第7話 一馬VS神崎③

 一馬との決戦日である週末の夜。

 神崎は華村と合流することなく、直接会場へ向かった。四度目のコロッセオ、もう送り迎えが無くても一人で行ける。

 出る試合すべてがメインイベントの神崎。警備も当然のように顔パスで通してくれる。コロッセオに入ると、すでに第一試合の前座が始まっていた。

盛り上がる観客席を通り抜けて進むと、関係者席に華村の姿があった。彼女は「任せたわよ」と短く声を掛ける。神崎は頷いてコロッセオの裏手に回り、選手控室に入った。そこには豪傑がすでにスタンバっていた。

「よう神崎、調整ルームで試合前のアップをするか」

 その誘いに乗って、二人は調整ルームに向かう。

「一馬はもう来ているのか」

 神崎が訊ねると、豪傑はその太い首で頷いた。

「アイツはいつもギリギリの時間に来るのに、今日は誰よりも早く会場入りしたらしいぜ。気合いが入っている証拠だ」

 控室やアップルームは二ヶ所あり、対戦する選手は八百長などの不正行為が行われないよう、必ず分けられている。

 リアルの筐体を挟んで向かい合わせに座ると、豪傑が言った。

「本当に、あの作戦で一馬に挑むつもりか」

 何度もスパーリングを重ねてきた豪傑。神崎が採用した戦略は、常識から大きく逸脱したものだった。

「ブランクがある今の俺にとって、一馬に勝てる手段はあれしかない」

「とても作戦と呼べるような代物じゃねえぞ。一馬の動きを真似た俺が相手でも、三回に一回成功するかどうかだっただろ。本物の一馬だったらさらに成功率は落ちるぞ」

 豪傑の見立てに、神崎は異論を唱えるどころか素直に認めた。

「下手をすれば十回に一回くらいの確率だろうな」

「それが分かっていながら、挑戦するのか」

 並みのプレイヤーなら単なる無謀でしかない。だが神のごときと称される神崎省吾となれば話が違う。この男なら本当に成功させてしまうのではないかというワクワク感がある。

「勝つためにチャレンジするんだよ」

 そう短く言い切る神崎の背中に、迷いは感じられなかった。


 もう一方の控室には、一馬がスタンバイしていた。目の前に迫る決戦に向けて、テンションが高まっていく。

「いよいよ、あの神崎省吾と戦えるのか」

 内から湧き上がって来る興奮が止まらない。自然と体が震えてくる。表舞台でスポットライトを浴びる神崎の活躍を見続けてきた。一馬にとっては憧れのプレイヤーでもある。

「ずっと神崎省吾のようになりたいと思ってプレイしてきた。だが今は、神崎省吾を超えてやりたいとさえ思っている」

 それだけ腕を磨いてきた。今の自分なら、神崎省吾を超えられるはず。

「神崎を倒して勢いをそのままに、東堂との決着をつけてやる」

 十九勝無敗一引き分けの一馬が今夜、神崎省吾と激突する。

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