第6話 仙人VS神崎⑤
アップルームで『一馬対二岡』の戦いを見つめている神崎に対し、豪傑が訊ねる。
「どっちが勝つと予想しているんだ?」
「一馬だ――」
即答だった。しかし、そこには条件が付く。
「――もちろん、油断をすれば結果は違う」
「勝負は何が起こるかわからないからな。二岡だってレーティング5位のプレイヤー、それなりの強さを持っているし、意地もあるだろう」
賭けのオッズは圧倒的に一馬支持だが、競馬でも一番人気の馬が勝つとは限らない。ここでジャイアントキリングがあっても不思議はない。
「順当に一馬が勝つのか、それとも何か起こるのか。どちらにしても次のラウンドで決まる」
神崎はそう断言して、視線を画面に戻した。
『いよいよ第2ラウンドの開始です!』
ゴングが鳴り、二人のプレイヤーがリング中央に歩み寄る。二岡は変わらずガードを固め、一馬はノーガードで二岡を中心にゆっくりと回る。
このラウンドも最初に動いたのは二岡だった。素早い踏み込みから高速のワンツーを放つ。それを半歩下がりながらヒラヒラとかわすと、今度は一馬が素早いジャブを繰り出す。それが二岡の打ち終わりの顔面にヒットする。
打たれたら打ち返す。マニュアル通りに二岡は右フックをお返しに繰り出す。それを読んでいた一馬がまた、半歩下がってスルっと避ける。
二岡の正当攻撃は、トリッキーな一馬に全く通用しない。すべての攻撃を避けられ、打ち終わりに軽いパンチを当てられる。ダメージは少ないが、ヒットしているだけジャッジの印象が悪い。
『面白いように一馬選手の攻撃が当たる! 二岡選手、なす術なしか!』
実況が叫ぶ通り、会場内にも一馬楽勝のムードが湧き上がる。
「格が違うぜ、格が」
「このラウンドで終了だな」
「おい一馬! いつまでも遊んでいないで、決めちゃえよ!」
観客からの声援を受けて、一馬も「よ~し、終わらせちゃうか~」と呑気な口調で『勝利宣言』すると、怒涛の攻撃を仕掛ける。
それまで軽いジャブを返していただけの一馬が、高速のコンビネーションを放つ。それが面白いように二岡のガードをすり抜け、ヒットする。
器用にガードの合間を縫ってくる一馬の攻撃に、二岡は防戦していてもジリ貧だと覚り、打ち合いに出る。
負けじとコンビネーションを放つ二岡。だがそれは、すべて『半歩の差』で避けられ、一馬のさらなる攻撃を呼び込むだけだった。
「イケイケ!」
「やっちまえ!」
距離を保ち、触れる程度の攻撃を続けていた二人が一転、激しい打ち合いを始めたことで会場内も盛り上がる。
だが、力量差が次第に現れる。攻撃を受け続けていた二岡のキャラクターが下がり、いよいよロープ際まで追い込まれた。それを見て、一馬がニヤリと笑う。
「よく頑張ったぜ、二岡。だがこれで終しまいだ!」
フィニッシュブローを決めようと、一馬は一気に距離を詰めた。その時、二岡が右フックでカウンターを合わせ、応戦する。
「ロウソクが燃え尽きる前の、最後の悪あがきか。見苦しいねえ~」
一馬はいつもの通り、二岡の攻撃を半歩下がって避けようとした。それを見て二岡がほくそ笑む。
「掛かったな、一馬!」
いつも半歩下がり、ギリギリで避けるのが一馬の癖。だから二岡はずっと同じ踏み込みを繰り返していた。一馬に距離を完全に見切ったと思わせること、それこそが二岡の作戦だった。
二岡はいつもより深く踏み込んだ。二人の距離がこのゲームで最も詰まる。それを見て一馬が目を丸くする。
「し、しまった!」
「一馬! その首もらった!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます