第33話 スパンッ!

「あのにゃ、マイ。その、今日もお願いしてもいいかにゃ……?」

「舞よ、我も頼む」

「はいはーい」


 大きなベッドの上には、アメリーとクロが私にお尻を向けて香箱座りしていた。クロがするならまだわかるけど、アメリーも香箱座りだ。そして、なにかを期待するようにお尻をゆらゆらと振っている。


 私は、二人の尻尾を避けると、尻尾の付け根に手を置いた。


「ふにゃっ!」


 さすさすと尻尾の付け根を撫でると、ぴくぴくとアメリーの腰が浮いた。


 今宵も宴が始まる!


 パンパンパンパッパパンパッパッパン!


「あひゅっ! しゅごいっ!」

「いいぞいいぞ……!」


 二人の腰をリズミカルに叩くと、二人が背をのけ反らして歓声を上げた。


 猫が尻尾の付け根をトントンしてあげると喜ぶのは知っていたけど、それはどうやら猫族にも有効らしい。アメリーの腰をトントン叩いてあげると気持ちいいみたいだ。


 スパンパンパンパンパパッパパンパン!


「いい! いいのぉおおお!」


 でも、クロのお尻を叩いても気持ちよさそうにだらんとするけど、アメリーの場合、なんだかどんどんと彼女のテンションが高まっていくような感じがする。声も艶っぽいような、湿り気を帯びている気が……?


 この違いは何だろう?


 そんなことを思いながら、私はドラマーにでもなった気分でリズムを刻んでいく。


「ちょっとアメリー? 変な声を出すのは止めなさいな」

「でも~、でも~~。ひゃんっ!」


 シヤに注意されてもアメリーは止まらない。私も止まらない。


 パンパンパパーンパパパパーン!


 なんだか楽しくなってきた。


 そして――――ッ!


「ひぐっ!」


 アメリーが背筋を限界まで逸らして、ピクピクと震えた。終わりの合図だ。


「ふぅ~」


 私は謎の達成感を感じながら、熱くなった手のひらでアメリーとクロの腰を撫でる。


「あ、あ、あ、あ、あ、」

「舞よ、腕を上げたな!」


 言葉を紡げないアメリーとは打って変わって、クロはいつも通りの調子だった。猫にはそうでもないけど、猫族には刺激が強すぎるのかもしれないね。


「あり、がとにゃ。きもち、よかったにゃ……」

「うん。またやってほしくなったら言ってね」

「この謎の儀式は続けるべきなのでしょうか……」


 シヤの呟きが部屋に溶け、夜も更けていくのだった。



 ◇



『そうですか……。またオレのせいでご迷惑をおかけしました……』


 頭の中にグウェナエルの面目なさそうな声が直接的に頭に響く。グウェナエルの念話だ。


 今日という日を終えて、私とシヤとアメリーは、大きなベッドに川の字に寝ながら、グウェナエルと今日あったことを話し合っていた。


「べつにグエルのせいじゃないの。今回は私の信用が無かっただけの話で……」

「それだってマイのせいではありませんわ」

「そうにゃ、そうにゃ」

「舞よ、そう自分を追い詰めるものではないぞ?」


 シヤたちはそう言って慰めてくれるけど、やっぱり私に信用が無いのが大きいと思えてしまう。


「どうやったら信用してもらえるようになるかな?」

「信頼を得るには長い時間がかかるだろう。一朝一夕にはいかぬぞ?」

「うん……」


 私は布団の中でクロを抱きしめながら、無力感を感じていた。


 クロの言うように信頼を得るには時間がかかるのは分かっているのだ。でも、そんなに長い間この街の人を怖がらせるのも本意ではない。


「やっぱりこの街も出ていかないとダメなのかな……?」


 でも、ここを旅立ったとしても、また新天地で同じことの繰り返しになるのでは?


 私は旅が嫌いなわけではない。グウェナエルに乗って移動してしまえば快適だし、野営もキャンプみたいで楽しい。


 でも、ずっとそんな生活をするのかと思うと、さすがに心が疲れてしまう。


 私たちの安住の地はどこにあるのだろう?


『オレはあんまり街に顔を出さない方がよさそうですね……』

「そうかも……」


 グウェナエルの沈んだ声に同意したら、私の腕の中からクロが飛び出した。


「いや、敢えてグエルの姿を衆目にさらすという方法もあるぞ? この街の人間にドラゴンが居る生活を慣れさせるのだ。さすれば、問題は徐々に沈静化していくだろう」

「そうなのかな?」


 そういう方法もあるかもしれない。


 すぐに信頼を得る方法が浮かばない以上、そうしたほうがいいのかな?


「うーん……」

「悩みますね……」

「まぁなるようになるにゃ」

「やって損はあるまい? ドラゴンが来る。しかし、街を襲わない。その事実を積み上げることで信頼を築くこともできる」

「なるほど……。でもその度にこの街の人を怖がらせるのは……」

「そこは必要な犠牲だな。実際に被害が出ないのだからいいのではないか?」


 クロは心臓強いなぁ。私は批判が怖くて、申し訳なく感じちゃって動けないのに……。


 でも…………。


「分かった。グエル、一度街に戻ってこれる?」

『了解です、姐御。明後日くらいに街に戻りますね。その際にですが、一度師匠にお手合わせ願えると嬉しいです』

「うむ。待っておるぞ」


 こうして、グウェナエルの一時帰還が決まったのだった。





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