第45話 すっぞコラ!

 早朝。まだ太陽が出たばかりの時間。ドッセーナの街はすでに動き出していた。


「働く男は体力勝負! 朝から肉食ってがんばろうぜ! 羊の串焼きはいらんかねー!」

「そこ行く奥さん、朝食に貝焼きはいらんか!」

「魚のフライと芋はいらんかー? 獲れたてだぜ! 腹いっぱい間違いなしだぜ!」


 街の通りにはたくさんの屋台が並び、道行くたくさんの人々を大声で呼び込んでいる。


「おじさん、お魚のフライちょうだい!」

「あいよ! 嬢ちゃんお母さんのお使いかい?」

「…………うん、そんなとこ」

「あぁー……。ほれ、サービスで二つ持ってけ!」

「うん! ありがとう!」

「またよろしくな!」


 私はお魚のフライを買うと、通りを海の方へと歩いていく。だんだんとちょっと生臭いような潮の香りが強くなっていった。


 たくさんの船が浮かんだ港に着くと、猟師さんが網を繕っているのが見える。そして、そこにはちらほらと猫の姿も見えた。


 私の姿に気が付いたのか、それとも手に持ったお魚のフライの匂いに気が付いたのか、だんだんと猫が寄ってきた。


「はらへったー!」

「いい匂いする……!」

「マイ、ごはんおくれ」


 集まった猫の中には、私のことを知っている猫もいるみたいだね。


「ちょっとまってねー。アチチッ!?」


 私はしゃがむと、お魚のフライの身をほぐして地面に置いていく。


「熱いから注意してね」

「アチッ!?」

「はふはふ……」


 猫たちはまだ熱いのに果敢にお魚のフライを食い千切っていく。よっぽどお腹が空いてるのかな?


「ちょっと待ってたらいいのに」


 そう言いながら、私は二つのお魚のフライを地面に置くと、付け合わせのお芋を半分に割って地面に置く。ホクホクと黄色い断面がおいしそうだ。


 意外だけど、集まった野良猫たちはお芋もガツガツよく食べるのだ。まぁ、お魚のフライの方が圧倒的に人気だけどね。


「ふふっ」


 集まった野良猫たちの頭を撫でていると、クロが私の真ん前に来た。羨ましくなっちゃったのかな?


「猫たちよ、飯を恵んでやった我と舞に感謝しろよ?」

「ありがてえ、ありがてえ」

「クロの旦那、マイありがとうよ」

「クロ、マイ感謝する!」

「うまうま」

「もう、クロったら。そんな恩着せがましく言わなくても」

「感謝の心は持たせねばならん。人間に飯を恵んでもらえるのが普通などと思わせないためにもな」


 猫には猫の考えがあるみたい。私の一存で猫のルールを変えてしまうのはよくないよね。


「あちちちち!?」

「ほぐほぐ」


 私はガツガツ食べる猫たちを眺めながら立ち上がると、離れてこっちを見ている猫へと歩き出した。


 警戒したように立ち上がる野良猫へ、私はできるだけ優しい声で話し出す。


「あなたもご飯食べない? おいしいわよ?」

「うーん? 人間の言葉がわかる? あんた、実は猫なのか?」

「私は人間よ。舞って言うの。よかったらあなたも食べて」


 私はポケットから布袋を取り出すと、その中から干した小魚を取り出した。


 猫から離れた所に小魚を置くと、私は一歩二歩と後ろに下がる。


 初めての野良猫は警戒心がとっても強いからね。ここ毎日野良猫にご飯をあげていて、私は野良猫の警戒心を解きほぐす方法を覚えていた。


 私が遠ざかったため、チャトラの野良猫が小魚に近づいてくる。そして入念に匂いを嗅ぐと、パクッと食べた。


「これうまい!?」

「もっと欲しい?」

「欲しい!」


 私はまた小魚を地面に置くと、二歩後ろに下がる。


 今度は警戒する様子も見せずにチャトラの野良猫は小魚にありついた。


「うまうま」

「こっちにもあるわよ」


 今度は私の目の前に小魚を置いてチャトラの野良猫を呼んでみる。


 ちょっと警戒した様子をみせたけど、小魚の誘惑に耐えられなかったのか、チャトラの野良猫はこっちに寄ってきた。


「うまし!」


 目の前で小魚を頬張るチャトラの野良猫。今すぐに撫で撫でしたいところだけど、ここで慌ててはいけない。グッと我慢だ。


「明日もご飯あげるから、仲良くしてね」

「はぐはぐ」


 小魚を頬張るチャトラの野良猫にそれだけ言うと、私は立ち上がって別の猫に狙いを定めた。


「舞もよくやるな。飯を食いに来ぬ者など放っておけばいいものを」

「だって、みんな食べてるのに食べれない子がいたらかわいそうじゃない? それに、私はたくさんの猫ちゃんと仲良くなりたいの」

「そうか。あまり下手に出ては舐められるぞ?」

「舐めてくれるの!?」

「物理的に舐める方ではない。下に見られるという意味だ」

「いいのいいの。猫ちゃんが幸せなら私も幸せだから!」

「はぁ……。まぁ、舞がそれでいいのならいいが……」

「そこの猫ちゃん! ご飯欲しくない?」

「なんだてめぇ!?」

「おぉ……!」


 今度の猫ちゃんはヤンチャなのか、背中の毛をツンツンにして、やんのかステップをしている。かわいい。


「私は舞っていうの。あなたにご飯をあげたくて。受け取ってくれる?」

「あん!? なめんなよ!?」

「はぁ……。舞よ、この猫は急に舞が話しかけたから混乱しているようだぞ?」

「そうなの?」

「ざっけんじゃねぇぞコラ! すっぞコラ!」


 やんのかステップを踏み続ける茶毛の野良猫。かわいい。





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