第48話 ぢゅーる

 銀色に輝くまるで新品のような厨房の中。そこに私とクロとアメリーは居た。


「今日の昼ごはんは作るにゃ。久しぶりに腕が鳴るにゃ!」


 てっきり外に食べに行くのかと思ったら、今日のお昼ご飯は自炊するらしい。


 アメリーって料理上手だから今から楽しみだ。


 そうだ! クロも食べたいって言ってたし、私もぢゅーるを作ろう!


「ぢゅーるも作りたいし、私も手伝うね!」

「ありがとにゃー。なにか適当に食材出してほしいにゃ」

「はーい」


 私の預かっているグウェナエルのマジックバッグのスペアポケットには、モンスターのお肉やお野菜が大量に入っているのだ。


「まずはクアトラトップスの尻尾と……」


 デンッ! と銀色の台の上に現れる輪切りにされた巨大な爬虫類の尻尾。爬虫類の尻尾なんてと思うかもしれないけど、これがかなりおいしい。


「まずは皮を削ぎ落さないとにゃ。マイはナスとニンニクとキノコとトマトを一口大に切ってほしいにゃ」

「はーい! あ、そうだ。クロのご飯も作るから、ちょっとだけお肉ちょうだい」

「わかったにゃー」


 元の世界ではお母さんの料理のお手伝いなんかしなかった私だけど、この世界に来てから積極的に手伝っている。もう後悔なんてしたくない。だから、料理以外にも私にできることは積極的にお手伝いするようにしていた。


「さて……」


 包丁なんて調理実習でしか使ったことがなかったけど、この世界に来てからはアメリーのお手伝いを通して、それなりに包丁も使えるようになった。


 それでもちょっと緊張するけどね。


 包丁で指を切るととっても痛いのだ。だから慎重に……。



 ◇



「あとはこれを煮込むだけにゃ!」


 アメリーが鍋に蓋をして、満足げに頷いている。どうやら今日はトマト煮らしい。隠し味に余ったポトフを入れるのがアメリー流だ。この世界にコンソメの元や鶏がらスープの元なんてないから、出汁の効いたポトフを使いまわしているのだ。そのおかげか、メアリーの作るトマト煮はとてもおいしい。今から食べるのが待ち遠しいね。


 左足にコツンと小さなもふもふの衝撃を感じた。クロが私の足に頭突きしているのだ。


「舞よ、我は腹が減った。もう我慢ができん!」

「もうちょっとだけ待っててね。今用意するから」


 私はクロ用にとっておいた蒸されたお肉のキレ端を包丁で細切れにしていく。お肉がバラバラになったら、今度はチーズの塊を取り出して、おろし金で削った。まるで雪のようにお肉にチーズが積もっていく。


「うん!」


 私は満足して頷くと、お肉とチーズをクロ専用のお皿に乗せて厨房の床に置いた。


「お待たせ。食べていいわよ。後で感想聞かせてね」

「はぐはぐはぐ」


 よほどお腹が空いていたのか、クロがお皿に顔を突っ込んでむしゃむしゃと食べていく。私はその様子に満足してクロの頭を撫でるのだった。


「どう? おいしい? チーズを入れてみたんだけど……」

「うまい! やはり肉とチーズの相性は抜群だな!」

「よかった……」


 あっという間に完食してしまったクロ。名残惜しそうにお皿をぺろぺろと舐めている。私は期待を滲ませながらクロに訊いてみる。


「どう? おいしかった?」

「うむ。美味であった。肉の味とチーズの味が渾然一体となり、至福へと我を導いてくれた……」


 クロに言ってることはよくわからないけど、おいしかったのは間違いないらしい。


「そう。よかったわ」

「だが……」


 ぢゅーる作りに確かな手ごたえを感じた私にクロが言う。


「これは肉とチーズだな。美味ではあるが、我の求めるぢゅーるではない」

「えー?」

「ぢゅーるはもっと複雑な味わいをした究極の美味だ。これをぢゅーると認めることはできん!」

「そんな力強く言わなくても……」


 あんなにガツガツおいしそうに食べていたのに、クロの中ではぢゅーるではないらしい。


 私は元々ぢゅーるの作り方なんて知らないし、完璧には再現できないとは思うけど、ここまで言われるとちょっとイラっとする。


 でも、どうすればいいんだろう?


 ぢゅーる作りのアイディアがもうない。お肉とチーズの組み合わせには満足してるみたいだし、これでクロには満足してもらうしかないのかな……?


 複雑な味わい……。たぶんもっといろいろ足して作ると思うんだけど……。


「うーん……? あっ!」


 私は厨房の中を見渡して、あることに気が付いた。アメリーはトマト煮を作るのに余ったポトフを入れていた。きっとポトフにはお野菜やお肉の出汁が出ているためだろう。それをコンソメの代わりにアメリーは使っているのだ。


「もしかしたら……」


 ひょっとすると、クロの言う複雑な味わいってコンソメみたいなものだろうか?


 でも、ポトフにはいろいろな野菜が入るし、その中には猫にとって毒の可能性もある。ポトフの残りをそのまま使うことはできない。


 でも、クロも食べれる食材だけでポトフを作ったら?


「いけるかも……!」


 クロの食べれる食材で作ったポトフを作って、それをお肉とチーズに混ぜれば……。


「面倒だけど、やってみるか!」


 絶対クロにおいしいって言わせてみせるんだから!




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