第43話 冒険者の宴会

 冒険者ギルドのドアを開けると、冒険者たちの目が一斉に向いた。でも、その視線は仲間を見るような柔らかさを持っていた。


 最初に冒険者ギルドに来た時とは比べ物にならないほど優しい視線だ。


 街に来襲したコンドラートと叔父さんを撃退してから、共に街を守る仲間として認められたような気がする。


「誰かと思えば、街の英雄さんじゃねえか」

「聞いたぜ。ペーパー級から一気にアイアン級まで上がったんだってな?」

「ホワイトウッド級、ブラックウッド級を飛び級だろ? すげースピード出世だよな」

「お祝いに一杯奢らせてくれよ」


 冒険者というのは、一度仲間として認めたらかなりフレンドリーになるらしいね。


「お前らが『猫神の使徒』か?」


 その時、普段見かけない冒険者たちがわらわらと集まってきた。たぶん、初めて会う人たちだと思う。


「お前らのおかげで助かったぜ。俺らは自分で言うのも恥ずかしいが、この街の主力冒険者なんだ。俺らは子爵様からの依頼で何日もかけて森の深部まで行ってたんだ」


 男の顔が面目なさそうに伏せられた。


「そんな時に街がドラゴンに襲われたと聞いてやきもきしてたんだ。どんな損害が出てるかと思えば、損害は軽微。街を襲ったドラゴンも撃退。素晴らしい活躍だ! ドラゴンも従えてるって話だし、お前らすげーよ! 俺たちはお前たちをこの街に歓迎するぜ。よろしくな!」

「わたくしたちも皆様にお会いできてうれしいですわ。これからもよろしくおねがいいたします」

「おう! まずは感謝を伝えさせてくれよ。今日は街の新たな超新星パーティを祝って宴会だ! 金は俺たちがもつ。じゃんじゃん食って、じゃんじゃん飲んでくれ!」

「「「「うおぉおおおお!!!!」」」」


 なぜかいきなり宴会をすることに!?


「食べ放題にゃ!?」

「ほう!」


 アメリーとクロは俄然乗り気のようだ。


 今日は領主様の指名依頼を受けに来たんだけど……二人とも忘れてないよね?


「どうしよう、シヤ?」

「断るのも失礼ですわ。ここはお言葉に甘えましょう。これがおそらくこの街の冒険者のノリなのでしょう」


 時間は丁度お昼な時間帯。お腹も空いてきたし、私も食べちゃおう!



 ◇



「ふむ。ムニエルには負けるが、うまいな。少し塩辛いが、及第点をやってもいいだろう」


 相変わらずクロは無駄に偉そうだね。足元で焼かれた魚を食べるクロを見下ろしながら、私は思わず苦笑が漏れた。


 クロは偉そうな物言いをするけど、臆病な私はクロの言葉に勇気付けられることも多かった。


 臆病な私と偉そうなクロ。性格は真反対だけど、だから丁度いいのかもしれない。


「よお! あんたがドラゴンの主なんだって? 成人してるか怪しいが、それを突っ込むのも野暮ってやつだな」

「こ、こんにちは!」


 いきなり筋肉ムキムキな男の人に話しかけられてビックリしてしまう。男の人はビールをがぶがぶ飲んで上機嫌だ。私の背中をバシバシ叩かれて痛い……。


「貴様! 舞に何をしている!」

「クロ!? だ、大丈夫だから!」


 私が叩かれているのを咎めてクロがやんのかステップを踏む。私は慌ててクロを抱き上げた。


「お! その猫が噂のドラゴンの師匠か? ドラゴンよりもつえーんだろ? 暴漢も瞬殺したって話だし、すげーな!」


 男の人がクロをマジマジと見て、手を伸ばす。


「貴様に触ることを許可した覚えはない!」


 しかし、クロは男の手をペシッと撥ね退けた。


「嫌われちまったか」

「すみません、すみません。こら、クロ?」

「ふんっ!」

「いや、いいんだ。お前らはまだアイアン級だが、絶対にこの後もランクを駆け上る。高ランクの依頼ってのは、いくつものパーティが協力してレイドを組む場合もあるからな。お前らは頼りになりそうだ。登ってくるのを待ってるぜ! んじゃ、邪魔したな!」


 そう一気に言って、男の人はくるりと背を向けた。


「お前ら! 盛り上がってるか!?」

「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」


 たぶんだけど、さっきの男の人はこの街の冒険者のトップ層の中心人物なのだろう。カウンター席でもそもそとご飯を食べていた私を気遣ってくれたのかもしれない。


 私はあんまり人前に立つのは得意じゃない。人に見られる恥ずかしさが勝ってしまう。


「にゃはーっ! 七杯目!」

「猫の嬢ちゃんいい飲みっぷりだな!」

「どんどん持ってくるにゃー!」


「アイアン級の狩場が知りたい?」

「ドラゴンが居るんだ。あんたらならもっと上でも楽勝だろうよ。あまりランクに捕らわれない方がいい」

「わたくしたちは、ドラゴンに頼りっぱなしになるのは違うと思っていますの。ですから、まずは自分たちがアイアン級にふさわしい実力を身に着けたいのですわ」

「ほお? いい心がけだな」


 アメリーもシヤも物怖じしない性格だね。積極的に人と交わっているのが眩しく見えた。


 アメリーはがぶがぶお酒を飲んで周りを楽しませているし、シヤは周りの冒険者たちから情報収集しているみたいだ。


 私もなにかパーティに役立つことをした方がいいよね。


 でも、何をすればいいんだろう?


「クロ、なにをすれば他の冒険者のみんなと仲良くなれると思う?」

「敢えて仲良くなる必要はあるのか?」

「さっきの男の人も言っていたでしょ? パーティ同士で協力するって。その時、まったく知らない人よりも知り合いの方がやりやすいでしょ?」

「ふむ……。そういうものか。だが、まずは人と話さねば始まるまい? 舞にそれができるか?」

「……がんばる」

「はぁ……無理はするなよ」

「お願い、クロも付いてきて」

「いいだろう。まずはそうだな……。あそこに女が集まっているぞ。まずはあそこはどうだ?」


 クロの前足の上げられた方向を見ると、数少ない女冒険者の人たちが集まっていた。


 男の人と話すよりも女の人の方がまだ話しやすいかな。


「行くわよ……!」

「うむ」


 私は震えそうになる足で一歩踏み出した。





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