第40話 猫ぱんちっ!!!

 クロの言葉が頭に響く。


「だが聞いてほしい。今の我らは、無力だったあの頃の我々ではない。我々には力がある!」


 でも、叔父さんに私の力は届かなかった。


 また今度もダメなんじゃないか。そんな不安が頭をよぎる。


「舞よ、魔法とは想いの力だ。舞は優しい子だ。きっとどこかであの男のことも許そうと考えているのかもしれん。だが、あの男にそんなものは必要ない。想像しろ、我らがあの男に敗れた後のことを。アメリーは、シヤはどうなる? 我はどうなる? そして、舞はどうなる?」


 叔父さんが勝ってしまった未来。私もクロもアメリーもシヤも、きっと殺される。


 そんなの嫌だ!


「憎悪の力で勝利するなどお前には似合わない。舞は希望の明日を描け! 我もアメリーもシヤも、そして舞も生き残る明日を! そして、それを踏みにじる奴を決して許すな!」


 私が希望する明日。夢見る明日。それは――――。


「みんなが明るく笑顔でいれますように……!」


 振り上げた右手を見れば、眩しくて目が眩んでしまうほどの光があった。


「猫ぱんちっ!!!」


 その魔法は今までと違った。光り輝く大きな拳が宙を疾走し、叔父さんへとぶち当たる!


「がペハッ!?」


 叔父さんは一気に体をのけ反ると、そのまま後ろへと倒れていった。


 ガチャンッと鎧を鳴らして大の字に倒れ伏す叔父さん。


 気を失ったの? 勝った……?


「滅せよ!」


 その時、クロの周りに黒い魔力が溢れた。


 クロの影が何倍も大きくなって、大きな杭になる。


 そして、その杭は叔父さんへと疾走した。


「クロッ!?」


 突然のクロの凶行に、思わず叫んでしまう。でも、それは叔父さんの身を案じてのものなのか、クロが人殺しをすることを恐れたのか、自分でもよく分からなかった。


 ガツンッ!


 幸い、クロの創り出した杭は叔父さんの体に届くころにはだいぶ小さくなっており、叔父さんの鎧を貫けなかった。


「チッ!」

「おそらく、鎧の力ですね。魔力を吸収する効果があるのだと思います」

「ほえー? にゃーの矢が曲がったのは?」

「おそらく矢避けの呪いではないかしら? 殺すにしろ拘束するにしろ、まずは鎧を脱がさなければなりませんね」

「そっか……。じゃあ、外しちゃお。クロもさっきみたいな追い打ちはダメだからね?」

「なぜだ!? 奴を殺せる千載一遇の好機だぞ!?」


 叔父さんを殺す。命を狙われたのだから当然の選択肢だと思う。


 それに、私とクロは叔父さんには酷い目に遭わされた。その記憶は今でも私を縛るほど色濃く残っている。


 この世界に叔父さんが居る。その事実は耐え難い恐怖だ。


 だけど――――。


「私はクロに人殺しになってほしくないの。それに――――」

「それに?」

「たぶん叔父さんを殺しちゃったら、私は心から笑えなくなっちゃう……」


 モンスターを殺す手伝いをすることには慣れた。でも、人を殺せる勇気は私には無かったし、そんなものはちっとも欲しくない。


「だから、ね?」

「クッ! 分かった。舞がそれを望むのならば……」


 クロも渋々頷ていくれた。


「話は纏まりましたか? では早く鎧を脱がせてしまいましょう」

「はいにゃ」

「アメリーとシヤもそれでよかった?」

「どうやら因縁がある様子でしたが、舞がかまわないならかまいませんわ」

「にゃーも人殺しは嫌いにゃ」

「ありがとう。勝手に決めちゃってごめんね」

『姐御! 師匠! 最後の魔法は何ですか!? あの光り輝く拳はいったい!?』

「グエル! 無事だったのね!」

「グエル勝ったにゃ?」

「こちらの完全勝利のようですわね!」

「ふむ。あの駄竜を倒したようだな。首級を挙げたのか?」

『殺してはいないです。ドラゴン同士の死闘は禁じられているのです。ドラゴンは数が少ないですからなぁ』

「ではそちらも拘束しないといけませんわね。急ぎませんと」

「はいにゃ!」


 私たちは急いで叔父さんの鎧を脱がそうとする。


 黒く、どこまでも深い黒。光すら反射しない漆黒の鎧。強引に脱がそうとするけど、まるで皮膚にくっついているように外せない。


「これってどうやって外せばいいの?」

「まさか……!」

「シヤ、なにか知っているにゃ?」

「おそらくこの鎧ですが……呪われています」

「呪い……? それで脱がせられないの?」


 深刻な顔でコクリと頷くシヤ。


「おかしいとは思っていましたわ。こんなにも強力な能力を兼ね備えた装備となると、世界にいくつもないです。悪用されないように厳重に保管されているはず。そんなものがこんな所にあるというのがそもそもおかしな話でした。この装備は呪われたものです」

「呪われた装備……?」

「はい。呪われた装備であれば、この強力な能力も納得がいきます。こんな所にある理由も……」

「呪いの装備だとなにかまずいにゃ?」

「呪いの装備の能力は強力ですが、デメリットもあるのです。一度装備すると決して死ぬまで外れず、装備者の魂を糧にします。つまりこの男は……。装備に魂を貪られるのです……」

「そんな!?」


 叔父さんの顔を見れば、たしかにやつれているのが見て取れた。これもこの装備の影響……?





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