第4話 四天王VS神崎④

 メインイベントの直前、セミファイナルの試合が始まった。

神崎は今のうちに用を足そうと、控室を出た。建物内は自由に動けるが、廊下の左右にはSPが立っており、外出することは出来ない。不正行為や情報漏れへの対応は万全のようだ。

 トイレは控室を出て右手にある。男子用トイレの扉を開けようとしたところで、中から声がする。

「必ず勝利して、兄ちゃんがお前の病気を治してやるからな」

 それは豪傑の声だった。誰かと会話をしているのではなく、自分に言い聞かせている。神崎は扉を開く動作を止めて耳を傾けた。

「神崎省吾を倒せば十万ドルが手に入る。それだけあれば医療費が賄える。やるぞ、俺はやってやるからな」

 写真をポケットにしまいながら、豪傑が勢いよくトイレから出て来た。聞き耳を立てていた神崎とバッタリ出くわす。

「か、神崎省吾……今の、聞いていたのか」

「何の話だ」

 神崎は惚けた。その無表情を見て、豪傑は戸惑いながらも首を振る。

「いや、聞いていなければいいんだ」

 豪傑は足早に立ち去っていく。神崎はトイレに入り、それぞれのプレイヤーが色んなものを背負って戦っていることに深いものを感じる。なぜなら自分も同じように背負っているから。この三年間、いわれのない不正行為で受けた不遇の時間を取り戻すべく、アンダーグラウンドの世界で戦っている。

 大金が飛び交い、互いの意地と意地がぶつかり合う地下格闘ゲーム。コロッセオに君臨する四天王と神崎の戦いが、いよいよ開幕する。

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