第24話 エルフ豆の味噌

「おいひい……!」


 私の作ったぢゅーるに対するクロの評価はダメダメだったけど、アメリーの作ってくれた夕食はとてもおいしかった。


 このお皿に鎮座する白いお肉もヒュドラのお肉らしい。脇腹のお肉らしく、見た目はまんま大きなスペアリブだ。それを甘辛くて茶色いタレを付けて焼いてある。


 付け合わせは、ザワークラウトのような酸っぱい野菜と、焼いた玉ねぎのような甘い野菜。そして、ジャガイモのようなホクホクとしたお芋だ。


 お芋はクセのない味で、ご飯のようになんにでも合った。チーズを擦り下ろしてかけてもいいし、スペアリブの味にもマッチする。


「舞よ、我にも少し分けてくれ。チーズたっぷりでな」

「ちょっとまってねー」


 アメリーがクロ用に焼いてくれた味付けされていないスペアリブにチーズをこれでもかとかけて、クロ用のお皿に盛りつけて出した。


「あちッ!? はふはふ……」


 猫舌のクロが、熱々に溶けたチーズに果敢に挑戦している。クロってば、本当にチーズが大好きだね。


 そうだ!


 今度ぢゅーるを作る時、鶏肉にチーズを混ぜてみるのはどうかな?


 鶏肉とチーズって相性がいいし、試してみる価値はありそうだ。


「どうにゃ? お味は?」

「とってもおいしいよ! アメリーは料理上手だね!」

「にゃーが作れるのは、簡単なものだけにゃー」


 アメリーはそう言って手をひらひらさせて謙遜するけど、アメリーが料理をしてくれて助かっているのは本当だ。私は、料理なんて家庭科の授業でしかやったことがないのだ。


 料理はいつもお母さんが作ってくれていたけど……。こんなことになるんだったら、少しはお手伝いでもしておくんだった。そうすれば、お母さんの味のご飯が食べれたのに……。


 お父さんやお母さんが恋しい気持ちは無くなりはしない。でも、私が過度なホームシックにならないのは、アメリーの作る料理のおかげ……もっと言うと、お味噌のおかげである。


 甘辛く味付けされた大きなスペアリブは、なんとお味噌みたい味がするのだ。


 無性にご飯が食べたくなるけど、無いのが残念だね。


「おいひい、おいひい……」

「マイがまさかエルフ豆の味噌が好きだにゃんてにゃー」

「うん! 好き!」


 猫族の中では、エルフ豆の味噌は、お肉の味付けによく使用される調味料らしい。ちなみに“たまり”と呼ばれる醬油もあったりする。このお醤油とお味噌のおかげで私の心はかなり慰められたと思う。


 ここは異世界で、恐竜やドラゴンが居るような世界なのに、お醤油やお味噌があるなんて不思議だね。エルフ豆ってどんな豆なんだろう?


「うまうまだにゃー。お酒もうまー!」

「そうですね。わたくしもおかわりを……」

「あんまり酔い過ぎないでよ?」

「くぅー! 分かってるにゃー」

「本当かな……?」

「マイも飲むにゃ?」

「私は止めておくよ。お酒は二十歳からって決めてるの」

「もったいないにゃー。こんなにおいしいのに!」


 十五歳のアメリーがお酒を飲むなんて日本では信じられないけど、ここは日本じゃないからあまり強く言えない。


 それに、水は腐ってしまうけど、お酒は腐らないので、旅には必需品らしい。子どももお酒を飲むのは当たり前みたいだ。


 まぁ、私たちの場合はグウェナエルの持つマジックバッグに水を保存しているので、敢えてお酒を飲む理由はないんだけど……。


「お父様秘蔵の果実酒をねだった甲斐がありました」

「聞いてはいたにゃけど、やっぱりドワーフの作る酒は格別だにゃー!」


 さっきから何度もグラスを空けているシヤもだけど、アメリーもお酒が好きみたいだね。今も顔を赤くして、ちょびちょび飲みながら舌鼓を打っている。


「むふーっ!」


 アメリーがご機嫌な溜息を吐いて、すくっと立ち上がった。


「寝る!」


 ただそれだけ言って、アメリーはテントの中に行ってしまった。


「えーっと……、私たちも寝る?」

「舞は寝るとよい。我とグエルが見張りをしよう」

「わたくしも見張りをしています」

「そう? ありがとう!」

『お気になさらず。オレは寝なくても大丈夫ですので!』

「三人とも、ありがとう。よろしくね。おやすみなさい」


 クロとグウェナエルに挨拶してテントの中に入ると、もあっと少しだけ温かい空気を感じた。


「んにゃー……。うぷっ……」


 アメリーは簡易ベッドの上で寝息を立てていた。


 私はアメリーの眠る方のベッドに歩いていく。今日はクロが居ないし、いいよね……?


 私は靴を脱ぐと、アメリーの横に寝る。簡易ベッドは普通のベッドよりも狭いので、アメリーとくっつくようにしないと入れない。


「仕方ないよね……?」


 私はアメリーに抱き付いた。アメリーの体は火照っているのか温かかった。ちょっとお酒の匂いがする。


 当然、私のベッドも用意されているんだけど、クロも今日は見張りをするみたいだし、一人で寝るのは寂しかった。


「んにゃー……」


 アメリーの胸に耳を当てると、温かくて柔らかい中、ドクンドクンと鼓動が聞こえてきた。なんだか安心するリズムだ。


 心地のいい温かさとリズムになんだかすぐに眠たくなってきた。


 初めてのキャンプで、知らない森の中だというのに、こんなに安心してしまうのは、クロやグウェナエルが見張りをしてくれているからというのもだろう。


「おやすみなさい……」

「ぐー……」


 私はアメリーの寝息を聞きながら目を閉じたのだった。





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