第27話 見えてきましたぞ!

『見えてきましたぞ!』


 グウェナエルの声に前を向けば、森の先に城壁によって囲まれた都市が見えた。あれが人間の街……!


 グウェナエルの修行に付き合って森の中をさまよい歩いていた私たちは、物資の補給とお魚を食べるために、海沿いを飛んでいたのだ。


 あっという間にたどり着いた人間の街の上空で、グウェナエルの背に乗って旋回する。


 下をのぞき込むと、お城を中心に海を囲うように半円状に城壁が築かれているのが分かった。たくさんの船が停泊しているのが見えた。


『人通りの少ない北門から入りましょうか?』

「うん。お願い」


 北門に降り立つと、城門の兵士たちが忙しく動いているのが見えた。


「ど、ドラゴン!?」

「なんでよりにもよってこっちに来るんだよ!?」

「おおお、落ち着け! ばり、バリスタの用意だ!」


 ドラゴンが襲撃しに来たと慌てているのかな? 早く誤解を解かなくっちゃ!


「グエル」

『はっ!』


 グウェナエルに声をかけると、まるで伏せをするようにして私たちが降りやすいようにしてくれた。


「よっと」


 アメリーがするりとグウェナエルから降りると、私の脇に手を通して、まるで抱っこするように持ち上げてグウェナエルから降ろしてくれる。


「ありがとう、アメリー」


 アメリーって意外と力持ちなのだ。


「いいにゃいいにゃ。それよりも……」

「うん!」


 私は手でメガホンを作ると、大声をあげる。


「あのー! 私たちはー!」

「早くバリスタの矢を持ってこい!」

「あれ見ろ! 少女たちがドラゴンの前に!?」

「人質だってのか? クソッ!」

「てめえこら逃げるな! 配置に着け!」

「終わりだ! ドラゴンになんて勝てるわけがねえ!」


 兵士たちは恐慌状態なのか、ちっとも私の言葉を聞いてくれなかった。


「グエル、お願い」

『はっ! 人間どもよく聞け! 姐御からのお言葉である!』


 グウェナエルの大音量の念話を聞いて、兵士たちがビクリと体を震わせて動きを止めた。今なら私の話も聞いてくれるかも!


「兵士のみなさーん! このドラゴンは、私の従魔です! 街を襲ったりしませんよー!」

「「「「「はぁあ!?」」」」」

「あ、ありえん!」

「じゃあ、あの少女は何者だ?」

「我々を油断させる罠かもしれん!」

「そんな小細工、ドラゴンには必要ないだろ!」

「ええい、静まれー!」


 ざわざわと騒ぎ出す兵士たちの中から、一人が前に出てきた。他の兵士よりも豪華な鎧を身に着けた人だ。もしかしたら、この城門の責任者なのかも?


 でも、この人も怖いのか小刻みに震えている。カチャカチャ鳴る鎧の音がここまで聞こえてきた。


「そのドラゴンが従魔だと言うのなら、その証拠を見せてみろ!」

「はい」


 従魔の証は、金属片が付いた深紅のスカーフだ。普段はグウェナエルとクロの首に巻かれている。その対となる金属片は私が持っていて、その二つを勘合貿易のように合わせて確認することで、私の従魔だと証明できるのだ。


「おい、確認してこい」

「た、隊長!? マジっすか!?」

「マジだ! それと冒険者ギルドの応援を呼んでこい!」


 運悪く命じられた兵士さんが、警戒するようにゆっくりと近づいてきた。


「は、早く証」

「どうぞ」

「二つ……? ドラゴンに首を下げるように言ってくれ」

「はーい」


 そんなこんなでグウェナエルとクロの従魔の証を確認した兵士さんが、こちらに背を向けず、こちらを見ながら後退るようにして城門へと戻っていく。


「そんなことしなくても襲ったりしないのに……」

「そうだにゃー。グエルって黙ってれば強そうだしにゃー」

「ふむ。修行で少しは強くなったが、まだまだ弱いのだがな」

「ドラゴンの中では弱いのかもしれませんが、人間に比べれば途方もない強者ですからね。警戒する気持ちも分かりますわ」

『オレのせいで迷惑かけて申し訳ないです……』

「気にしないで。グエルのせいじゃないもの」


 それからいろいろと騒動はあったものの、私たちはようやく街へ入ることを許された。


 いろいろと条件を付けられたけどね。


 一番大きいのは、グウェナエルが街に入れないということかな。まぁ、グウェナエルのような大きな体のドラゴンが街に入ったら、道を占拠しちゃうから仕方がないね。


 それに、私たちはそれを見越して、グウェナエルにある試練を用意していた。グウェナエルには、私たちが街に居る間も、このまま森での修行を続けてもらうつもりなのだ。


「グエルよ、お前には我の持ちうる知識をすべて叩き込んだ。あとは実践あるのみだ。気張れよ」

『はい! 師匠!』


 クロが言うには、もう私たちがグウェナエルのためにできることはないらしい。あとはグウェナエルがどこまで自分を高められるのかの問題のようだ。


 でも、この世界にはレベルなんてものはないし、修行を積んでも確実に強くなれる保証はない。すべてはグウェナエルの心がけ次第だ。


「グエル、がんばってね!」

「がんばるにゃ!」

「必ずジャンナ姫に振り向いてもらうにふさわしいドラゴンになるのですわ!」

『はい! オレ、がんばります!』


 グウェナエルは、ぺこりと頭を下げると、その大きな翼を羽ばたかせた。





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