふむ。ではそうしよう」
私は綺麗に食べつくされたお皿を片付けて、ベッドから立ち上がった。
「じゃあ、アメリーとシヤを呼びに行きましょ?」
「うむ」
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