第17話 猫がドラゴンの師匠って何だよ

「まさか、はぐれヒュドラを赤子のように……!?」

「あの猫もバケモノかよ!?」

「どうなってやがる!? 何がどうなってやがる!?」

「本当に神の使徒だってのかよ!?」


 街に帰る途中。首が八本もある蛇みたいな大きなモンスターに襲われたけど、クロがすぐさまバリアの中に閉じ込めてしまった。


『さすがです、師匠!』

「猫がドラゴンの師匠って何だよ……!?」


 どうやら冒険者たちにとって、グウェナエルよりもクロの方が強いということは、かなり驚愕するできごとだったようだ。


「ドラゴンより猫の方が強い? そ、そんなバカな……」

「アハハハハハハハハハハ……」


 中には魂が抜けてしまったかのように乾いた笑いを垂れ流すものも居た。ちょっと怖い。


「外野がうるさいな」


 クロは冒険者たちの反応なんて気にもしていないようだ。相変わらずのマイペースだね。


 でも、私としては不安でいっぱいだ。


 あまりに強すぎると、警戒されて従魔に認めてもらえないのでは?


 できれば、すんなりと認めてほしいけど、どうなることか……。



 ◇



「何なんだ、この光景は!?」

「あ、ありえない……!」

「俺は夢でも見てるのか? ドラゴンが、あのドラゴンが、お手してやがる……!」


 ドワーフたちの街へと続く洞窟の前。


 私たちは、たくさんの人だかりの中で、グウェナエルとクロが従魔と認めてもらうための試験を受けていた。


 試験内容はとても簡単だった。お手やお座りなど、言うことをきくところを見せればいいらしい。グウェナエルもクロも楽勝でどんどん試験をクリアしていく。


 その度に、私たちを取り囲む人垣から驚きの声があがった。


 猫はともかく、ドラゴンが人の言うことをきくのが信じられないようだ。


「で、では、次は伏せをお願いします」

「はい! クロ、グエル、伏せ!」


 私の号令でクロとグウェナエルが体を伏せる。


「ありえない、ありえない……!」

「ワシは何を見ているんだ……」


 その度に、人垣がどよめく。


 この世界の人たちにとって、それだけ信じられない光景なのだろう。やっぱりドラゴンといえば、モンスターの中でも王様のようなイメージがあったけど、そのイメージはあながち間違っていないのかもしれないね。


 そして、注目されているのはグウェナエルだけではない。


「あの猫もただ者じゃないらしいぜ。あのヒュドラを一撃だってよ」

「マジかよ!?」

「なあ、これは現実なのか?」

「噂ではドラゴンの師匠らしいぜ?」

「猫がドラゴンの師匠? もう訳が分からないよ!」


 帰り道でヒュドラを倒したクロも注目の的だった。


「あの少女は、神の使徒らしいぞ?」

「どの神様だ?」

「アベラール神だとよ。エルフの奉じる神か?」

「いやいや、本当に使徒様なのか?」

「それは分かんねぇけどよ。あんな規格外の従魔を連れてるんだ。普通じゃねえだろうよ」


 そして、ついでに私も注目の的だった。たくさんの人に注目されるのは、まるで視線で撫でられているかのような恥ずかしい思いがした。


 人の視線って、これだけ集まると重いんだね。初めて知ったよ。


 冒険者ギルドから来た試験官が顔を引きつらせて口を開く。


「まさか、プライドの高いと言われるドラゴンが人間の言うことをきくとは……。マイさん、お疲れさまです。これにて試験は終了です」

「はい……。それで、その合格ですか?」

「もちろんです。手続きのために冒険者ギルドに来てほしいのですが、今から大丈夫ですか?」

「はい! グエル、行ってくるね。ちゃんと大人しく待っているのよ」

『了解です。師匠に貰ったヒュドラでも食べて待ってます!』

「「「えっ!?」」」

「え……?」


 グウェナエルが念話で答えたと思ったら、周囲の人々が驚きの声をあげた。


 初めてグウェナエルが念話でしゃべったから驚いたのかな?


「ひゅ、ヒュドラを食べちゃうんですか!?」


 冒険者ギルドの人も相当驚いているみたいだ。なんでだろう?


「え? はい……」

「マジかよ!? もったいなすぎるだろ!」

「あのサイズのヒュドラなら、金貨五十枚は軽くいくぜ!?」

「金貨五十枚!?」

「えーっと……?」


 話を聞いていると、どうやらヒュドラは売れば高値で売れるらしい。そんなヒュドラをグウェナエルが食べてしまうことに驚いているようだ。


 私から見たらヒュドラは気持ち悪いモンスターだけど、高値で売れるのならたしかに食べてしまうのはもったいない。


 でも、あれはクロが倒したモンスターだし、もう既にグウェナエルにあげちゃったものだ。それを横から取るようなマネはしたくない。


 グウェナエルは大きな体に見合った大量のご飯を食べるし、仕方ないね。


「さすがにドラゴンのエサにするのはもったいないですよ!」

「そうだぜ嬢ちゃん。今からでも間に合う」


 私はゆるゆると首を横に振って答える。


「あれはもうクロがグエルにあげたものなので。取ったらかわいそうです」

「かわいそうったって、金貨五十枚だぜ!?」

「そうそう。さすがにもったいねえって!」

「舞、我にはよく分からんが、ヒュドラが必要ならば、グエルから取り上げるが?」

「いいの、いいの。一度あげたものをやっぱなしにするのは意地悪だもの」

「ふっふっふ。にゃーは知ってるにゃ。マイ様はアベラール神の使徒! お金に困ってるわけないにゃ!」

「そうですね。マイ殿の財力は貴方たちの想像を超えるでしょう」

「それでか! マジで神の使徒だってのかよ!?」

「そういえば、服もいい仕立てだな」

「すげー……!」


 なんだかアメリーとシヤのせいで話がどんどんおかしな方向に!?



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