第7話 ごはんよこせ?

 ドラゴンの意外にも現実的な生態にげんなりしていると、こちらに向かってしずしずと歩いてくる人たちの姿が見えた。


「マイ様? こんな所でどうしたにゃ?」

「アメリー?」


 しずしずと行儀正しくやってきたのは、アメリーたちだ。アメリーの後から入ってきた猫族のお姉さんたちは、料理の乗ったお膳を持っていた。今日もご馳走みたいで、お膳がいくつも地面に並んでいく。


「マイ様もこちらで食べますか?」

「うん。今日はそうする」


 用意されたご飯は大量で、残したら悪いからがんばって食べるんだけど、いつも完食できていないのは申し訳ない。


 まぁ、私が残した分はクロやグウェナエルが食べてくれるんだけどね。


「失礼いたしました。お食事をお楽しみください」

「ありがとうございます!」

『感謝する!』


 猫族のお姉さんたちが、尻尾を揺らして楚々として去っていく。


 アメリーは私たちと一緒にご飯を食べてくれるのでこの場所に残っている。


 アメリー。私よりも少し年上のお姉さん。この世界での初めてのお友だち。


 できればアメリーにも私たちの冒険に付いてきてほしいと私は思っていた。


 でも、アメリーと一緒に冒険に出るには、親である猫族の族長の許可も必要だろう。たぶん何日もかかる私たちの冒険に誘っても迷惑じゃないだろうか?


「んにゃ? どうしたにゃ、マイ?」

「えっとね……」


 アメリーを誘いたい。でも……。


「舞よ、ひょっとしてアメリーも誘うつもりか?」

「うん……」


 アメリーの問いに答えられず、下を向いてしまうと、クロが私を見上げていた。


「とりあえず誘ってみればよいのではないか? アメリーは撫でるのが上手いからな。我は賛成だ」

「うーん……」


 撫でるのが上手いからって……。私もクロみたいに軽く考えれるようになれば、悩みとか無くなりそうだね。


 でも、とりあえず誘ってみるというのも手かもしれない。


 もし私がアメリーの立場だったら、親が許してくれるかどうかは別として、誘ってくれたら嬉しい。


「えっとね、アメリー。もし私たちがこの村から出ていくってなったら……。一緒に付いてきてくれる?」

「えっ!?」


 アメリーは目を真ん丸にして驚く。私よりも年上なんだけど、尻尾もピンッと上を向いていてかわいい。猫族ってかわいすぎる! 頭を撫でたくなる!


「もしかして、にゃにか気に入らにゃいことでもあったかにゃ?」

「そうじゃなくて。私はね、この世界を回って、楽しいこといっぱいして、幸せを探すの! それでね、迷惑かもしれないけど、アメリーにも一緒に付いてきてほしくて……。どうかな……?」

「にゃにゃ!? にゃーも付いていっていいのかにゃ?」

「うん! 私はアメリーに付いてきてほしい!」

「にゃーも行くにゃ! 止められても絶対行くにゃ!」


 迷惑になったらどうしよう。そう思っていたのだけど、アメリーは意外にも即決だった。本当に大丈夫なんだろうか? それに……。


「やっぱり、アメリーのお父さんとお母さんにも訊いてみないと……」

「あぁ、それなら大丈夫にゃ」


 そう言うアメリーは少しだけ寂しそうな顔をしているように見えた。


「そうなの?」


 アメリーは族長の娘だ。今回私たちのお世話役になったように、いろいろお仕事がありそうだけど……。


「元々にゃーはこの村を出ていくつもりだったにゃ。それが少しだけ早くなるだけ。絶対に族長を説得してみせるにゃ!」

「あっ! アメリー?」

「善は急げにゃー!」


 アメリーは、ご飯そっちのけで出て行ってしまった。たぶん彼女のお父さんである族長を説得しようとしていると思うのだけど……大丈夫かな?


 その後、アメリーは満面の笑みで説得が成功したことを教えてくれた。



 ◇



 私たちのお家の前、大木の太い枝の上に手足の短いマンチカンのような子猫たちがひしめくように集まっていた。


「マイ、お腹空いたー!」

「ボクもボクもー!」

「ご飯よこせ?」

「分かったから、分かったから。今日はすごいわよ。なんと、恐竜のお肉なの!」


 私は用意してもらった籠の中から、白い肉塊を取り出した。


 先日仕留めたクワトラトプスのお肉だ。茹でると白くなって、まるで高級な鶏肉のような味がする。


「早く! 早く!」

「もう待ちきれないよー!」


 子猫たちが、しゃがんでいる私に頭突きしながら群がってくる。


「もうちょっとだけ待ってね。……はい、どうぞー」


 私は借りたナイフで肉塊を小さく切り分けると、手で毟って小さくしてから子猫たちに与えていく。


「うめー!」

「おいし! おいし!」

「やっぱマイの飯は格別だな!」


 食べそびれた子が出ないように、複数の場所にお肉を置くと、一斉に子猫たちが群がっていく。


 ご機嫌に尻尾を立てて食べてる子猫たちばかりで、なんだか見ているだけで癒されて、嬉しくなった。


「子どもたちよ、ちゃんと舞にお礼するのだぞ?」

「「「はーい! マイありがとー!」」」


 普通は、親猫が警戒して子猫を預けるようなマネをすることは無いと思うのだけど、クロのおかげか、それとも私が猫としゃべれるからか、親猫たちは積極的に私の前に子猫を連れてきた。


 中には、首根っこを咥えられて、強制的に連れてこられる子もいるくらいだ。


 猫好きな私としては、まさにパラダイスのような光景である。


 猫族って、やっぱり猫が好きなのか、村中に猫がいるのよね。


 たぶん、猫族の家の作りが関係しているのだと思う。ツリーハウスを蔦で結んだキャットタワーのような村は、猫たちにとって過ごしやすい遊び場所なのだろう。


 それに、地上に居るよりはるかに安全なのだと思う。


 猫が増えるわけよね。


 でも、もうじきこの子たちにも会えなくなるかと思うと寂しくなる。


 村出発の日は、もう明日に迫っていた。

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