第19話 グエルの威光

「冒険者っていうのは、今はモンスターの討伐や、ダンジョンの攻略みたいな街の外でのお仕事を専門に請け負う武装集団にゃ。これならグエルが強いモンスターと戦って修行もできて、お金も貰えるにゃ」


 ダンジョンというのはよく分からないけど、モンスターなんて危険な存在がいるから生まれた職業なのだろう。


 アメリーの説明通りなら、冒険者になるのはいい考えのような気がした。


 そして善は急げとばかりに、私たちは宿を飛び出して、冒険者ギルドに向かうことにした。


「ありましたね! あれが冒険者ギルドですわ!」


 クロとグウェナエルの従魔登録のために一度訪れた場所だ。石造りの大きな建物で、大きな入り口のドアの上には、デカデカと剣が交差した紋章のような物が掲げられている。あれが冒険者ギルドのマークらしい。


 大きなドアを開けると、上機嫌な笑い声がいくつも聞こえてきた。


「ガハハハッ! 今回は肝が冷えたが、楽な仕事だったな!」

「ガハハハッ! それだよな。ドラゴンが相手と聞いた時は、正直言って死を覚悟したが、楽に終わって助かったぜ!」 

「おい! あれって!」

「あれが噂の……!」

「マジかよ。まだ子どもじゃねえか」


 でも、私たちの登場に気が付くと、波が引くように静まり返っていく。


 なんだかものすごく注目されてる。


 冒険者ギルドに入って左側の飲食スペースで盛り上がっていたドワーフたちの顔には、驚きや怖がっているような感情が見え隠れしていた。


「すっごい人目を集めているにゃ?」


 こんなに注目されると、ちょっと恥ずかしい。


「は、早く登録しちゃいましょ!」


 私はあえて左側を見ないように受付嬢のさんの居るカウンターテーブルへとやってきた。


「あのー、冒険者に登録したいんですけど……」

「あいよ」


 受付嬢さんは、肝っ玉母さんみたいなドワーフの女の人だった。


「話は聞いてるよ。あんたたちドラゴンを従えてるんだって? すごいねぇ。ウチの冒険者たちが度肝抜かれていたよ」


 そう言ってカラカラと笑う受付嬢さん。


「冒険者の登録だったね。あんたたちみたいな強い冒険者は大歓迎さね。超大型新人の誕生だねぇ」


 年齢のこともあって、冒険者になれるか心配だったけど、どうやら大丈夫みたいだ。


 そんなこんなで、なんとか冒険者として登録を終えた私たちは、無事に冒険者の証を手に入れることができた。


 冒険者の証は、革紐に名前の書いた羊皮紙が付いているだけの物だった。


 ものすごく簡単な作りだ。こんなの誰でも真似できちゃうけど、こんなのが証で本当にいいのかな?


「あんたたちは一番下のペーパー級だ。これから冒険者として功績を積むと、次はホワイトウッド級になるよ。まずはアイアン級目指してがんばんな」


 冒険者にも等級があって、等級が上がるにつれて、今は羊皮紙がぶら下がっているだけのこのネックレスも豪華になるようだった。


「あとはパーティ申請もしちゃうにゃ」

「パーティ申請?」

「冒険者は、仲間同士でパーティっていうグループを組むにゃ。そしてパーティのみんなで依頼とかを解決していくにゃ」

「パーティですか。そんなものもあるのですね」

「ちょっと待ったー!」


 突然後ろから声をかけられた。振り向くと、立派なおヒゲを生やしたドワーフたちが、私たちを取り囲むように人垣を作っていた。


「お嬢ちゃんたち、ワシのパーティに入る気はないか? ワシらはアイアン級のパーティだぞい」

「アイアン級ごときは黙っとれ! ワシらはシルバー級じゃぞ? ワシらが冒険者のイロハを教えてやる」

「そんなこと言って、本当はドラゴンの戦力が欲しいだけだろうが!」

「それはオヌシらも同じじゃろうが!」

「えーっと……」


 パーティに誘われているみたいけど、それはドラゴンであるグウェナエルを仲間にしたいだけみたいだ。


 やっぱりドラゴンが仲間にいるってすごいことなんだ。


 グウェナエルは、黙っていれば漆黒のかっこいいドラゴンだもんね。仲間にしたい気持ちも分からなくもないかな。


「どうするにゃ? 先輩冒険者にいろいろ教えてもらえるのはアリだと思うにゃけど?」


 私は冒険者がなにをするお仕事なのかも分かっていないところがある。


 たしかに、先輩冒険者に教えてもらえるのは助かるけど……。


「でも、私たちもうすぐに帰っちゃうよ?」

「「「え?」」」


 周囲のドワーフさんたちが驚いているけれど、私たちは温泉に入りに来ただけで、温泉を堪能したら、すぐに帰るつもりなのだ。


「あーそうだったにゃ。じゃあ、パーティを組むのは無理だにゃー」

「舞よ、こやつらはグエルの威光に縋ろうとするしょせんはその程度の連中だ。パーティとやらを組むのは止めておいた方が無難だな」

「もう、クロ……」


 私はしゃがんで口の悪いクロの頭をわしゃわしゃと撫でる。


 もう慣れたけど、あんなにかわいかったクロが、まさかこんなに毒舌だなんてね……。世の中には知らない方が幸せなことがあるというけど、それは本当だね。


「出て行っちまうのか?」

「付いていきてぇところだが、この街におっ母と息子もいるしなぁ……」


 ドワーフさんたちに諦めムードが漂い始めた。よしよし。


「いや、ワシは付いていくぞ! ドラゴンを従えたパーティが組めるなんて、こんなチャンスは今しかねぇ!」

「ええい! ワシも行くぞ!」

「あのー……」


 できるだけ角を立てずに断ろうと思ったんだけど、ダメだったね……。


 ドラゴンのネームバリューは、私の想像以上に大きいようだ。





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