第7話 一馬VS神崎⑧

 泣いても笑ってもあと3分。このラウンドで決着する。ゆっくりと歩み寄る両者。そして拳と蹴りがぶつかり合う。

『初っ端から一馬選手、イケイケだぁ』

 勢いに乗る一馬がリズミカルな攻撃を続ける。それに対し、押し倒そうとする神崎の攻撃は空を切る一方。神崎の顔面にパンチが当たる都度、ダメージの差が開いていく。

「ジリ貧だわ」

 華村が呟くと、その通りのことがリング上でも起こった。

『一馬選手、左のダブル! 神崎選手ダウンだ! ダウンだぁ!』

 ダメージが蓄積した神崎のキャラクターは、なぎ倒されるようにダウンした。だが、打たれ強さによりカウント8で立ち上がることは出来た。

『これでダウンは二回ずつ! ポイントもほぼイーブンになった模様です!』

 実況は間違ったことを言っていない。だが、根本的なことが大きく違う。

「ダウンの数が同じでも、ダメージの差は歴然だ。このまま続けても一馬の勝利は揺るがない」

 東堂はもはや、距離を見切られた時点で勝負あったと見ている。

「なにやってんだよ神崎!」

「最初の勢いはどこへ行った!」

「死ぬ気でやらんかい! 死ぬ気で!」

 神崎派の声援に怒号が混ざって来た。一方、一馬派の黄色い声援には余裕が見える。

「一馬ぁ! カッコイイヨ!」

「そのまま神崎をマットに沈めて!」

「KO勝ちでお願~い!」

 一馬も「任せとけ!」とファンサービスで応じる。神崎は最初から最後まで、筐体に意識を集中する。

 神崎は大振りに攻撃を繰り返す。それをスッテプやダッキング、スウェーでかわし、ロープに詰められても華麗に体を入れ替えてエスケープする一馬。もはや神崎がマットに沈むのも時間の問題に思えた。

「ここまでかしら」

 華村にも諦めが滲み始めていた。流石の神崎でも、すぐに四天王全員を倒せるだけの成果は上げられなかったか。しかし、これだけの逸材をまた見つけ出して潜入捜査を仕切り直すことは難しい。

自分のマッチメイクが無謀だったのか。ブランクは三年もあった。もっと慎重に事を進めるべきだったのではないか。そう自省している華村の横で、豪傑が言う。

「戦っているのは神のごときと称される神崎省吾だ。まだ一発かましてくれる可能性が残っているぜ」

 華村を励ますための言葉だろうが、それはまるで宝くじに当たれば人生が変わる、といったくらいに雲を掴むような話に聞こえた。

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