第11話 くっころドラゴン

『クソッ! なんたる屈辱……ッ! 一思いに殺せッ!』


 私の目の前には、黒い半透明の球体の中に囚われの身になったコンドラートがいた。先ほどまでジタバタ暴れていたけど、今は静かに私たちをにらんでいる。クロの張った結界を自力では壊せないことがわかったのだろう。


「殺さないよ。物騒だなぁ」

『このまま生き恥をさらせというのかッ!?』

「生き恥って……。ちゃんとお願いを聞いてくれたら開放するから」

『信じられぬ!』


 コンドラートの視線は私たちへの怒りに満ちていた。そして、人間ごときに敗れたのを恥と感じて、殺せと詰め寄ってくる。


 私からすると、そんなに簡単に命を投げ出さないでほしいところだ。


 私はコンドラートを落ち着かせるために、あえて柔らかい口調で話しかける。


「コンドラート、あなたには……」

『下等種族ごときが! 俺様の名を口にする許可を与えた覚えはないぞ!』

「……あなたには、獣人族たちから奪ったお宝を返してもらうわ。そして、もう人に迷惑をかけないと誓ってもらう!」

『貴様ッ! 貴様に何の権利があって……』

「敗者は大人しく勝者に従うべき。コンドラート、あなたの言葉よ? それとももう一度勝負する? 負けを認めない方がみっともないと思うけど?」

『ぐッ!? くそッ、わかった……。好きにしろ……』


 ものすごく渋々といった感じで小さく頷くコンドラート。


 好きにしていいらしいので好きにすることにした。


 コンドラートの持つ財宝はすべて没収。その代わり、もう人に迷惑をかけないことを条件にコンドラートをすぐ解放する。コンドラートはグウェナエルのように私たちに付いてくることはなかった。


『俺様に勝ったとはいえ、人間ごときに尻尾を振るなど、オレ様の矜持が許さない! 必ず俺様を自由にしたことを後悔させてやるぞ! 必ずだ!』


 そんな捨て台詞を吐いて、コンドラートは高速で飛んでいってしまった。もう豆粒ほどの大きさしかない。


「舞よ、やはり殺した方が楽だったのではないか? 後顧の憂いを断つ覚悟も必要だぞ?」

「うん……。でも、グエルの知り合いだし……」


 嘘だ。


 グウェナエルの知り合いではなくても、ドラゴンという会話ができる存在を殺すこと。それは私には重すぎた。


 それに私はお肉が好きだ。


 だから、動物を殺すこと否定するつもりはない。


 猫族の狩りに同行することで、私は動物の命を奪うことにも少しだけ慣れた。


 でも、会話ができる相手の命を奪うことにはとまどってしまう。


 これもいつか超えなくちゃいけない壁なのかな?


 そんな未来がこないことを祈っている。


「うにゃー! すっごい数のお宝にゃ!」


 近くにあった大きな洞穴から、コンドラートの貯め込んでいた財宝が見つかった。その数は、グウェナエルのものよりもとても多い。


「じゃあグエル。お願いね」

『かしこまりました……』


 財宝はそのままではとても持ち運べないので、一度すべてグウェナエルの持つマジックバッグへと収納してしまう。この中から獣人族から搾り取られた財宝を返した分が、私たちの取り分だ。


 シヤが言っていた通り、私が一生かけても使いきれるか分からないほどの金額になると思う。


 それにしても、グウェナエルが元気ないね。コンドラートに負けたのがそんなにショックだったのかな?


「グエル……」

「おめでとうございます。まさかこうも易々と、ドラゴンを赤子の手をひねるように調伏してしまうとは驚きでした。報酬のこともあります。ぜひ一度エルフの里へおいでください」


 グウェナエルの様子も気になるけど、まずはコンドラートに宝物を奪われた人たちに返さないとだね。


 それに、ドラゴンを追い出した報酬も貰わないと。


 報酬は一度は辞退しようと思ったけど、クロがそれを引き留めた。


「貰えるものは病気以外貰っておけ。我には金がどれほど便利なものか未知数だが、役立つものなのだろう? 貰っておいて損はない。それに、我はタダ働きが嫌いだ」


 クロの言う通りかもしれない。この世界のお金の価値はまだ分からないけど、お金を稼ごうと思った時、私のような子どもを雇ってくれるところがあるのかも分からない。


 お金は余分に持っていても腐ることはないし、ここはシヤの言葉に甘えて報酬を受け取ろう。


 それに、グウェナエルのマジックバッグに入れてもらえば邪魔にならない。


「エルフの里には初めて行くにゃ! 楽しみだにゃー!」

「そうなんだ。ちょっと意外かも」

「わたくしたちエルフは、森でのいさかいの調停役でもあります。エルフの里に来る者は、なんらかの問題を抱えた者が多いのです。エルフの案内が無ければたどり着けない深い森の中ですので、迷い人すら来ませんわ」

「へー」


 なんだか秘境の奥地みたいだ。探検隊になったような気分がしてワクワクする。


 冒険なんて言っても、グウェナエルの背中に乗って空を飛べば、すぐに着いちゃうだろうけどね。


 それに、蒸し暑い森の中をひいひい言いながら歩くよりずっと快適だ。


『では、行きますぞー!』

「はーい」

「にゃー」

「お願いいたします」


 私たちはグウェナエルの背に乗って、シヤの案内の元、エルフの里へ向かうのだった。





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