第42話 礼物
「お呼びたてしてしまい申し訳ありません。皆様ようこそいらっしゃいました」
白と青を基調とした格式高そうなお部屋に、領主様の落ち着いた声が響く。
ここはドッセーナの街のお城の中にある応接間だ。偉い人と同じテーブルに居ると思うと、かなり緊張してしまう。
「かまいませんわ。今のわたくしたちはただの冒険者ですもの」
こういう偉い人との会話をしてくれるのはシヤだ。さすがエルフの王女様なだけあって、こういった場でも堂々としていて綺麗で、憧れてしまう。
「今回、皆様をお呼びたていたしましたのは、街をドラゴンの来襲から守った功績を称えるためです。皆さまのご尽力、ありがとうございました」
そう言って、ドッセーナ子爵がちょこんと頭を下げるのが見えた。
「まあ! よろしいのですか?」
ドッセーナ子爵が頭を下げたことを、シヤはひどく驚いていた。なんでだろう? お世話になったら頭を下げるのはよくあることだと思うんだけど?
「皆様は街を救っていただいた恩人です。私の頭など軽い軽い」
「失礼ですけど、人間の貴族が平民相手に頭を下げるとは思ってみませんでしたわ」
「それだけ皆様には感謝しているということです。我が街の冒険者たちも出払い、最悪のタイミングでの来襲かと思いましたが、皆様のおかげで首謀者を確保でき、被害は最小限に食い止められました」
領主様は知らないみたいだけど、その首謀者は私の叔父さんだ。べつに叔父さんを庇う気なんてさらさらないけど、なんだか心がもにょもにょする。
「これはささやかながら『猫神の使徒』の皆様への礼物です」
「ありがとうございます」
「それから皆様はどうやら拠点を探していらっしゃるご様子」
私たちは、本格的にこの街を拠点にしようと家を探していた。いつまでも宿屋暮らしだと、お金がかかるからね。領主様はどうやらそのことを知っているらしい。
「耳が早いですわね」
「この街のことですから」
そう言って領主様が苦笑を浮かべてた。たぶん独自の情報網があるんだと思う。自分の領地だしね。
「どうでしょう? よろしければ私の所有する屋敷をお譲りいたしますが?」
「お屋敷を……!?」
「太っ腹だにゃ!?」
さすがに屋敷をくれるという発言には、会話はシヤに任せて黙ってやり過ごそうと考えていた私とアメリーも驚きの声をあげてしまった。
だって、貴族の持つお屋敷だ。絶対豪華なやつだよ。
この世界に来て家に恵まれているのか、猫族の村にあるお家と合わせて、これで二件目のお家だ。
「ふふっ。ありがたくいただきますわ。ですがよろしいのですか? 礼物を頂いた上に更にお屋敷なんて」
「それで頼りになる冒険者がこの街に居ついてくれれば儲けものですので」
「まあ!」
シヤと領主様がなごやかに笑っている。お屋敷なんて大きすぎるお礼を貰ったら、私はビックリして断っちゃうだろうに、シヤは余裕の笑みだ。シヤってすごいね。
もしかしたら、シヤにとってはお屋敷なんて貰い慣れているのかもしれないね。エルフの王女様だし、もっとすごいものも貰ったことがあるのかもしれない。
「気に入っていただけましたか?」
「ええ。気に入りましたわ」
「それはよかった」
こうして和やかな様子でシヤに投げっぱなしでお話は進んでいった。
「それで、グウェナエル殿でしたか? ドラゴンについて知ってることをお教え願えないでしょうか?」
「グウェナエルについてですか?」
「この機会にぜひドラゴンの生態などを知りたいと思いまして。そうすることで、無用な争いを避けることができるかもしれません。あとは私の趣味ですな。実は、私はドラゴンが大好きでして」
ちょっと恥ずかしそうに頭の後ろを搔きながら言うドッセーナ卿。やっぱり男の人ってドラゴンが好きなのかもしれないね。男の子がカブトムシやクワガタが好きなのと一緒かな?
「グウェナエルについてですが、わたくしたちも会って日が浅いのでそこまで知っているわけでもないのです」
「えっとね、グエルはお金を貯めて好きなドラゴンに告白することが目標なの!」
「そうなのですか!?」
私はグウェナエルから聞いた話をドッセーナ卿に話していく。
「そうなの。ドラゴンのオスはお金を貯めて優秀さを見せてメスの気を引くみたい。ドラゴンの結婚生活ってお金がかかるんだって」
「そんな話は聞いたことがありませんでした。私はいろいろとドラゴンに関する文献を読んでいるのですが、初耳です。しかも、情報源はドラゴンから直接。これは大発見かもしれませんぞ! 私の所属するドラゴン学会ですぐにでも発表しなくては!」
ドッセーナ卿はもうウッキウッキだ。まるで子どもみたいに目をキラキラさせて、頬が赤くなっている。本当にドラゴンのことが好きなんだなぁ。
「あとね、生のお肉よりも焼いたお肉に塩を振った方が好きみたい」
「ふむふむ。それでそれで!」
「あとはお酒も大好きみたいだよ」
私は知りえる限りのドラゴン情報をドッセーナ卿に話していく。ドッセーナ卿はもうニッコニコでメモしていた。
最初はどこか怖く感じたドッセーナ卿だったけど、そんな感情はもうどこかに飛んで行ってしまった。今ではちょっとかわいいと感じてしまうくらいだ。
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