第3話 イジメよくない

「あのね? イジメはよくないと思うの!」

『はい……』


 青空の下、洞窟を出たすぐの所。私の目の前には、大きな黒鉄のドラゴン、グウェナエルが丸まっていた。


 正確には、クロの力で丸いボールのような薄黒い膜に捕らわれていた。


 本来は身を守るためのバリアのような力なのだけど、クロは逆転の発想でグウェナエルをバリアの中に閉じ込めているのだ。


「ふむ。だいぶ殊勝になったな」

「うん……」


 クロの言う通り、始めは大暴れしたグウェナエルだったけど、どうしてもバリアを破壊することはできなくて、それ以来しょんぼりとうなだれていた。


 なんだかかわいそうだけど、グウェナエルとはちゃんとお話しないといけない。


 なんとグウェナエルは、付近の村人に自分を神として崇めるように力で脅して、おまけに金品まで貢物として要求していたのだ。


 立派な悪いことだと私は思う。


「私も謝るから、一緒に謝ろ?」

『それは……』

「謝ろ?」

『はい……』

「しかし舞よ、わざわざそんな面倒なことをする必要があるのか? こ奴を始末してしまえば、一気に問題が片付くと思うのだが?」

『ひぃっ!? それは、それだけはご勘弁を!』


 必死に許しを乞い、怯えたように身を小さくするグウェナエルを見ていると、なんだか過去の私たちを見ているようで心が苦しくなった。


 それに言葉を理解するからか、グウェナエルを殺すことに抵抗を覚えてしまった。


 力を使うことは恐れないようにがんばるけど、言葉を解する知能がある者の命を奪うのはまだ私には荷が重かった。


「ごめんね、クロ」

「いや、舞がいいならのならいいんだ」


 しゃべれるようになったのはさっきだけど、クロとはずっと一緒に居たからか、言葉にしなくてもわかってくれることがある。


「じゃあ、さっそく謝りに行こっか。まずは……どこから行く?」


 グウェナエルが迷惑をかけた所は、三か所ある。


 兎族、犬族、そして猫族だ。


 彼らは獣人族という獣の特徴を持った種族らしい。


 なんだか異世界らしい種族の登場にわくわくする。


 いったいどんな姿をしているんだろう?


『あのー……。その前に、住処に飾っていた財宝を回収したいのですが……?』

「うん、いいよ。しばらく家を空けることにからね」

『それでなんですが……。ここから出していただけませんか?』

「もう暴れない?」

『はい。もう暴れないことを父と母に誓います』


 当たり前のことかもしれないけど、グウェナエルにも親って居るんだね。


「じゃあ、クロ。グウェナエルを外に出してあげて」

「いいのか?」

「うん。だってお父さんとお母さんに誓ってるんだもん」

「ふむ……甘いな。だが、暴れればまた返り討ちにすればいいだけか」

『ありがとうございます! 誓って暴れません!』


 グウェナエルを覆っていた丸く黒い膜が消える。


 そうして私たちは、グウェナエルに続いて洞窟の中へと入っていくのだった。



 ◇



『ええと……。あったあった』


 洞窟の中に戻ったグウェナエルは、その大きな手で器用にツノに引っかかっていた白い毛皮でできたポシェットのような物を摘まみ上げた。


「ねえ、それって何?」


 よく見ると、毛皮がキラキラ光っていて、かわいいデザインのポシェットだ。


 どう見ても人間用のポシェットをドラゴンが持ってるんだろう?


『これは独り立ちの時に父から頂いた魔法のカバンです! 見ててくださいね』


 魔法?


 グウェナエルが得意げに言うと、洞窟の中に置かれた大きな金ぴかのお皿にポシェットを近づける。


 すると、一瞬にして金ぴかの大きな皿が姿を消した。


「え……?」

「ほう……?」

『ふっふっふっ。このカバンの中にしまったのです』


 グウェナエルが、自慢するように私たちにポシェットを見せつける。


 でも、そのポシェットはまるで膨らんでいない。というよりも、普通に考えればあんな大きなお皿が小さなポシェットに入るわけがない。


「どうなってるの……?」

『ちなみに、出し入れも自由自在ですよ!』


 グウェナエルの目の前に、さっきはずの消えたお皿が現れた。すごい!


 これが魔法……!


『これがマジックバックです!』


 冷静に考えたら、クロの力や私の力も魔法だと思うのだけど、わかりやすい魔法を見て、この世界には魔法があるのだと強く意識させられた。


 ドラゴンのいるような世界だしね。他にも色んな魔法や魔法を使う動物がいるのだろう。


 ドラゴンがいるってことは、他にはペガサスとか、ユニコーンとか、スライムとかいるのかな?


 男の子とか喜びそうな状況だけど、物語が好きな私もドキドキした。


 私も魔法使いを名乗ってもいいのかな?


 ちょっとウキウキしてしまう。


「舞よ、浮かれているな。そんなにそのマジックバックとやらが気に入ったのか?」

『え……?』


 取られてしまうと思ったのか、グウェナエルが見せびらかしていたマジックバックをそっと手で隠した。


 そんなことしなくても取ったりしないのに。


「違うの。なんだかすごい世界に来ちゃったなって。だって、クロとおしゃべりできるし、魔法もあるし、ドラゴンがいるんだよ? すっごくわくわくしちゃって!」

「はぁ……」


 クロはそんな私を呆れたような雰囲気で見ていた。




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