第26話 体術がなっとらん
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ドワーフの街へ弾丸温泉旅行を済ませた私たちは、ひたすらに森の中を進んでいた。幸せになる確実な方法がまだ分からない私は、ひとまずはグウェナエルの幸せを優先したのだ。
つまり、グウェナエルが強くなるため、結婚資金を貯めるために森の中のモンスターに片っ端からケンカを売ってる形だ。
今、グウェナエルは白い大蛇と戦っている。
グウェナエルの最大攻撃は、ドラゴンブレスと呼ばれる口から出るビームだ。通常は一種類だけど、さまざまなドラゴンとの混血であるグウェナエルは、いろんな種類のドラゴンブレスを切り替えて使うことができる。
それはグウェナエルしかできない大きな武器だと思う。
だけど……。
バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
グウェナエルの炎のドラゴンブレス。しかし、それはコンドラートのものと比べると細く弱弱しい。そして、もう一つ大きな問題が……。
グウェナエルに対峙していた白大蛇は、ひらりと簡単にグウェナエルのドラゴンブレスを避けてしまう。そして、反撃とばかりにグウェナエルの体に絡み付いて縛り上げていく。
「グバッ」
一気に劣勢になってしまったグウェナエル。グウェナエルのドラゴンブレスは、隙が大きいので、簡単に避けられてしまうのだ。これも大きな問題だ。
「ググググ……」
白大蛇に体を縛り上げられ、身動きの取れないグウェナエル。これは勝負あったかな?
「クロ」
「うむ。グエルよ、負けを認めるか?」
『まだまだですぞー……!』
首を絞められながらも、グウェナエルは闘志は揺らがない。白大蛇に噛み付くと、グウェナエルの口内が光り輝く。ゼロ距離でドラゴンブレスを使うつもりだ。
ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
さすがに噛み付かれた状態では避けることができず、白大蛇の太い幹のような体が半分ほど消し飛んだ。勝負あったね。
『はぁ、はぁ、はぁ……』
白大蛇に勝利したグウェナエルだけど、ギリギリの勝利だったね。首も絞められてたし、正直、どっちが勝ってもおかしくなかったのかもしれない。
「グエルよ、お前の闘志は買うがな。先ほどの戦闘はあまりに拙いと言わざるをえない」
『はい……』
「ドラゴンブレスは隙が大きい。いざという時の切り札だ。それを最初に切るのは悪手だ」
『しかし師匠、ブレス以外の攻撃などどうすれば……?』
「お前には立派な手も足も尻尾もあるじゃないか。お前はドラゴンブレス頼りでまったく体術がなっとらん。横着せずに、もっと体を動かせ!」
『はい……』
「次の戦闘では、ブレス無しで戦ってもらうぞ」
『わ、分かりました……』
戦闘が終わるたびに、クロからグウェナエルに戦闘のアドバイスが飛ぶのも、もはや見慣れた光景だ。
猫がドラゴンに戦い方を教えているなんてなんだかおかしな感じだけど、クロとグウェナエルの間に遊びは無い。どちらも真剣だ。
「こんなに大きなジャングルヴァイパーを倒すなんて、ドラゴンは確かに生物の頂点と呼ばれるだけはありますわね」
「これ食えるのかにゃ?」
「規格外の大きさですが、食べることは可能ですわ」
「じゃあ、今日のお昼ご飯はこの蛇にゃ!」
「蛇食べるんだ……」
森を徘徊するようになって、いろんなものを食べてきた私だけど、蛇を食べるのは初めてだ。見た目はウナギに近いけど、味も近いのかな? どっちにしろ、おいしいといいな。
我ながら、少しは食に対して逞しくなった気がする。幼虫や芋虫はまだ無理だけど、虫もそこそこ食べられるようになってきていた。
「どうする? もうお昼ごはんにしちゃう?」
「もうそろそろお昼ですからちょうどいい時間ですね」
「じゃあ、ちゃっちゃと作っちゃうにゃー!」
森の中は日の光が枝葉に遮られて薄暗い。時間感覚なんて私はとっくに狂ってしまったけど、二人は森育ちだからか、太陽の見えない森の中でも正確な時間感覚を持っている。すごい。
アメリーが白大蛇の死体からお肉をはぎ取って、シヤが石を拾ってあっという間に即席の竈を作り終わった。
私もなにか手伝わないと!
「私はなにをすればいいの?」
「そうですわね……」
「じゃあ、マイには敷物を広げてほしいにゃ」
「分かった!」
私は大きな熊の毛皮を受け取ると、地面に敷いた。頭が二つもあってかなり強面だけど、これが異世界のピクニックシートだ。
日の光があまり届かない森の中は、ムシムシしている。地面に広がる腐葉土の海は、じっとりと濡れているため、敷物は必須だ。
「あれ? シヤはどこ行ったの?」
「こちらですわ。ちょっとキノコ狩りをしていましたの」
シヤのスカートには、さまざまなキノコが乗っていた。あれ全部食べられるキノコらしい。この短時間ですごい!
「滅多に人が来ないのか、取り放題でしたわ」
「私にも取れるかな?」
「では、一緒にキノコをとりましょうか」
「うん!」
アメリーの持つフライパンからいい匂いが漂う中、私はシヤとキノコ狩りに精を出すのだった。
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